七 祠の管理人……さん?

 癒やしの力で以て詩音が手当をしてくれたおかげで、左肩に生じた掠り傷が治癒したまりんはお礼を告げると、堕天使と決別したことで仲間でないことの証明となり、琥珀と詩音の二人を納得させることに成功。まりんを地獄まで連れて行く意味がなくなったとして、地獄へ引き上げていく二人を見送った。

 そして、ひとりその場に居残ったまりんは、口を真一文字に結んで体の向きを変えると、背にしていた喫茶グレーテルへと戻った。

「シェルア、ちょっと話があるんだけど」

 喫茶店のガラス戸を開けて店内に入ったまりんは真顔でシェルアのもとへと闊歩するなり開口一番そう告げた。その間、シェルアが背にして佇むカンター席の前のフローリングにシロヤマは寝かされたまま、目覚める様子はなかった。

「安心安全のここから出たら、私を堕天使の仲間だと信じて疑わなかった地獄の番人がやって来たうえ、堕天使まで出現したわ。私が体を張って仲間じゃないことを証明したから番人の彼らは地獄に帰って行ったけど、堕天使は私が最大級の、堕天の力を使って闇に葬ったわ。あの堕天使は、あなたの仕業ね?」

 分かりやすく簡潔に事の顛末を説明した後に、鋭い質問を投げ掛けたまりんと対面するシェルアは気取ったように含み笑いを浮かべて返答する。

「よく分かったな。あの堕天使が、俺の仕業だということに」

「本物の堕天使とはさっき会ったばかりだし、堕天使が生命を維持するために人間の魂を食らうのなら、殺す時にでも私の魂を食らっていた筈だわ。それなのに、私を殺した彼はそれをしなかった。それでおかしいと思ったのよ。それと、ほんの少しだけど、堕天使からあなたと同じ闇の魔力の気配を感じたしね」

「素晴らしい洞察力だ」

 わざとらしくまりんを賞賛したシェルアはあっさりと白状した。

「そうだ。あの堕天使は、俺が闇の魔力で以てつくった幻影だ。お前を地獄へ連れて行くため、この世にやって来た地獄の番人どもが目障りだったんでな……お前と堕天使が仲間割れを起こしたように見せかけたんだ。本物そっくりに創ったと思ったんだが……お前がここまで洞察力に優れているとは想定外だったよ」

 これもわざとらしく言っている、と気にくわない目つきでシェルアを睨めつけたまりんは直感で判断した。

 まりんの推測が正しければおそらく、シェルアは知っていたのだろう。まりんが安心安全が保証されるこの場所から出たその瞬間に地獄の番人と鉢合わせることを。そして己の闇の魔力で以て堕天使の幻影を創り、まりんと戦わせて仲間割れが起きたように見せかけた。それをすることで堕天使と決別したまりんが必然的に仲間じゃなくなり、堕天使とは無関係になるように。

 結果、命懸けで堕天使の幻影と戦ったまりんは、まりんが堕天使の仲間だと信じて疑わなかった地獄の番人を納得させ、和解した。これら全てがシェルアの思惑通りだったとしたら……悔しいと思う反面、シェルアはやっぱり優しい魔王さまなんだなとまりんは密かに感謝をしたのだった。



 喫茶グレーテルの外側では、加勢する綾さん、精霊王とともに細谷くんが、結界越しからエディさんと対峙している。

「このままじゃ、らちが明かないな」

 真顔でそう、静かに呟いたエディさん、右手に携えている剣を振るい、青紫色の光線を撃つ。エディさんが片手で振るった剣の先端から発射した光線が瞬時に刃の形となり、飛来するその先に張り巡らされた結界に食い込んだ。

「その光の刃は、いつものより強力だ。それが食い込んだ時点で、君達が張った結界は終わりを告げる」

 もっか、槍を片手に佇む細谷くんと冷静沈着に佇む綾さん、精霊王の周囲を囲む半円形の結界が、まるで巨大な風船が破裂するように破けた。エディさんの言う通り、細谷くん、綾さん、精霊王の力が合わさった特別頑丈仕立ての結界が終わりを告げた瞬間だった。

