第17話:転職パワーと…
「レストタイム!」
「エクソシズム!」
オレの眠りの魔法とフォミナの浄化の魔法が、流血の宮殿二階に響き渡る。
目の前にいた三メートルはある巨大な骸骨と、それに連なる数十の骸骨が眠ったまま一斉に消滅し、魔石と化す。
今のモンスターはガシャドクロ恨。このダンジョン特有のアンデッドモンスターだ。二階になると出現モンスターが強くなり、数も増える。
おかげで、オレとフォミナの狩りは順調だった。
昨日、セアラさんと遭遇した後は楽しく過ごすことができた。魔法屋に行って新たに使える魔法を確認、その上で各種アイテムを購入。
懐も潤沢なので、使えそうな高級品や回復アイテムを買い込ませて貰った。
「うん。やっぱり二次職は違うな。強くなってる感じがする」
「浄化できる確率が段違い、凄いです」
オレとフォミナの装備も一部変更した。
まず、杖がルビーロッドからウィザードロッドに。これは転職後すぐに装備するもので、もっと強いのも買えたんだけれど、「魔法攻撃力+5%」という特殊効果がおいしいため選ぶことにした。どうせなら状態異常付与とかできるやつが欲しいんだけれど、それは店売りじゃない。
他にもアクセサリとして先制の腕輪というマジックアイテムを二つ購入。前までつけてた風のスカーフと一緒に腰に巻いて下げている。なんでも、正直に首とか腕につけなくても効果があるらしい。お店の人が教えてくれた。
「こうも順調だと、ここが恐ろしい吸血鬼の宮殿だという噂を忘れてしまいます」
「それは噂じゃないよ。吸血鬼は本当にいる。最上階に」
「帰りたくなってきました」
「でも、最終的にはそいつに会うのが目的だし」
「初耳ですよ!」
その通り、今初めて伝えた。
抗議の目線でオレを見てくるフォミナも杖が変わっている。浄化の杖という百万シルバーするマジックアイテムで、なんとターンアンデッド成功率が10%向上する。そして、胸と腰にはさりげなく聖印が一つずつ下げられている。さすがに首から二個は抵抗があったらしく、聖印はつける場所を変えられたのだ。
二次職になったフォミナは範囲浄化魔法であるエクソシズムを行使可能。オレの範囲睡眠魔法レストタイムと組み合わせることで、凶悪な威力を発揮していた。
二階は敵が多いだけあって、物凄い勢いで魔石が溜まる。多分、一日で五百万シルバーとか溜まるんじゃないかな。
「そういえば、流血の宮殿にどのくらいの期間いるとか、聞いてませんでした」
「ごめん。オレもちゃんと話すべきだったわ。一応、三階で狩りまくって三次職になったら、吸血鬼に会いに行ってちょっと話をするつもり」
「さん……三次職って、まずなれないんですよ? 達人が一生かけて最後に到達するかどうかなのに」
たしかに、ゲームだとレベル六〇以降の経験値テーブルがおかしくなってて、普通のダンジョンだとレベル八〇到達はまず無理。隠しダンジョンに潜るか、イベントをこなさなきゃ、三次職はかなり遠い。
「ここの三階にいけばもっと美味しい敵がいるからいける」
「……そんなはずは。いやでも……」
このぶっこわれダンジョンでのこれまでの収入を思い出して、可能性に思い至ったんだろう。察しが良い。
「正直、稼げるだけ稼いじゃえっていう気持ちは出てきますね……」
「だろう? ここの主は最上階の自室から出てこない引きこもりだからな。安心して暴れることができる」
「引きこもりって、どこで手に入れたんですか、その情報……」
「まったくだ。失礼だのう」
「!!」
いきなり後ろから女の子の声に割り込まれ、オレとフォミナが即座に反応した。
先ほどまで誰もいなかったはずの廊下に、それがいた。
振り返った場所にいたのは、銀髪の少女だ。十代前半に見える、人間離れした造形の、まるで精巧なCGみたいな女の子だった。
背中まで伸びたストレートの銀髪に紅い目を持つ少女は口を開く。
「どうした、雑談は終わりか? 他人の会話を聞くのは久しぶりだからもっと楽しみたいのだが」
不適な笑みを浮かべながらいう少女の口元からは、尖った牙がのぞいていた。
吸血鬼クラム。二階などに居るはずのない宮殿の主が、そこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます