二 堕天使との決戦へ

 気がつけば、一ヶ月近くも時が流れていた。今日を含めてあと三日ほどで、祠の管理人さんとの約束の時を迎える。

 青々とした葉を茂らせていた木々が赤や黄色に色付きはじめ、イチョウやカエデが美しく紅葉し、立ち止まって見入る人々を魅了していた。

 時間が経つのも忘れて、美しい紅葉に見入る人々の背後を、青白い顔をした女子高校生がひとり通り過ぎて行く。

 おさきまっくら、もうこの世の終わりと言いたげに絶望的な表情をして帰宅した赤園まりんは二階に上がると、制服のまま自室のベッドへ倒れ込んだ。

 どうしよう……堕天の力が……まだ使えない。

 ベッドに突っ伏した状態で、堕天の力を失った時からちっとも変わらない現状にまりんは焦る。ここ数日間、学校やバイト先で暇を見つけては人知れず堕天の力が復活することを願い、必死で努力をしてきた。しかし、そんなまりんの努力の甲斐無く、堕天の力は一向に復活する気配を見せない。

 祠の管理人さんとの約束の日まで、残り三日。それを考えると気が気じゃない。

 あれから、堕天使の行方も分からず、LINEでやりとりはするものの、シロヤマとも顔を合わせていない。何故、どうして急に堕天の力が使えなくなったのか……その答えは未だ風の中である。

 もう何もやる気になれず、ベッドに突っ伏したまま、まりんは目を閉じた。それからどのくらい時間が経っただろうか。ふと目を開けたまりんは、のそのそとベッドから起き上がった。ベッド脇の、サイドテーブルの上に置いた時計の針が午前七時ちょうどを指している。いつの間にかベッドの上で寝落ちをしてしまったらしい。今日は学校もバイトも休みの土曜日。なのだが……いつもの調子が出ない。まぶたと頭が重く、普段よりも体の動作が鈍い。

 ピンポーン

 この家に来客者が到着したことを告げるインターフォンの音で自室から出るとまりんは、重い足取りで階段を降り、玄関に向かうと戸を開けた。

「やぁ……久しぶり」

 玄関先で来客と対面した途端、まりんの目が驚きと興奮とでまん丸くなった。

「シロヤマ!」

 片手を振って、曖昧な笑みを浮かべる、元気そうなシロヤマの姿を目にし、安堵感からかふっと気が抜けたまりん。咄嗟に体が動き、倒れかけたまりんの体をシロヤマが抱き抱えた。

「まりんちゃん?!」

「ごめんなさい……昨日の夜から、何も食べていなくて……朝、起きたら頭は重いし、体はだるいしで……」

「相当、疲れているみたいだね……あっ、そーだ、キッチン借りていい?今から体に優しい朝食を作ってあげるよ」

 我ながらにナイスアイディア!とにんまりしたシロヤマはそう言うと、

「いいわよ。キッチンはこの奥だから……」

 と返事をしたまりんからの許可を得て、玄関を戸締まり、靴を脱いで上がるとまりんをお姫様抱っこした。

 一階リビングのソファーにまりんを寝かし、着ているダークスーツのジャケットを脱いでまりんにかける。次にダイニングを抜けてキッチンへと移動したシロヤマ、指をパチンと鳴らして出現したグレーのエプロンを身につけて調理を始めた。

 ガスレンジの火で熱せられた鍋の湯が沸騰する音、手際の良い包丁の音が心地好く、うとうととしていたまりん、美味しそうな味噌汁の匂いにかれ、目を覚ます。ソファーから起き上がり、シロヤマのジャケットを羽織って隣のダイニングへと移動、椅子に座るまりんを背に、シロヤマが手際よく朝食を作っている。

 そう言えば昔、ゆず兄があーやって朝食を作ってくれたことがあったけ。

 まりんがまだ小学生だった頃、当時高校生だった長男の柚輝ゆずきが体調不良の母親に代り、朝食を作ってくれたことがあった。調理をするシロヤマの後ろ姿が、その当時の兄と重なって見え、テーブルに頬杖をついて見守るまりんは、懐かしむように微笑んだのだった。

