第19話 キノコ名人

その老人はキノコが好きだった。


自分で山を買って、そこでキノコ栽培をするくらいだ。


 


そんな老人は地域で誰よりもキノコに詳しく、キノコ名人などと呼ばれるようになった。


 


だが、最近、その老人はあることに悩まされている。


それは、勝手に山に入って、キノコを採っていく人がいることだった。


 


ある日、老人が山に入ると、3人の子供がキノコを採っているのを見つけた。


 


老人は優しく子供たちに語り掛ける。


 


「この山はワシのものなんじゃが、勝手に山に入る人がいて困っているんじゃ。なぜなら、毒キノコを持って帰ってしまったら大変じゃろ?」


 


毒キノコと聞いて、キョトンとする子供たち。


 


「いいかい。キノコの中には毒がある物があって、それを食べてしまうと死んでしまうこともあるんじゃ」


 


子供たちは今まで採ったキノコを老人に見せた。


 


「あー、やっぱり。これも、これも、これも、全部、毒キノコじゃよ」


 


ガッカリする子供たちを見て、老人はついて来るように言う。


歩きながら、老人はキノコを見つけると解説していく。


 


「このキノコは一見すると毒があるように見えるが、食べられるんじゃよ」


 


そう言うと、子供たちはそのキノコを採っていく。


そんな様子を優しく見守る老人。


 


やがて、子供たちが持ってきたカバンがキノコでいっぱいになる。


子供たちは老人にお礼を言う。


 


「黙ってキノコを採られると、こうやって注意もできないからな。それで死んでしまったら、ワシは悲しいんじゃ。今度は、ちゃんとワシに言ってから、キノコを採るんじゃぞ」


 


返事をして、もう一度お礼を言ってから子供たちは帰っていく。


そんな子供たちを笑顔で見送る老人。


 


次の日。


老人がテレビを見ると、死亡のニュースが流れていた。


老人は手を叩いて、喜んだ。


 


終わり。


 










■解説

死亡したのはキノコを採っていった子供たちの家族。


老人は勝手に山に入ってキノコを採っている人間たちを、恨んでいた。


なので、子供たちに毒キノコを持って帰らせた。


そのキノコで死亡事故が起こったニュースを見て、老人は喜んだ。


さらに、老人は台詞の中でしか嘘を言っていない。

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