「くっ……!」

 破られた結界の風圧を体中に受けながら地に足を付けて踏ん張った細谷くんが歯噛みする。

 あれだけ頑丈にした結界を一撃で……次の攻撃を受けたらもうおしまいだな。

 武器となる槍を盾代わりに構えると細谷くんは、更なる攻撃に備えた。がっ……

「……っ?!」

 たった今、結界を破った光の刃よりも巨大な光の球体が細谷くんの方に迫っていた。瞬時に綾さんと精霊王が結界を張り直したが、それを軽々破り、勢力衰えず、ものすごいスピードで迫って来る。

 ダメだ……俺のこの槍じゃ、あんなに強い攻撃を受け止めきれない!

 悔しさのあまり歯噛みする細谷くん。己の力量を察し、最悪の事態を覚悟した。と、その時。

「……っ!」

 瞬時に銀白色の結界が半円形状に広がり、青紫色に光る、巨大な球体を防いだ。

 細谷くん、綾さん、精霊王が力を合わせて張り巡らせた結界よりも強力らしい。銀白色の結界にエネルギーを吸収され、巨大な光の球体が徐々に小さくなり、跡形もなく消え失せた。

 一体、誰がこんな結界を……

 その時ふと、人の気配を感じて細谷くんは条件反射で振り向いた。すると……

「赤園っ……?!」

 熟れたリンゴのような真っ赤なコートを着て、頭からフードを被った赤園まりんの姿がそこにあった。両手を前に翳し、必死の形相で息を切らしている。

「この結界は……赤園が?」

 まりんの方に駆け寄り、徐に尋ねた細谷くんにまりんは俯くと静かに否定した。

「違うわ。この結界を張ったのは、私じゃない。たぶんだけど……エディさんの攻撃を防いだのは、すぐ近くにいる彼が結界を張ったからだと思う」

「彼って……」

 今や、この世の終わりと言わんばかりに暗く沈む顔をしているまりんの肩越しから、とある人物の姿が見え、細谷くんは思わず息を呑む。

 魔王シェルア……あの人が、エディさんの攻撃を防ぐほどの強力な結界を張ったのか。

 無言でシェルアを睨めつけた細谷くんは瞬時にそれを察した。

 一方まりんは、突如として起きた予期しない事態に動揺していた。

 本当ならまりんが、堕天の力で以て頑丈な結界を張り、エディさんの攻撃を防ぐ筈だった。なのにそれが出来なかった。堕天の力が使えなくなってしまったのだ。

 なんで……?さっきまで、使えていたじゃない。

 細谷くん、綾さん、精霊王がいるこの場所に駆け付ける前までは確かに、まりんは堕天の力が使えていた。にも関わらず、ここに来て突然、使えなくなってしまったのは何故だろう。

 きっと、なにか原因があって使えなくなったのよ。でもどうして、いきなり使えなくなったの?分からない……

「赤園……?」

 まりんの異変に気付いた細谷くんが、心配そうに問いかける。まりんは混乱したように、口を開いた。

「細谷くん、どうしよう……私……」

 今にも泣き出しそうなまりんの心情を察し、はっとした細谷くんが、静かに問いかける。

「ひょっとして……使えなくなったのか?使い方によって変化する、万能の特殊能力が」

 冷静沈着な細谷くんからの問いに、まりんはそうだと頷いた。

「不安……だよな。今まで使えていた力が使えなくなると」

 まりんの気持ちを酌み取った細谷くんは、

「けど、これが本来の赤園の姿なんだと思う。ゴーストだろうとなかろうと……なら俺は、堕天の力の代りとして、赤園を助けたい。エディさんにも、シェルアにも赤園はやれない。奪われたくない。俺にとって赤園は、大切な人だから……だから命懸けで護りたいんだ」

