第3話 シェアハウス
私は今、二人暮らしをしている。
って言っても、その人とは別に恋人同士でもなんでもない。
私はその人に恋愛感情をもってないし、あっちも私にそんな感情をもってないだろう。
まあ、もたれても困ってしまうんだけど。
とにかく、私が転がり込むようにして、二人暮らしの生活が始まった。
私たちの生活は平凡そのもので、毎日が同じように過ぎていく。
朝。
6時にアラームが鳴り始める。
もちろん、それは相手がセットしたアラームだ。
彼の朝は早いのだ。
そのアラームの音で、上の部屋の私の方が先に起きてしまうのだけど、私がアラームを消したり、彼を起こしたりなんてことはしない。
それはルール違反だ。
だから、彼が起きてアラームを消してくれるのをジッと待つしかない。
時々、彼がなかなか起きてくれなくて、イライラするけど、そこは我慢。
私は文句が言える立場ではないのだ。
なぜなら、私は家賃を払っていないから。
まあ、払えないといった方が正しいのだけれども。
とにかく、私は我儘が言える立場ではないので、我慢するところは我慢しないといけない。
部屋だって、私の方が随分と狭い。
人なんか呼べないほどだ。
……呼ぶ友達なんていないけどね。
彼が家を出たら、ようやく私の時間。
下へと降り、テレビを付け、掃除を始める。
あ、もちろん、軽くだよ。
あんまり綺麗にし過ぎてもマズいから。
よく、部屋が汚い人が言うでしょ。
汚く見えるけど、それは自分が使いやすいように配置してあるだけ、だって。
彼もそのタイプみたい。
だから、気付かないところや、ずっと掃除していないところを重点的にやっていく。
いやー、この前、排水溝周りを見た時は、ビックリしたよね。
今までよく詰まらなかったな、って感じ。
だから、ピカピカにしてあげたんだ。
……彼は気づいてなかったけどね。
それが終わったら、朝食。
冷蔵庫を開けて、中を見る。
それなりに物が入っているけど、彼はあまり、料理をしない。
いや、仕事が忙しくて出来ないって言った方がいいのかな。
料理自体は好きみたいで、休みの日には食材を買っている。
でも、それが使われることはあまりない。
ほとんどを腐らせてしまう始末だ。
本当は私が作ってあげればいいんだけど…。
そんなことをすれば、何を言われるかわからない。
男からしたら、好きでもない女に作ってもらうのは嫌だよね。
ホント、男って面倒くさい。
ササっと朝食を作って食べて、食器を洗って元に戻す。
うん。完璧。
さてと、そろそろ、出かけようかな。
私は働いていないって言っても、ニートってわけじゃない。
日雇いのバイトとか、ちょっとしたお手伝いなんかをして、お金を稼いでいるのだ。
……まあ、自慢するほどの金額じゃないけれど。
そんなこんなで、今日も一日、平穏に過ぎていく。
こんな毎日がずっと続くのかなって思ってた矢先のことだった。
その平穏はあっさりと崩されることになる。
彼が引っ越しすることになったのだ。
急な転勤。
家じゃ、そんなこと言ってなかったのになあ。
なので、突然、彼とはお別れすることになった。
恋愛感情をもってなかったことが、不幸中の幸い。
とはいえ、寂しさはあるけどね。
だけど、彼は全く、そんな感じは出していない。
まあ、当然なんだけどね。
彼がいなくなった部屋の中は、かなり広く感じる。
やっぱり寂しくもあるけど、開放感もある。
なんか、部屋の主になったみたいで、結構嬉しい。
でも、今のままじゃ、ちょっと不便だなあ。
なーんて考えているときだった。
突如、部屋に人が入ってきた。
――そして、私は警察に捕まった。
終わり。
■解説
主人公の女は侵入者。
部屋に住む男にバレないように、天井裏で息をひそめて暮らしていた。
だから、掃除も食事もバレないようにしていた。
最後は、部屋の中でくつろいでいたら、部屋を見に来た不動産の人と遭遇して、通報されてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます