第5話 空き巣

最近、空き巣が減っているらしい。

なんでかっていうと、例のアレが流行ったせいでテレワークが進んだからっぽい。


そもそも留守の家が少なくなれば、空き巣も減るのは当たり前ってことだね。

まあ、俺はテレワークができない仕事だから、家は留守になっちゃうんだけど。


だけど、空き巣の方も色々と新しいやり方を練り始める。

オレオレ詐欺も、どんどん巧妙化していくようにね。

だから、空き巣の方法もアップデートしていかなきゃって話だ。

本当に、世知辛い世の中だね。


で、その空き巣の新しいやり方っていうのが、配達員に化けるというものらしい。

つまり、実際にその家のインターフォンを押して、留守かどうかを確認するのだ。


数少ない留守の家から確実に空き巣をするための方法ってわけだね。

普段は出社してても、その日に限ってはテレワークする、なんてこともあるからさ。

空き巣からしたら、厄介ってわけだ。


インターフォンを押して、誰も出て来なければ、その家は留守だから、そのまま空き巣に入る。

もし、住人が出てきても、でたらめの配送品を見せれば、「それは家じゃありませんよ」と言われるから、怪しまれることはない。


それは周りの住人にとっても同様だ。

今のご時世、配達員が近所にいても、誰も怪しんだりしないからね。

俺もよく、ネットで買い物するし。


いやー、色々と考えるもんだね。

今は、いつ、どうやって、誰に騙されるか分からない世の中。

俺も十分、気を付けよう。


なんてことを、仕事しながら考えているときだった。

不意に、インターフォンの音が部屋に鳴り響く。


あ、もしかして……。


俺はそっと、ドアに近づいて、のぞき穴からドアの前の人物を見る。

案の定、配達員だ。

よくよく見ると、その制服は正規のものとは微妙に違う。


偽物ってことだ。

つまり、こいつが、あの噂の空き巣氾なんだろう。


よし! ラッキー!


俺はすぐに外に出て、警察に通報した。


終わり。







■解説

語り部の男も空き巣氾。

空き巣をしているところに、噂の空き巣がやってきたということ。

また、空き巣は当然ながら、「テレワークができない仕事」となる。

それなのに「仕事中にインターフォンが鳴った」ということは、空き巣をしている最中ということになる。


語り部の男は、通報することで、自分の空き巣の罪をその空き巣氾になすりつけられると考え、ラッキーと思った。

また、逮捕させることで、同業者を減らすことができ、自分の取り分も増えると考えている。

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