 いつになく真剣な面持ちで細谷くんはそう言って意気込んだ。細谷くんの気持ちに触れ、涙が溢れたまりんは嗚咽した。

「あ、赤園……?」

 いきなりのことにぎょっとした細谷くんが当惑したようにおろおろとしだす。

「ごめん、俺……そんな気で言ったんじゃ……」

「違うの!細谷くんが悪いわけじゃないの!ただ……私に対する細谷くんの優しさや、こんなに大切にされているんだって……そう思ったら幸せすぎて……急に泣けて来ちゃったの!」

 大粒の涙を流しながらもまりんは、率直な気持ちをそっくりそのまま細谷くんに告げると再び嗚咽。赤ずきんを被った、あどけない少女のように泣きじゃくるまりんの姿を面前で見て、細谷くんは不謹慎ながらもかわいいと思ってしまったのだった。

「シェルアめ……余計な手出ししやがって」

 厄介そうに舌打ちをしたエディ、魔王シェルアの存在に気付き、今までのやり方では通用しないと悟り、戦法を変えるべく突進。

 いや、待てっ……!

 不可解に思ったエディがふと立ち止まる。

 この結界……本当に、シェルアが張ったものなのか?

 訝るエディの脳裏にとある人物の影が浮かび上がる。

 まさか、この結界を張ったのは……

 なんとなく、嫌な予感がしたエディの顔に緊張が走った。


「しかし、妙だな……」

 しばし、腕組みしながらまりんと細谷くんの成り行きを、微笑ましく見守っていた精霊王が不可解な表情をしながらぽつりと呟く。

「冥府役人の攻撃を防いでもなお、我々をこうして護ってくれている結界……これは本当に、魔王シェルアによるものなのか?」

「と……申しますと?」

 精霊王の方に顔を向けた細谷くんがそう、不思議そうに尋ねる。不可解な表情をしたまま、精霊王は返答した。

「あの冥府役人の攻撃は、シェルアの力を以てしても防げるものではなかった。ならば、今もなお、我々の周囲を張り巡らせているこの結界を張った人物が、この中にいるということになるが一体、誰が……」

「私だ」

 そう、腕組みしながら訝る精霊王に答えるように返事をした人物が細谷くん、精霊王の前に姿を現した。

「あ、あなたはっ……?!」と、不意に登場した相手にぎょっとする細谷くん。

「やはり、現れたな……大魔王シャルマン」と、冷静沈着に対峙しながら睨めつける精霊王。絢爛な黒服に漆黒のマントを身に纏い、背中まで垂らしたダークグリーンの髪に切れ長の赤い目をした大魔王が、冷笑を浮かべてそこに佇んでいた。

「大魔王……シャルマン?」

 まりんの記憶が確かなら、天神アダムがシャルマンの館にて足止めをしていた筈だが……突如としてこの世に降臨した大魔王シャルマン、威厳たっぷりな雰囲気が漂うその姿を、狐につままれたような表情をしながら眺めていたまりんは不可解に感じたのだった。

「泣いている暇はないぞ、赤園まりん」

 不意に体の向きを変え、向かい合った大魔王シャルマンに話しかけられ、まりんはびくっとした。

「そろそろ向き合わなければならない相手が、この結界を隔てた向こう側にいる。胸の奥にずっと秘密を秘めたまま、厄介ごとから逃げ続けるのも良いが……

 君が向き合わなければならない相手は、出来れば相手にしたくないほど、とてつもなく厄介だ。下手をすれば、気が狂うほどに暗く閉鎖された場所に幽閉は免れない。私としては、僅かな灯りさえも届かない暗闇に幽閉されるよりかは、明るい太陽光が射すこの場所で決着を付けるべきだと思う。

 まりん、君がこのままの状態を望むのならば、私は止めない。が、もしもこのままではいけないと思っているのなら……覚悟を決めて、彼と向き合ってはどうだ。君の返答次第では、大魔王のこの私が力になろう」

