呪いの橋
判家悠久
Gate
姉璃子が、父と母をあの爛漫川橋梁で見て、手招きされたと言う。
爛漫川は、郷土青森県上北郡爛漫町を流れる川で曰くがある。爛漫町は典型的なの貧農で、近代戦後現代に至る迄、夜逃げ或いはから逃れられない。
夜逃げは大凡が北海道となるので、風の噂が口伝えに入る。
万が一の方は、八甲田山の麓と有り爛漫川の流れは急で、入水してはそのまま行方不明になる。人骨が何処かで発見される筈も、雪解け水はただ圧倒で、太平洋へと何れ流れゆく。
そして、いつしか爛漫川橋梁付近は、その境界に立つ人の天国の門となり。霊感が極小であっても朧げに見え、ああそう言う事かと、有志で立てた何度かの慰霊碑にお供え物を上げて行く。
そして、姉璃子は生来の破天荒さから、手招きの意味を全く理解していない。
姉璃子は所謂才女で、その将来性を買われては地方都市八戸の女学院に通わせられた。ただ、その性的嗜好が早くに揺れて、恋人は中性的な雰囲気を持つ同校生徒を、実家に連れ来ては、女性同士で深く戯れる姿をおくびにもしなかった。
そして、姉璃子は東京の大学に進み、そのまま大手広告宣伝社に入社した。両親としては、姉璃子の性的嗜好は時代の流れと諦めていた。
いや、本当の迷惑としては。姉璃子が男装ホストクラブに浸かりきり、3000万円の借金をこさえた事だ。姉璃子の直談判で、両親は敢えての懲罰で一山を生前分与し、これを手切れとした。
それから5年内に、父と母が癌で身罷り、俺は若ボンとして実家の運営会社一角開発株式会社の社長業に切り盛りをする事になる。
そして時代はコロナ禍になり、手切りされた姉璃子が実家に戻って来た。時代はリモートワークだからと、家賃を節約したいらしい。
そこから、3ヶ月後に姉璃子の恋人も爛漫町にやって来た。日仏ハーフの多田紅羽。俺とは干支が一回り違う。全てが姉の嗜好のストライク振りで、この前迄ホストだったが、本来の美容師に戻りたいと、姉璃子から麓の空き家を格安でと促され、爛漫町で再出発した。
とは言え、一田舎のクレハ美容室にはほぼ客はいなく、俺は週2で通う。扱いとしては、同性恋人の可愛い弟君だが、次第に距離が近くなり、そして店内での情交に至った。
深い背徳感が過った瞬間、紅羽さんが囁く。
「璃子、包丁持ってるから、後ろ見ちゃ駄目よ。知らんぷりね」
静かにドアが閉める音が聞こえた。
そう、天国の門にいる両親は、姉璃子をどうしても連れて行くつもりらしい。
呪いの橋 判家悠久 @hanke-yuukyu
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