第34話 昔の車
これは10年くらい前の話。
ゴールデンウィークの曜日が良い感じの並びで、世間では大型連休だと騒いでいた。
まあ、俺もそのときはウキウキしてたんだけどね。
しばらく実家に帰ってなかったというのと、久しぶりに大学の頃の友達が地元に集結するってことで、俺は実家に帰ることにした。
電車かバスで帰ろうと思ってたんだけど、物凄い混雑状況が見込まれるというニュースを見て、せっかくだから、レンタカーを借りて車で帰ろうと決めた。
幸い、俺の地元は田舎なので、道路も混むことは無い。
車なら、ストレスなく行けると考えていたんだ。
だけど、俺はゴールデンウィークを舐めてた。
ゴールデンウィークの初日、昼過ぎにレンタカーのお店に行ったら、すでにほとんどの車が貸し出されていたんだ。
残っていたのは、古いマニュアル車。
すでに5軒くらい店を回っていて、夕方になっていたこともあって、俺は渋々、その車を借りることにした。
正直、最初は、久しぶりのマニュアル車を運転することにテンションが上がってた。
昔、ゲームセンターでレースゲームに熱中したことも思い出して、楽しかった。
けど、そんな楽しい気分も30分もしたら消え失せた。
今の若い人には想像がつかないかもしれないけど、昔の車は今と比べると、本当に不便だった。
まあ、当然なんだけどさ。
まず音楽。
USBに曲を入れて、なんてことは、もちろんできない。
そして、CDも入れられない。
なんと、カセットだ。
いや、カセットってなんだよ。持ってないよ、そんなの。
ということで、仕方なく、携帯から音楽を流していた。
次にドリンクホルダー。
今では当たり前についてるけど、昔はそんなのはない。
自分で付けるしかないんだが、当然、レンタカーのためだけにそんなのを買う気にはならない。
その他にも色々と不便だったんだけど、数時間運転するうちに慣れた。
だが、それと同時に、致命的なことが起こった。
なんとスマホの充電が切れたのだ。
今だったら、車から充電できるけど、当然、この車にはそんな機能は備わっていない。
それでなくても、暇な運転中に、音楽すらなくなるのは致命的だ。
辺りはすっかり暗くなっていたのと、少し疲れたのと、喉が渇いていたこと、なにより、スマホの充電がしたくて、俺はサービスエリアに入った。
しかし、サービスエリアには車はもちろん、人っ子一人いなかった。
それもそのはずで、店が閉まっているし、このあたりは本当に田舎だ。
この時間にこんなところを通る人は少ないだろう。
売店でスマホの充電器を買うのは諦めるとして、せっかくだから、自販機でジュースでも買おうと思い、車を降りた。
おっと、そうそう。
この車は、今の車と違い、鍵をかけるのも特殊だ。
今は、スイッチ一つでロックしたり解除したりできる。
だけど、昔の車は、自分でロックを落として、ドアノブを引きつつ閉めるっていう方法をするのだ。
いやあ、懐かしい。
免許取り立てで、初めて車を持ったときは、いつもこうしていたのを思い出す。
車の鍵を閉めて、俺は自販機へと向かう。
缶よりは、ふたを閉められるペットボトルがいいと思い、ペットボトルの飲み物を探す。
今は自販機でもペットボトルが当たり前だけど、昔は逆だったんだよね。
缶の方が多かった。
お茶しかなくて、しかたなく、お茶を買った。
そして、俺はサービスエリア内にぽつんと一つだけ停まっている、エンジンがかかった古い車の方へ歩いていった。
終わり。
■解説
エンジンがかかっているということは、キーは車に刺したままだということがわかる。
そして、語り部は、車を出るときに「ロック」をしている。
つまり、インキ―してしまっているということになる。
さらに、スマホの充電も切れ、店も閉まっていて、周りには誰もいない状況なので、語り部にはどうすることもできない。
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