 まったく予期していなかったことに目をぱちくりしたまりんは手の甲で涙を拭うと、

「細谷くん!今すぐ、私のほっぺたつねって!」

 つかつかと歩み寄り、必死の形相で細谷くんに詰め寄ったのだった。思わぬ事態に、細谷くんが困惑の表情をする。

「俺が……赤園のほっぺたを……?」

「もしかしたらこれ、夢かもしれないから!自分でつねるよりも細谷くんにほっぺたをつねってもらったほうが蓋然性が高いから!お願いします!!」

「赤園が、そこまで言うなら……」と、根負けした細谷くんがまりんのほっぺたをつねる。

「いたい……」

「痛かった……?ごめん、赤園」

「うんん、私が頼んだんだから、謝らなくて平気だよ。ありがとう、細谷くん!」

 ちょっぴり頬を赤らめて微笑んだまりんは笑顔で礼の言葉を告げた。

「夢じゃなかった……まだ、信じられないけれど。大魔王さまって、魔界の頂点に君臨する最強の悪者で、悪意の塊なんだと思ってた。けれど、そんな勝手なイメージが私の中で覆ったわ。魔王さまも大魔王さまも、怖くて悪い人もいれば、優しくて善良な人もいるのね」

「赤園……たとえ、善良な人だろうと、それは表向きだけで中身は何を考えているのか分からない。特に、大魔王は……騙されないように、用心しろよ?」

 にわかに心配した細谷くんがそう、きりっとした顔でまりんに言って聞かす。

「分かってるって!」

 余裕のある笑みを浮かべて自信ありげに返事をしたまりん、両手を広げて細谷くんに抱きつく。不意に抱きつかれた細谷くんが顔をまっかにした。

「あ、赤園……?」

「堕天の力が使えなくなって心細いから、私に元気と勇気を分けて。それから……もしも、私がシェルアやシャルマンに騙されそうになったら……その時は助けて。私にとって細谷くんは、とても大切で、頼もしい人だから」

 心からの、優しい微笑みを浮かべて、まりんは細谷くんから離れると再び、大魔王シャルマンと向かい合った。

「では、答えを聞かせてもらおう」

 その場に静かに佇み、シャルマンは真顔で返答を促す。まりんは、いつになく真剣な面持ちで返答した。

「ようやっと、覚悟が出来ました。この結界を隔てた向こう側にいる彼と向き合います。このままの状態でいるわけには行きませんので」

「それが、君の答えか」

「はい」

 それから暫くの間、双方一言も話さず、沈黙。辺りが緊張に包まれる最中、お互いの目を見詰め合うこと数分。

 フッ……と気取った笑みを浮かべたシャルマンが沈黙を破り、やおら口を開く。

「それでこそ、私が見込むゴーストだ。その手で触れれば、結界は消える。君の後ろは私が護ろう。健闘を祈る」

 結界の解き方を教えたシャルマンに送り出され、今もなお周囲を張り巡らす結界の前に佇んだまりん、深呼吸をすると左手で結界に触れた。シャルマンの言う通り、左手で触れたところから結界が解け、やがて全体に広がり結界が消えた。

 凜然たる雰囲気を漂わせ、悠然と前進したまりんは、その先で待ち構える冥府役人のエディさんと対面したのだった。

「君が僕の前に来るってことは、ようやっと観念する気になったのかな?」

「違います。あなたから逃げ続けるのに疲れたから……決着ケリをつけるために、ここに来ました」

 気取った笑みを浮かべて問いかけたエディさんに、毅然たる雰囲気を漂わせてまりんは返答する。

「エディさん。先ほども申し上げた通り、私にはまだ、晴らしたい未練があるのでこの世を離れたくありません。私に時間を……未練を、晴らさせてください」

「その件に関して、僕はこう返事をした筈だ。僕がこの場で君を保護することで、堕天使からの危害から護られるのなら……心を鬼にしてでも、僕が僕自身に課したこの任務を遂行すると。この考えは今も変わっていない」

