第54話 冷凍倉庫
俺は冷凍食品工場で働いている。
その工場の規模は小さく、家族経営をしているようなところだ。
最近は不景気のせいで工場の経営も厳しいらしい。
元々、そんなに多くない従業員をリストラして何とか経営を保っているとのことだ。
出ても地獄、残っても地獄。
俺は残った方で、職こそ失うことはなかったが、代わりに3人分の仕事をしなくてはならなくなった。
一人での冷凍倉庫内の作業。
ドアが閉まらないようにするストッパーは忘れないようにする。
ドアは内側からは開けられないのだ。
何かあっても助けてもらえるとは限らない。
早朝から始めて夜遅くまで作業をして、ようやく終わるくらいの仕事量だ。
同僚に手伝いなんて頼めない。
同僚も同じように忙しいのだ。
一人で黙々と作業をする毎日。
もう、数ヶ月、会社の人間に会ってないような気がする。
そんな忙しい中、社長が様子を見に来た。
しかも、孫を連れて。
ガキどもは冷凍倉庫が珍しいのか、走り回って遊んでいる。
社長はというと、ガキどもを放っておいて他の場所へと行ってしまった。
俺が必死に仕事をしている中、ガキどもが周りで遊んでいる。
倉庫の中の色々なところのドアを開けて回っている。
俺は我慢の限界が来て、ガキどもをとっ捕まえて、頭を殴った。
ドアはちゃんと閉めろ、と怒鳴るとガキどもが泣き始める。
一瞬、ヤバいか? と思ったけど、それでクビになるならそれはそれで良いとさえ思った。
それくらい、今の俺は忙しすぎて追い詰められていた。
泣き続けるガキどもにイライラして、倉庫から出て行けとさらに怒鳴った。
ガキどもはトボトボと倉庫を出ていく。
社長が怒って怒鳴り込んでくるかと思ったが、結局、社長がやってくることはなかった。
これで集中して業務を続けられる。
……それにしても、今日はなんか冷えるな。
終わり。
■解説
倉庫内は温度が管理されているはずなので、『冷える』ということは基本あり得ないはずである。
では、なぜ、いつもより冷えると考えたのか。
それは語り部が子供に「ドアはちゃんと閉めろ」という言葉に原因がある。
そう。子供たちは倉庫を出るときに、ドアを閉めてしまったのだ。
そして、語り部は一人で業務をしているので、誰にも気づかれない可能性が高い。
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