86話目「滅亡後」

 雨が上がり、少女――琴子は窓の外を眺める。

「お、虹じゃん」

 丘の上から臨む景色は廃墟と化した街だったが、その中央から一筋の虹が天へと伸びていた。

 虹は人類滅亡前も後も変わらない。

 これはいいことだ、と琴子は頷く。

「ほら、綾乃。見てみて、虹だよ、虹」

「あー」

 琴子はなんとなくテンションが上がり、背後を振り返った。

 だがソファーの向こうにいるもう一人の少女――綾乃の返事はいつもどおり力ない。

「あ、そうだ。たまには散歩してみる? 生存者いるかもしれないし」

「あー」

「それに、そろそろ食料なくなってきたしねぇ」

「あー」

「もう。あーあー、だけじゃ分からないよ」

「あー」

 琴子は苦笑するが、ある意味で安堵する。

 琴子の一番の友人である綾乃はいつまでも変わらない。

 いつでもどこでも、やる気も何もない脱力系である。

 死後になっても。

「ところで綾乃って、傷は治るんだね。ゾンビって言っても、基本は人間なんだねぇ」

「あー」

 琴子は綾乃を見やって言う。

 狩猟用の檻に入り、生きる屍となった綾乃を。

「それなら人間に戻る見込みはあるよね。大丈夫、私がいつか人間に戻してあげるからね。それまで我慢してね」

「あー」

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