母恋という主題を扱った作品は沢山ありますが、喜劇らしく書いたものは案外少ないなあ――と考えさせられました。古風な表現の中にもきらりと輝く新しさがあります。おそらく、この作者様の手に拠れば、徹底して重厚な文章でまとめることもできたはずです。序盤と結末を見ても、古典や民俗の知識を豊富に持っていることが伝わってきます。ですが、同時に、「それだけでは物足りない、もっと新しいことに挑戦してみよう」という飽くなき姿勢も備えていることも、ひしひしと感じられるのです。そういう、ある種の貪欲さ――勿論、良い意味での――に、どうしようもなく惹かれました。優雅に能楽を舞っている最中に、突如としてウィンクをされたような、不思議な気分になりました。魅力的な作品だと思います。