第32話:三次職転職所
ザイアムの町の神殿は町の規模と同じく、かなり大きかった。もちろん、大聖堂のあるミレスの町と比べれば大きさで負けるが、大都市に相応しく立派な建物だ。高さで床面積を稼ぐためか、ビルみたいな見た目になってるけど。
冒険者が多い土地柄のためか、内部には転職用の施設を三つ備え、時には整理券も配られるという盛況ぶりだ。それ以外にも様々な理由で訪れる人がいるため、とても賑やかな場所となっている。
そんなザイアム神殿内で、一カ所だけ閑古鳥が鳴いている部屋がある。
「ここが三次職用の転職部屋か。物凄く建物の片隅だな」
「元々倉庫だったみたいですね……。あんまり忙しくない部署だからと追いやられたんでしょう」
オレとフォミナは神殿の地下の端に設けられた、『三次職転職室』にやってきていた。
三次職はその道を究めた者がなれるかどうか。つまり、なり手がいない。そのくせ儀式は二次職と違うので部屋は別に必要。
そんな事情で、三次職への道はとても静かな感じで開かれていた。最初、受付で聞いたとき、戸惑ってたしな。
「ん、おや? ここは三次職転職の儀式室ですよ。部屋をお間違えでは?」
ノックして中に入ったら、老齢のプリーストにそんなことを言われた。
「いえ、三次職に転職したくて来たんですが」
正直に目的を告げると、老プリーストは優しい笑みを浮かべた。
「二次職と違ってそう簡単になれるものではありませんよ。何十年も修行した方がどうにかなれるかどうか、というものでして……」
なんだか優しく諭された。こちらを傷つけないような言い方に慣れている様子だ。
「あの、私達、メタポーを結構倒したんです」
フォミナが横からそういうと、老プリーストは笑みを濃くした。
「ほう。メタポーを。なるほど、わかりました。メタポーを少し狩ったくらいでは三次職への道は拓かれないものですが、あなた方はそれでは納得できないでしょう」
言いながら、近くの棚へ向かう老プリースト。
多分、メタポーを何匹か狩って、いけると踏んだ若い冒険者が来るんだろうな。たしかに数十匹くらいのメタポーじゃ三次職転職は無理だ。
しかし、オレ達の狩った数は並じゃない。途中で数えるのを止めたけど、ゆうに千匹以上のメタポーを狩っている。ゲーム的にはレベル九九を超える経験値を稼いできたのだ。
「これは『三次職試しの儀』の石版です。これに触れることで、あなた方に三次職になる資格があるか判断できるでしょう」
「はい」
「うわあああ! 光ったぁあああ!」
手を置いたら魔法陣がとても美しく、七色に輝いた。ゲーミング石版だ。
「じゃあ、私も」
「うわぁあああ! こっちも光ったぁぁああ!」
老プリーストは二度続いて悲鳴のような雄叫びをあげ、その場に腰を抜かして座り込んだ。リアクションが激しい人だ。
「あ、あなた方は一体、どんな修行を積んだのですか? それとも二神の加護でも受けたのですか?」
「メタポーを沢山狩っただけですよ。転職、お願いします。できますよね?」
「……少々お待ちを。……十五年ぶりに本来の業務ができるぞぉ。それも同時に二人!」
なんだか嬉しそうにしながら、老プリーストは奥にある別室に駆け込んでいった。
「十五年ぶりって……。大丈夫なのか?」
三次職が珍しいのは理解したけど、儀式をちゃんと行えるのか心配になる年数だ。
「き、きっと大丈夫ですよ。儀式の法陣は神のご加護で保護されていますし。三次職専属の方は定期的に儀式のマニュアルを読み返す決まりになってますから」
「それ、儀式の手順を忘れる人がいたからできたルールだと思うんだけど」
「……たしかに。大丈夫でしょうか?」
オレが聞きたい。
ちょっと不安が立ちこめる、次なる転職が始まろうとしていた。
無事に終わって欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます