第20話 ウェイター

男はレストランのウェイターをやっている。


誇りを持ち、客に対して最高のサービスをすることにプライドを持って仕事に励んでいた。


そして、男が勤めるレストランのオーナーの理念は、「どんなお客様も平等にもてなす」ことだった。


相手が金持ちだろうと、有名人だろうと、一般の客とは絶対に差別しない。


それがオーナーの望む、唯一と言っていいほどの絶対的なルールだった。


男はそんな理念に共感し、このレストランで働けることに誇りを持っている。


 


ある日、給仕をしていると、店の入り口でオロオロとしている老人を見つけた。


その老人の身なりは汚く、髭も伸び放題で、いわゆるホームレスのような姿だった。


 


男は老人に嫌な顔をすることなく、笑顔で「どうなさいました?」と声をかけた。


すると老人は、ようやく貯めたお金で食事をしたいと言ってきた。


 


なんでも、老人はいつもここの店の料理を外から見ていて、一度でいいから料理を食べてみたいと思っていた、それが残された人生の唯一の夢だったのだという。


 


老人が持っているお金ではコース料理どころか、ギリギリ一品頼むのがやっとだった。


 


男は老人をレストラン内へと案内する。


老人は戸惑いながら、「いいんですか?」と問いかけてくる。


男は「お客様を案内するのが私の仕事です」と笑顔で応えた。


 


そして、男が案内されたのはVIPが使う個室だった。


さらに戸惑う老人に、「お客様には、ゆっくり食事を楽しむ権利があります」と男が言う。


みすぼらしい格好の老人がレストラン内にいれば、他の客から嫌な顔をされたり、好奇な目で見られたりするであろうことへの配慮だった。


 


しばらく待つと、老人の前にはコース料理が並べられる。


そんなに金はないという老人に、「ここで食事をするのが夢だったのですよね? その大切な夢を、本当の意味で叶えるためにも、私にお手伝いさせてください」と男は言った。


 


老人は泣きながら料理を完食する。


何度も何度も老人は男に礼を言い、最高のひと時だったと話した。


 


老人が店を去る際に、男は「またのお越しをお待ちしています」というと、老人は深々と頭を下げて、「必ずまた来ます」と言った。


 


男はその日の自分の行動は、誇りのあるものだと信じて疑わなかった。


 


次の日。


あの老人はオーナーが変装していた姿だったことが告げられた。


 


そして、男はレストランをクビになった。


終わり。


 











 


■解説

このレストランの理念は「平等に」客を扱うこと。


その男の老人に対する行動は明らかに「過度なサービス」だったため、レストランの理念を破ったことで、クビになった。

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