第121話 猫の目
猫が何もないところをジッと見る、というのは猫を飼っている人は、一度は見た光景だろう。
それは聴覚や嗅覚が優れているためで、人間が気づかないような臭いに反応している可能性があるのだそうだ。
大学の頃から一人暮らしをしていた俺は、引っ越しを気にペットを飼うことにした。
そのアパートは築30年でかなり古く、内装もお世辞にもいいとは言えない部屋だ。
大家さんが、こんな状態だから、好きにペットを飼っても良いと言ってくれたので、猫を飼うことにした。
なぜ猫かというと、この部屋に引っ越しをする際に、前にこの部屋に住んでいたらしき男の人が、猫を抱えて部屋から出ていくのを見たからだ。
純粋に可愛いと思ったし、もともと猫を飼っていたのなら、猫に合った部屋なんじゃないかという単純な発想だった。
さっそく保健所に行き、猫を一匹引き取ってきた。
3ヶ月くらいの子猫だったのだが、連れてきた日から、ずっと上の方をジッと見つめていた。
子猫の視線の方に目を向けても特に何もない。
だけど、いつも、子猫はその場所をジッと見つめることが多かった。
そんなこともありつつ、数日が過ぎたころ、俺は周りの住人に挨拶回りをしていなかったことに気づき、慌ててタオルセットを買って、挨拶に回った。
幸いなことに変な人はいなく、「今度は男の人なんだねぇ」と笑って、逆にお菓子をくれるおばあちゃんなんかもいた。
ここなら長く暮らせそうだと安堵して部屋に戻ると、やっぱり子猫が上の方をジッと見ている。
それから1週間後。家に宅配が来た。
全く身に覚えがないので、受取人のところを見ると、女性の名前が書いてあった。
おそらく、前の住居人の物だろと配達の人に伝えると、配達の人は少し困った顔をしながらも配達の物をもって帰っていった。
部屋に戻ると、やはり子猫は上をジッと見ていた。
さらに数週間後。
警察が家に訪ねてきた。
どうやら行方不明者の捜索らしい。
写真を見せられたが、見たこのない女性だった。
部屋に戻ると、子猫がジッと上を見ていた。
終わり。
■解説
配達物やアパートの住人の話を考えると、前に住んでいたのは女性だということがわかる。
しかし、語り部がこの部屋に引っ越してきた際、部屋から猫を抱えて出てきたのは「男性」である。
警察が探している女性が、前に部屋に住んでいた女性で、部屋から出てきた男性により殺害され、天井裏に隠されている可能性がある。
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