「おまたせ」

「ちゃっかり、自分の分も用意しちゃって……」

「これは朝食を作った人の特権だよ。それに……ごはんは一人で食べるよりも、二人で食べた方が美味しいしね!」

 小鉢に盛り付けられた切り干し大根、キュウリやナスの浅漬け、皿にはだし巻き卵と焼き鮭を、お椀には豆腐とわかめとネギの味噌汁、茶碗におかゆを装ってテーブルに並べ終え、呆れるまりんの向かい側の席に着いたシロヤマが気さくにそう言ってウインクした。

「いただきます」

 シロヤマ手製の味噌汁を一口飲み干したまりん、目が覚めるような、カツオ出汁が利いた味噌汁は、まりんの想像をはるかに超えるおいしさだった。

「シロヤマの言う通りだね」

 匙で以ておかゆを一口食べ終わった頃、照れ臭そうに微笑みながらまりんはふと口を開く。

「一人で食べるよりも、二人で食べた方がおいしいわ」

「でしょ?」

 おいしい朝食に、こころの底から感想を述べたまりんにシロヤマは、満足げに微笑みながら返事をしたのだった。


「洗い物までやってもらって、申し訳ないわね」

「いやいや……こうして、洗い物をするまでが朝食作りだから」

 シロヤマのジャケットを羽織って椅子に座ったまま、申し訳なさそうに微笑みながら告げたまりんに、背を向けて洗い物をするシロヤマが、気さくにそう返事をした。

「シロヤマが来てくれて、本当に助かったわ。この家に越してきて半年以上が経つけれど……自力で何も出来なくなるくらい体調を崩したのは、これが初めてよ」

「このどころ、のっぴきならない出来事続きだったからね……その疲れが出たんだよ」

 スポンジと洗剤で以て朝食後の食器類を洗いながら、シロヤマはそう言ってまりんを気遣った。

「そうかもしれないわね」

 穏やかに微笑みながら返事をしたまりんは不意に俯くと重い口を開く。

「ねぇ、シロヤマ……私ね、なんでかは分からないけれど……堕天の力が、急に使えなくなっちゃったの」

「えっ……?」

 まりんによる不意打ち発言は、洗い物をする手を止め、驚きの表情で振り向いたシロヤマにとって、予想外だったらしい。冷静さを保ちつつもまりんは話を続ける。

「今から一ヶ月くらい前……冥府役人のエディさんに扮する祠の管理人さんの攻撃から、細谷くんを護るために結界を張ろうとしたら出来なかったの。

 大魔王シャルマンが結界を張ってくれたおかげで事なきを得たんだけど……その時に気付いたのよ。堕天の力が使えないことに。それから今までずっと努力してきたけれどまだ、堕天の力が使えないまま……このままじゃ私、堕天使と対戦することも出来ない。私が堕天使と契約状態にあることが、祠の管理人さんにバレて、重罪人になってしまう……もう、どうしたらいいのか、分からないの」

 心許せる関係にあるシロヤマの前だからこそ、重い本音を吐露したまりん、心の底から途方に暮れるその顔が、暗い影を落としている。しばし無言で、まりんを見詰めていたシロヤマ、凜然たる表情でパチンと指を鳴らす。神力で以て、途中だった洗い物を残さず片し、水気が切れた食器類を棚の中や引き出しにきちんと収納した。

 エプロンをしたまま椅子に座り、まりんと向かい合ったシロヤマが真剣な面持ちでまりんの相談相手になる。

「堕天の力が使えなくなったのには、きっとそれなりの理由がある筈だ。それがなんなのかが分かれば解決するかもしれない」

「それなりの、理由……」

「なにか、心に衝撃的だった出来事がきっかけだったりするのかも……じゃなきゃ、今まで使えていた力が急に使えなくなるなんてことないし……スランプ的なものに、まりんちゃんはいま、なってるんじゃないかな」

