第60話 スリ師

男は物心ついた頃にはスラム街に住んでいた。


何も持たない男は、生き延びるためには他人から奪うしかなかった。


だから、奪われることに関しても受け入れていて、取られる方が悪いと考えている。


 


男にとって盗みは普通であり日常であった。


ただ、男には一つのポリシーがある。


 


それは人を傷つけないということだ。


理不尽な暴力は男にとって不幸であり悪だった。


男自身にとっても暴力を避けることを最優先にしている。


 


だからこそ、それを他人にも行わない。


盗むときも無理やり奪い取るのではなく、本人にも気づかない間に取る術を身に着けた。


 


男は立派なスリ師になった。


男に取れないものはないとまで言われるようになった。


そして、男はそんな自分に誇りを持っている。


 


しかし、男はある日、男にとってとても大切なものを取られた。


 


その日以来、男がスリを行うことはなくなった。


終わり。














■解説

男が取られたものとは『命』だった。

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