99話目「恋愛禁止」

 直美の恋人である美鈴はアイドルだ。

 しかも超人気の。

 少なくとも去年までは直美と同じ普通の女子高校生だったのに。

 正直いって、直美は美鈴のことを大好きではあるものの、美鈴は特別美人でもないし、歌やダンスが上手いわけでもないので、アイドルとして成功するとは思っていなかった。

 だから、美鈴がアイドルになると言ったときこそは「応援するよ」とは言ったものの、その覚悟が直美にはなかった。

 なにせアイドルになったからには恋愛禁止。

 もしどうしても恋愛をするなら、徹底的に隠れてなければならない。

 そのため美鈴が人気になるに連れて、直美と美鈴のデートは激減した。

 二人で遊びに行くことはあっても、往来の真ん中でキスすることなどできなくなったし、手をつなぐことも控えた。

 いや、控えられた。

 直美は意識してなかったが、美鈴が念のためと言って手をつなぐことを拒否してきたのだ。

 それに直美はショックを受けた。

 覚悟してなかったから。

 好き、とは言ってくれるが、行動で示してくれることは少なくなり、また直美も示しづらくなってしまった。

 しかも、ここ三ヶ月は美鈴とろくに話しておらず、そんななかである夜のこと。

 ネットニュースを見ていたら――

『美鈴、イケメン作曲家と朝帰り』

 そんな見出しが飛び込んできた。

 直美は、頭が真っ白になったが、不思議とショックとは思わなかった。

 あるいは、ここらが潮時かもしれない。

 直美はそう思った。

 だが、そう思った一時間後、

「直美って顔出しオーケー?」

 突如として美鈴が直美の家に押しかけてきて、ネット配信をすると言い出した。

 改めて直美は理解不能な事態に頭が真っ白になったが、直美は美鈴に言われるがままだった。

 そして、

「はい、みなさん、お騒がせしています。みんなのアイドル美鈴でーす。今日はあの週刊誌報道についてお話しまーす。――が、その前に」

 美鈴はスマホを片手に流暢に語るが、突然そのスマホを直美に向けて、

「こちらが私の恋人の直美ちゃんでーす」

 そう高らかに紹介すると、

「ちょ、美鈴――――っ――む――ん――」

 直美が混乱するなか、美鈴は直美にキスしてきた。

 それも、ディープキス。

 たっぷり五秒間。

 し終えた美鈴は嫌に満足げで、

「――――。ってことで、あの週刊誌は嘘でーす。それじゃ、今日の配信はおしまい。ばいばーい!」

 美鈴は笑顔いっぱいで言うと、スマホを投げ捨て、改めて直美に向き直り、

「直美――、ごめんね――、今までたくさん無理させてきたのに、突然こんな――」

 泣きそうな顔になった。

「あ、いや――」

 直美はなおもなんと言っていいか分からず口ごもった。

「本当にごめんね……。でも、私が我慢できなくなっちゃったの。私、もっと直美と一緒にいたい。アイドルは夢だったけど、直美は私の宝だから」

「――」

「ねぇ――、もう一度キスしていい?」

 美鈴は問うた。

 ただ、正直なところ、直美はまだ混乱のさなかにあった。

 だがそれでも直美は美鈴に返事せず、美鈴にキスをした。

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