第31話:限界までやりました

 メタポー狩り十日目、フォミナが限界に達した。

 きっかけは、合計三体のメタポーが現れたことだ。オレが魔法をかけるよりちょっと早く、向こうが喋り出した。


「なんかこの姉ちゃん。好きな相手と付き合ってる妄想日記とか書いてそうだな」

「一番側にいるというポジションにあぐらをかいて負けるタイプ」

「重そう」

「…………っ」

 

 静かに爆発したフォミナが手に持つ杖で、洞窟の壁を殴りつけた。メタポーを殴らなかったあたり、ギリギリで保った理性を感じさせる。攻撃すると逃げるからな。


「レストタイム、デッドポイズン」

「ぷぎぃ……」


 聞き慣れた断末魔と共に、メタポー三体が絶命。

 それよりも問題はフォミナだ。


「……………」

「あの、フォミナさん?」

「……マイス君も、私のこと、そういう風に思ってますか? 妄想日記書いてるとか、重そうとか」

「滅相もない」


 あいつらが口にするまで、そんなこと微塵も思いつかなかった。いざ聞くと「確かに……」とちょっとだけ思ってしまったが、それは悪いイメージだ。


「いま、ちょっとだけ思ったっていう顔になったんですけど」

「気のせい気のせい。それに、オレはそこまでフォミナを悪く見れないよ。ここまで協力してくれるんだし」


 これは本心だ。怒りの力でフォミナは十日間、ぶっ続けでこの単純作業に付き合ってくれていた。正直、三日で飽きると思ったんだが。


「そうですか。ありがとうございます。ずっと、アレを見てたせいで、少し疲れてたみたいです」

「たしかに、あいつら無駄に悪口が上手いんだよな」

「ホントそうですよね……」


 疲れた様子でフォミナが呟く。


「よし、メタポー狩りはこれで一度終わりにしよう。もう十分やったしな」

「え、いいんですか?」

「もちろん。予定より長くやってたくらいだ」

「それを早く言ってください・・・・・・」


 さすがにこれ以上フォミナにこの作業に付き合わせるわけにはいかない。そもそも、十連勤なんてブラック労働をやってしまって反省だ。なんかレベルアップのおかげか、妙に体調がよくて続けてしまった。

 

「そろそろいけると思うんだよね。三次職」

「たしかに……そんな気がします」


 数値としては見えないが、メタポーの高経験値は本物だ。ここ二日くらい、妙に体が軽いし、感覚が鋭くなっている気がする。本格的にステータスが向上して、世界の見え方が変わったのかもしれない。

 フォミナの方もその自覚があるらしく、たまに現れる通常モンスターを殴ったりして、成長を確認していた。


「今日はもう帰って、明日は転職しに神殿に行こう。それから少し休もうか。十日間ぶっ続けだしね」

「十日もやってたんですか……全然気にしてなかった。あいつらが消えるのを見るのがちょっと楽しくて」


 黒い感情を覗かせながらフォミナが言った。なぜかメタポーの口撃は全部フォミナに向かってたからな。

 やはりこれ以上は危険だ、このままではフォミナがヤンデレ属性を獲得してしまう。……もともとそっちの素質があるような気はしてたしな。

 

「じゃあ、明日は朝から神殿。それからどうしようかな。なんなら自由行動とか……」

「か、買い物いきましょう。あと、冒険者ギルドも。次は依頼をこなす番ですからっ!」


 おお、フォミナはやる気だな。ありがたいが心配だ。少しはゆっくり休んで欲しいのに。

 とはいえ、やる気を削ぐようなことはしたくない。


「わかった。明日はそれでいこう」

「はい。二人でおでかけですね!」


 先ほどまでの暗い表情は何処へやら、いつもの可憐な笑みと共に、フォミナは返事をしてくれた。

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