「スランプ……」

 シロヤマが口にしたヒントを基に思案することしばし。はっとしたまりんはようやく、スランプの原因に辿り着いた。

「喫茶グレーテルで、シロヤマが私にしてくれた告白……それがきっと、スランプに陥るきっかけだったのかもしれないわね」

 冷静沈着に口を開いたまりんとは対照的に、原因は俺かっ!と内心叫んだシロヤマはポーカーフェースをしつつも動揺。

「まりんちゃんを想う俺の告白……そんなにショックだったんだ?」

「いま思えば、いい意味でショックだったんだと思う。あの時の私は、とにかく頭が混乱していて……それからいっぱい考えて、悩んで、苦しんで……それがいつの間にか、スランプになる原因になってしまうなんて」

 本命はたった一人だけ。今すぐ返事をすれば、その人と両想いになれる。けれど……もしもどちらか一人を振ってしまったならもう二度と、二人とは良好な関係でいられなくなってしまうかもしれない。

 どちらか一人を振っても振らなくても、私は嬉しくないし幸せにならない。その人が、私の目の前から去ってしまうのが怖い。良き理解者でもあり、好きな人でもあり、友人でもある二人との、居心地の良さも感じる今の、この関係が壊れるのは嫌だ。

 そんな想いから逃げ出した結果、まりんはスランプに陥り、堕天の力が使えなくなってしまったのである。

 それならもう、逃げてられないわね。いつまでもこんなことをしている暇はないもの。

 すー……と深呼吸をしたまりん、真剣な面持ちでシロヤマを見詰めると、覚悟を決めた。

「まさかの、このタイミングで本当に申し訳ないけれど……告白の返事をするわ。私は、シロヤマのことは好きよ。今も、これからもずっと……けれど、私がシロヤマに抱いている好きな気持ちは、愛する家族とか、親しい友人知人に向ける感情で、恋愛対象にはならないの。だから……ごめんなさい。シロヤマの気持ちには応えられないわ。こんな私を、好きになってくれてありがとう」

 最後にそう告げてまりんは微笑むと、愛おしくシロヤマを見詰めた。

「そっか……」

 不意を突かれ、半ば放心状態と化すシロヤマ、

「そうだよな……うん、これで良かったんだよきっと」

 自身を納得させると改めてまりんと向き合い、口を開く。

「振られちゃったけど、まりんちゃんのことが好きな気持ちは変わんないから……だから、これからも友達として仲良くしてくれる?このまま、まりんちゃんや細谷くんと離れ離れになるのは、嫌だから」

 なんだか吹っ切れた様子で、気さくに微笑みながらもシロヤマはまりんにそう告げたのだった。

「もちろんよ」

 安堵の笑みを浮かべたまりんはそう、静かに返事をした。シロヤマが大人な対応をしてくれたおかげで、まりんが怖れていた最悪の事態にならずに済みそうだ。

「それで……こんな朝早くから、シロヤマは何しにここに来たの?」

「まりんちゃんに知らせに来たんだよ。堕天使が、すぐそこまで迫ってきているってね」

 安堵したのも束の間、何食わぬ顔でしれっとシロヤマがそう告げてぎょっとしたまりんが憤怒した。

「それを、なんでもっと早く言わないのよ!」

「言おうと思ったけど玄関先でまりんちゃんが倒れたから、それどころじゃなかったんだよ」

 困ったように微笑みながら、シロヤマがそう言って言い訳をする。

「おかげで結構ゆっくりしちゃったじゃないの!実は切羽詰まった状況だったなんて……」

 溜息を吐いて憤るまりん、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「堕天使の狙いが私なんだとしたら、大好きだったおじいちゃんとおばあちゃんが遺してくれたこの土地と家が、戦闘で壊滅状態になりかねないわ。それを避けるためにも、早くここを発たないとっ……!」