 役人特有の威圧感、何事にも動じない強い意志、凜然たる雰囲気が、鋭さを帯びた目でまりんを見据えるエディさんから漂っている。

 にわかに湧いた黒雲が、紅色の夕焼け空を覆う。ひんやりとする風が吹き始めた。

 エディさんの返事を受けて大きく息を吸い、ありったけの声量でまりんが叫ぶ。

「この……頑固者――!!」

「な、なにっ……」

 まりんにいきなり怒鳴られ、面食らったエディさんがたじろいだ。

「なによ、ケチッ!役人なら、ちょっとくらい融通利かせてくれたっていいじゃない!エディさんがこんなにも頑固者だとは思わなかったわ!」

「頑固者で悪かったな……」

 むすっとした顔で素っ気なく言い返したエディさんだったが、

「分かったよ……ここは大人しく君の言い分を聞いて、いったん退く。けど、勘違いするなよ?僕はまだ、君のことを諦めたわけじゃないからな」

 深い溜息を吐いた後、ついに折れたエディさんが釘を刺しつつもまりんにそう告げた。怒鳴ってはみたものの、かえって逆効果になって、強制的に霊界へ連行されるのではと怖れたまりんは拍子抜けした。

「……今すぐ、私を冥界に連れて行かないんですか?」

「そのつもりだったが、やめたよ。もし、僕がこの場で君に手を出そうものなら……」

 エディさんがすっと、右手に携えていた立派な剣の先端をまりんの喉元に向けた、次の瞬間。黒雲から青白い稲妻が走り、耳を劈く音を立てて、エディさんのすぐ脇に落雷したではないか。

「こうして、君の後ろをガードする大魔王の攻撃を食らってしまう。今の攻撃は、君に手を出すなと大魔王が僕を威嚇したものだ。無理矢理にでも、きみをここから連れ去ろうとすると本格的な戦闘になりかねない。そうなったら、天神アダムの結界の中にいる人間はひとたまりもないぞ」

「それを……避けるために」

 まりんと細谷くん、精霊王、綾さん、理人さん、勇斗くん、美里ちゃんと藤峰燈志郎氏が今も、天神アダムが張り巡らす結界の中で敵との攻防戦に挑んでいる。

 そんな最中に、エディさんとシャルマンが本気で戦闘したら結界の外側は無傷でも、その内側にいる人間達が戦闘に巻き込まれ、命を落とす危険性がある。それを避けるためにエディさんは敢えて折れたのだ。

 真顔で冷静沈着に明かしたエディさんが折れた、その理由を聞き、口を半開きにして唖然とするまりん、ふとあることが気になった。

 あれ?そう言えば……エディさん、なんで剣なんて持っているんだろう?

 ふと、そのことを疑問に感じたまりんは、自身の喉元に切っ先が向けられた剣を凝視した。

 エディさんが左手で握っている黒い剣の鞘から引き抜かれた、赤い飾り房付きの黒い剣だが、どこか見覚えがある。そう、あれは確か……中学三年生だったまりんが卒業式の当日、式が終わった後に同級生のえっちゃん、みのりちゃんと、町の小さなカフェテラスでささやかな送別会をした帰りの田圃道だった。

 そこで、まりんは遭遇したのだ。私服姿の理人さん、美里ちゃん、勇斗くん、紅色の狩袴に白色の狩衣、ウェーブした焦げ茶色の長髪を一本結びにした小学生くらいの、容姿端麗な少年の姿をした精霊王さまと。そしてもう一人……

 三つ編みに結わいた紫紺の長髪、紅蓮の炎を身に纏っているかのような、真っ赤な着物と指貫と呼ばれる袴を穿いた男の姿も、そこにあった。

 まりんが今、目にしている剣を見かけたのは、その時だった。気を失い、アスファルトの路面上に倒れ込んでいる理人さん達を背に、精悍な面持ちで佇む精霊王さまと対峙する、真っ赤な着物を着た男が持っていた。その男こそが……

「まさか……祠の管理人……さん?」

 はっとした表情で気付いたまりんの問いかけに応えるように、気取った笑みを浮かべて、エディさんが返事をする。

「やっと気付いたか」

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