解答と解説【試行問題】

問一

 既に死んだはずのユウコに触れられることはおかしい一方、死体の手が冷たいこと自体は当然であったから。


解説

 解答するべき要素は「何がおかしいのか」と「何が当たり前なのか」である。設問部冒頭には「それは」と指示語があるので、指示する内容を確認すると、ユウコの手の温度が「土に触れた時の冷たさ」であったことを指している。なぜ冷たいのか、さらに戻るとユウコの「ほら、死体って冷たいでしょ?」というセリフがある。よっておかしいのは「死体に触れられること」で、当たり前なのは「死体が冷たいこと」であると分かる。



問二

 ユウコに質問をしても納得のいく答えが得られず、答えに対しさらに質問を重ねる様子。


解説

 全体が比喩表現であるため、前後の文脈を把握しながら比喩が指す内容を押さえていく。

 押さえるべき内容は「辞書を引く」「意味の説明の中にある言葉をまた引く「堂々巡り」がそれぞれ何を指しているか、である。この表現の直前は「私」がユウコに質問を二回、ユウコが回答を二回する、というものになっている。「辞書を引く」のは意味の分からない言葉を調べることであるから、「意味の分からないこと」=「質問内容」と置き換えれば、「辞書を引く」ことは「ユウコに質問する」ことの比喩である。「意味の説明の中にある言葉をまた引く」は、「意味の説明」=「質問の答え」、「また引く」=「再度質問する」と置き換わるので「質問の答えの内容に対し、さらに質問する」ことの比喩である。「堂々巡り」は「議論や思考が進まず、同じ所を巡る」という意味。前述の二つの比喩に対して「堂々巡り」するのだから、「質問を繰り返しても納得できない、核心に至らない」ということになる。



問三

 私の誕生日だから会いに来たというのが想定していた答えだったが、ケーキの話をした時に笑顔を見せたり、自分の言葉に素直に返事をしたり、強がりながら問いに答える様子に、自分の死を克服しようとする私の思いを見て満足したから。


解説

 国立大二次試験に頻出の「本文全体を踏まえる」ことを求めた問題である。まず考えるべきは「ユウコの想定していた答えは何か?」であろう。設問部の冒頭には「でも」という接続詞がある。「でも」は「前の事柄を肯定しつつも、それが予想されるものには反する内容を導く接続詞」で逆接である。よって、私の答えは間違っていたことになる。

 では正しい答えは何か。タイトル、ユウコがケーキを私にプレゼントしたこと、私の「ロウソクなんて、うちあったかな……」というセリフを見れば「私の誕生日だから」と読み取れる。

 では、誤った答えをなぜユウコは許容したのか、というのが次に考えるべき内容になる。「本文全体を踏まえる」という指示に従えば、一人称小説である以上、主人公の「私」の変容に注目することになる。すると、ケーキを買いに行くあたりを境にして、私の様子に変化が見られることが分かる。前部では「そもそも、訊くべきではなかったのかもしれない」「気の進まない提案だった」「ユウコは肝心な所で、私のことを全然わかっちゃいない」「そこから先、もう声が出なかった。怖かった、のかもしれない」と、状況に対し否定的・消極的な表現が目立つが、後部からは「私も、やっと少しだけ笑えた」「バカ、何がしまっただよ」「今度は私が、仕方ないなって、そう目を細めて」「ありがとう」「どうしてだろう、その時だけは温かかった」「ファイナルアンサーだ、ばーか」など、肯定的・積極的な表現が増える。


「あんまり、強がっちゃだめだよ。ほどほどとか、まあまあとか、嘘ばっかついてさ」

「うん」

「代わりに、もっと強くなってね」

「……うん」


 という会話を見ると、ユウコは単に誕生日だからというだけでなく、残された私のことを心配して来たことが分かる。ちなみにこの部分で「私のことを全然わかっちゃいない」と思っていたユウコが、本当はちゃんと私の気持ちを分かっていたことが伏線になっている。以上の点から、「自分の死を乗り越えようとする私の変容を見た」ことが、ユウコが誤った答えを許容した理由になるだろう。

 余談ではあるが、実際には最後に「ロウソク」の話を私がしていることから、私はユウコが誕生日を覚えていて還ってきたことは分かっている。ユウコは私が本当の答えに気づいていながら、強がってわざと違う答えを言ったことも分かっていただろう。

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