 気持ちを切り替え、冷静になったまりんがそのように呟いた時だった。

「その必要は無いよ」

 椅子から勢いよく立ち上がったまりんに、穏やかな表情で椅子に座ったまま、シロヤマがやおら口を開く。

「天神アダムが張った結界により、この家と土地は保護されているから。それにもう、戦闘は始まっているしね」

「なっ……」

 妙に落ち着いているシロヤマに言葉を失い、椅子から立ち上がった状態でしばし放心状態と化すまりん、はっと放心状態から覚めると急いで家を出る。

 玄関で靴を履き、戸を開けて家から飛び出したまりん、面前に広がる光景に、思わず目を丸くした。金色の輪がはまる耳にかかるくらいの銀白色の髪に、マントを身に纏う男性の後ろ姿。神々しい雰囲気を漂わせて、その先にそびえる鉄柵の門を挟み、堕天使と対峙している。

「天神……さま?」

「うん。俺が、まりんちゃんちに来てからずっと、堕天使と対峙してる。アダムが言うには、堕天使の相手は、互角の力を持つ自分自身じゃないと務まらないらしい」

 玄関の戸口の前で茫然と佇むまりんに返事をしたシロヤマは左隣に立つと静かに告げる。

「まりんちゃん、一度、家の中に戻ろう。堕天使討伐について、大事な話があるんだ」

「分かったわ」

 シロヤマに促され、まりんは返事をすると家の中に戻った。そしてまりんは、玄関の戸を背に佇むシロヤマから、堕天使討伐についての説明を受けることになったのである。

「まずは、この短剣をまりんちゃんに託す。天神アダムが、堕天使が封印されていた祠の上に建つ、古びた日本家屋の中から見つけ出し、俺からまりんちゃんに渡すように頼まれたんだ。その短剣には、堕天使を封印することの出来る力が宿っている。天神アダムによって、堕天使の力が弱められた時がチャンス……まりんちゃんが堕天使を封印するんだよ」

 いつになく真剣な表情でまりんに掛け合うシロヤマから、堕天使を封じることの出来る短剣を託され、まりんは困惑の表情をした。

「私が……堕天使を……?」

「本当は、こんなに危険なことをさせられないから他の誰かにやらしたかったんだけど……堕天使との契約者であるまりんちゃんじゃなきゃ、務まらないことなんだ。引き受けて……くれる?」

 いきなりそんなことを言われても困る。スランプから脱したかどうかも分からないのに……天神アダムやシロヤマが援護してくれるのならそりゃ心強いけれど、相手は天と地を揺るがすほどの強大な力を持つ堕天使だ。封印に失敗したら、大きな代償を払うことになるだろう。だが、堕天使を封印することで契約が解除され、元の体に戻れるのなら、ここで頑張らないわけには行かない。

「……分かったわ。その役目、私が引き受けようじゃない」

 悩み、葛藤した末、まりんはとうとう、堕天使を封印する覚悟を固めたのだった。



 まりんの家の鉄柵を挟み、天神アダムと堕天使双方が対峙する。その場に佇む天神アダムが徐に、右手に持った指揮棒サイズの杖を振り上げた、次の瞬間。銀色に光り輝く龍が出現、アダムが杖を振るのと同時に目にも留まらぬ速さで前方へと飛んで行く。堕天使が、こちらに向かって飛来する龍をいちげい、一瞬にして龍を凍らせると破砕した。

 堕天使による、裂帛の気合いとともに堕天の力が発動、巨大なエネルギーとなったそれは電柱や木々、アスファルトの路面や近隣の家々を消し去り、広大な砂丘へと変貌させ、天神アダムが張り巡らす結界に牙をむき、振動させた。

 赤園まりんの土地と自宅、その周辺にまで二重に結界を張って正解だったな。

 堕天の力を振る舞い、気合い充分の堕天使と対峙する天神アダムは、冷静沈着に次の一手を思案する。

 ヤツはまだ、本気ではない。早々に事を運ぶには、本気を出される前にかたをつけねばなるまい。

 そこで、アダムはぴんと閃いた。そうだ、この手で行こう。

 赤園まりん宅の玄関にて、家主のまりんと向かい合っているシロヤマのスマホに着信が入る。

「シロヤマ……スマホに着信みたいよ」

 まりんはそう言って、徐に羽織っていたジャケットを脱ぐと、シロヤマに返却。

「ありがとう」

 気さくに礼の言葉を述べて受け取ったシロヤマは、ジャケットの内ポケットの中からスマホを取り出し、着信相手を確認する。

「……天神さまからだ。俺に、なんの用だろう」

 訝りながらもシロヤマはスマホで以て天神アダムと会話をする。

「天神さまが、まりんちゃんに代わって欲しいってさ」

 電話口で二言三言やりとりをした後、シロヤマは真顔でそう告げると、スマホをまりんに手渡した。怪訝な表情をしながらも、シロヤマからスマホを受け取ったまりんが天神さまと会話をする。

