第43話:強制的な手段
「というわけで、こいつ洗脳されてます」
「……いきなり来たと思ったら、面白いものを連れてきたな」
流血の宮殿、謁見の間。オレがクリスを連れて現れると、クラム様は楽しそうに出迎えてくれた。
相変わらず豪華だが、どこか空虚な部屋で、クラム様はいつも通り悠然と玉座に座っていた。
ちなみに、魔王クリスはちょっと震えてる。
「お前、クラム公と顔見知りなのか……なんなんだ……」
「こやつは妾のお気に入りよ。なに、たまに外の様子を知りたくもなるものでな」
「知り合いだったんですか?」
これはゲームにもなかった情報だ。興味深い。
問いかけると、クラム様は薄く笑みを浮かべながら昔を語る。
「こやつが子供の頃、預かったことがある。暴れ者で困っておってな、ちと物事を教えてやったのよ」
「……なるほど」
さぞ恐かったろうな。この様子だと、教えるとかいう生やさしいものじゃなかったのはよくわかる。
「それで、洗脳か。ちょっと見せてみろ」
「あ、はい……」
進み出る魔王クリス。とても素直である。
「ふむ……たしかにおかしな力を感じるな。クリス、身に覚えは?」
「いえ……なにも」
クラム様がこちらを見た。
「オレも覚えがないんで、困ってここに連れてきたんですよ」
本当に困っている。この展開は、ゲームのどのルートにもなかった。ゲームの重要人物くらい、シナリオ通りに動いて欲しいんだけど。どうなってるんだ。
「では、解除してみるとするか」
なるほど、と頷いた後、クラム様が呪文の詠唱を開始した。
ゲーム的に得られた能力だと、こういうのできないんだよな。羨ましい。勉強すればどうにかなるんだろうか。
しばらくそんなことを考えながら、オレは呪文の詠唱とそれによって輝くクリスを眺め続けた。
十分ほどだろうか、クラム様が詠唱を中断した上でこう言った。
「妾でも解除できなんだ。クリス、お前は何に出会ったのだ」
驚いた様子で言うクラム様。
参ったな、これは想定外だ。他に誰を頼ればいいのやら。
一応、フォミナを呼んで状態異常解除の魔法をかけてもらおうか。あるいはアイテムか? なんか凄い回復アイテムってあったかな?
オレの思考をよそに、クラム様達の会話は進む。
「出会ったと言われましても。覚えがありません、クラム公。ただ、この男と話しているうちに、己の中に心が二つあることに気づき、連れてこられたのです」
「ふむ。洗脳に耐性があるのはさすがは魔王というところか。しかし、困ったな。解除方法を調べるにしても、詳しい事情がわからないといかん」
「それは、難題ですね……」
クリスの詳しい事情を調べるには、帝国にいかなければならない。今まさに侵略戦争を実施中の国にだ。そこで情報収集なんかしたら、どんな目にあうか想像もつかない。
さて困った。この手の魔法はどうすれば解除できるんだろう。
よくある展開だと術者を倒すとか、あとは死ぬ直前に正気に戻ったりするけど。
……死ぬ直前か。
「クラム様。一度殺してから蘇生するというのはどうでしょうか」
「き、貴様何言ってるんだ! 人の心はないのか! ……いや、それこそが人間なのか、恐ろしい……」
クラムが凄い勢いで怒ってから震え上がった。忙しい奴だ。
「蘇生、できるのか?」
「はい。今のフォミナなら可能です」
三次職になり魔法が増えたフォミナは蘇生魔法も取得している。準備的には問題ない。ゲーム的にも一度死んで蘇生すればバッドステータスは解除されてたはずだ。可能性はあると思う。
「……ありかもしれぬな」
「ちょっとクラム公! 人の命ですよ!」
戦争仕掛けてる国の重鎮が何言ってるんだ。こっちはそれを阻止するために頑張って助けてやろうとしてるのに。
「試す価値があるのは事実だ。お前とて、心に何かしらの細工をされているのは嫌だろう? いきなり自分の部下を皆殺しにする命令をすり込まれているのかもしれんのだぞ?」
「う…………」
黙り込むクリス。たしかに十分、想定される事態だ。
「大丈夫。一瞬で済ませてやる」
「他にもっと言い様はないの? 貴様ほんとうに人間か? あと、ちゃんと蘇生してね! ちゃんとね!」
何度も何度も確認した上で、魔王クリスはこの作戦を了承した。
正直、ちょっとびっくりした。
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