第317話 お隣さんの猫

お隣さんは猫を3匹飼っている。

その猫たちは狂暴な上に放し飼いにされているのだ。

 

この前も家の前にいたから、撫でようと手を伸ばしたところ、引っかかれた。

それ以来、俺はお隣さんの猫を見かけても無視するようになった。

 

それだけならまだいいんだが、とにかくこの猫たちは仲が悪い。

頻繁に喧嘩して暴れる。

しかも真夜中にそれをやられるものだから、目が覚めてしまう。

 

これはもう騒音といってもおかしくないだろう。

 

お隣さんは4人家族で、一番下の子供がとにかく生意気で、イタズラもしてくる。

そのムカつき度合いは、猫に匹敵するほどだ。

 

だけど俺はお隣さんに文句を言うことはない。

なぜなら、その生意気なガキの姉のKさんが大学生でスゲー美人なのだ。

 

時々、顔を合わせたときに話すくらいだが、なんとか仲良くなろうと頑張っている。

なので、なにがあってもお隣さんに文句は言えないのだ。

 

そんなある日、そのKさんが俺ん家のインターフォンを押して、訪ねてきてくれた。

こんなことは初めてだった。

俺は舞い上がりながらも、なにかあったのかを聞いた。

 

すると、Kさんはある頼みごとがあると言ってきた。

 

「今朝、家の猫が死んじゃって……。埋めに行くのを手伝ってくれませんか?」

 

俺は2つ返事でOKした。

このときほど、免許を取っておいてよかったと思ったことはない。

 

車を出して、お隣さんの家の玄関の前に止める。

すると、外に3つの段ボールが置いてあった。

 

「……3つとも?」

 

俺がKさんに聞くと、Kさんは涙を浮かべてコクリと頷いた。

 

俺は車の後部座席に段ボール3つを積んだ。

3つとも、結構、ずっしりとした重さだった。

 

猫って意外と重いんだなと思いつつ、車に乗り込む。

すると、Kさんが助手席に乗って来る。

 

そして、山に向かって発車した。

 

助手席にKさんを乗せて車を運転する。

なんていうか、ドライブデートみたいでテンションが上がった。

 

後ろに猫の死体がなければ、だけど……。

 

最初は落ち込んでいたKさんだったが、次第に元気を取り戻していく。

山に着くころには俺たちは楽しく会話ができるくらいになっていた。

 

山についてからシャベルで穴を深く掘り、段ボールごと埋める。

するとKさんが手を合わせたので、俺も真似して手を合わせた。

 

帰り道。

俺はふとKさんに、今度、気晴らしにどこか行かないかと誘った。

 

だけどKさんはすぐに引っ越しするから難しいと言った。

 

その言葉通り、Kさんたち一家は2日後に引っ越していってしまった。

 

せっかくKさんと仲良くなれたのに、とがっかりした。

けど、これでもう猫たちやガキにイラつくこともなくなると思うことで、よしと思うことにした。

 

そういえば、Kさんたち家族の引っ越しは、誰にも伝えていなかったようで、少し近所で騒ぎになった。

 

Kさんは大学を辞めたのはまだいいとして、あのガキの学校にも何も言ってなかったそうだ。

転校の手続きが面倒だったのだろうか?

 

そんなことを考えていると、ふと、家の前に猫がいた。

俺の手をひっかいた、あの猫だ。

 

俺はその猫を避けながら家に入る。

 

どうやら、猫の問題はまだ続くようだ。

 

終わり。











■解説


まず、飼っていた猫が3匹とも同時に死ぬということはほとんどない。

そして、最後に語り部の家の前にいた猫が、「ひっかいた猫」だと言っている。

つまりは、『お隣さん』の猫である。

 

ということは、あの段ボールに入っていたのは猫ではない可能性が高い。

さらにお隣さんは語り部を騙して、山に段ボールを埋めに行っている。

 

逃げるように引っ越していったお隣さん。

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