「天神さま、なんだって?」

「堕天使討伐にあたり、力を貸して欲しいって……思いのほか、苦戦しているようね」

 真顔で電話を切り、シロヤマにスマホを返却したまりんはそう言うと、堕天の力で以て出現した真っ赤なコートを着用する。

「どうやら、スランプは脱したようね。こんな格好をするのは久しぶりだわ」

 赤いコートを着て、フードを被ったまりんは、

「神さまに呼ばれたから行って来る」

 思わず脇に退いたシロヤマにそう告げて、玄関の戸を開けると外へ飛び出して行った。

「待って、まりんちゃん!俺も行く!」

 シロヤマも慌てて家の外に出るとまりんを追いかけた。

 家から飛び出したまりんは思わず立ち止まると、目を丸くした。自宅と、庭などを含むその土地を残し、見渡す限りの砂丘が広がっていた。

「これは一体……どうなっているの?」

「もしかしたら、堕天使の仕業かもしれないね。ここは天神さまの結界に護られているから無事だったけれど……」

 やっとまりんに追いついたシロヤマがそう、険しい表情をして返答する。

 どこまでも下劣なやつ……!

 強い憤りを覚えたまりんは前方にいる堕天使を睨めつけると歯噛みする。

「待っていたぞ、赤園まりん」

 シロヤマと一緒に駆け付けたまりんが姿をみせるや、気取った笑みを浮かべて振り向いた天神アダムが威厳のある口調でそう告げた。

「私は、なにを手伝えばよろしいでしょうか?」と、真剣な面持ちのまりん。

「この私と握手をしてくれれば、それで充分だ」と、手を差し伸べた天神アダム。

「握手……ですか?」

「不服か?」

「いいえ……ただ、拍子抜けしただけです」

 冷静に否定するとまりんは、天神さまと握手をする。

「これだけで、神さまのお役に立てられるのでしょうか……」

「ああ、大いに役立つ」

 顔色ひとつ変えず、声の調子を保ちつつもアダムはそう告げてまりんから離れると背を向けた。アダムは再び杖を振り上げ、神通力で以て金色に光り輝く龍を創り出す。

「今度の龍は、先ほどよりも数倍強力だ。本気となった私の力……その身で以て受け止めよ!」

 アダムが杖を振るのと同時に目にも留まらぬ速さで金色の龍が前方へと飛んで行く。

 フッ……なんどやっても、同じことだ。

 堕天使が内心、アダムを嘲ると余裕のある笑みを浮かべる。そしてこちらに向かって飛来する龍をいちげいした堕天使は目を丸くした。赤園まりんが、金色に光り輝く龍の背に乗り、こちらに向かって突撃してくる。いちげいする堕天使の力が、龍にもそれに跨がる赤園まりんにもまったく効いていない。はっと気付く頃には、数倍強力となった金色の龍がすぐ目と鼻の先まで迫っていた。

 完全に逃げ時を失った堕天使は両手を広げ、突撃してきた金色の龍を受け入れる。金色の光となった龍の中から姿を現した赤園まりんを、堕天使はハグした。

「握手をした赤園まりんから堕天の力を借り、通常の数倍強力となった神通力で以てお前の動きを封じた。堕天使よ、我が天神の庇護の下にある赤園まりんと契約したのが運の尽きだ。最後は、自身の力でほろびるがよい」

 神々しいオーラを放ちながら、威厳に満ちた真顔でアダムは天神らしく堕天使に向かってそう言い放ったのだった。

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