いかれる、イかれる、パラレル

ひなた、

第1話

 マイナスな言葉を吐き続けるとプラスな言葉だけが残って、最終的に夢だか何だかが、叶うと言われた。「吐」から「-」が消えて「叶」になるんだと。嘘ってマイナスなイメージしかない、だから何かが叶うはず、叶えられるはず。とりあえず自分の手元に残ったものは両手両足で数えられるくらいはある。スマホにお年玉貯金、目次しか見たことのない参考書、あと、沢山が幾つかある。そのほとんどが嘘を吐いて叶った、嘘を吐いて延命している。

 どこにでもいるはずの核家族。鉄拳制裁、鉄拳制裁と同僚に話す父は自慢げに。母は口を開けば白髪、白髪に小じわとうるさい。もういい加減飽きた。飽き飽きだと友達に自慢してしまう自分も、その瞬間が過ぎれば、何を言っていたんだと、恥ずかしくなってしまう。

 学校に行けばリストカットをファッションに使うやつとか、でかいことをしてやると言葉だけが、ただでかい奴もいる。それらとそれ以外の全員が全員、クラスの覇権を争っている。笑うときに笑って、たまにギャグを飛ばす、それで精一杯になっている。それが生きるためのドレスコード。だって、クラスの波に乗れないやつは終わる。それすなわち、死。

 もう死んでいる奴らもいる。それは、SNSをやっていない奴ら。SNSで繋がっていない奴は面倒なことを押し付けられる。例えば、クラスに一人か二人はいる五月蠅い奴、授業中に迷惑を自制できない奴のお守りになる。そいつらに限って、心の中でこのままではいけないと焦りを感じている。感じている風に見える。

 クラスは恋愛至上主義だ。アツアツのカップルがいくつかあるし、好きな人がいないと仲間外れ感がある。好きな人を作らねばと思って、五か月前に目の前の女が好きだと嘘をついた。その時のみんなの食いつきようと言ったら形容できない。嘘をついたら守らねばならない鉄の掟、墓の中までその嘘を持っていくこと、でも自分は将来散骨にしようと思っているからちょっとまずい。そんなこんなでその女は自分に惚れた。んな事はわっかているのにこのこと知っている奴はうるさい、告白しろだ告れだ、脳が呆けてしまって勢いでいきかねない。ちなみに、その女の顔は偶然にもマスクアリでもマスクナシでも好みで、こけしみたいな顔。



 「お前さ、そんなことしてると人生蹴込むよ。」真冬の三階のトイレの窓を開けるような奴に言われたくない。この瞬間、蹴込んでいるのは向こうだ。

 「あっそ。」

 「俺の人生に関わらんといてって言うつもりか。」

 卵白と卵黄みたいなやつ。卵にはもう戻れないのに中身のあるようなこと言う。そなときに限ってののろけ顔、本当はそんなことなんて意図して無いって顔をする。「映画監督は大層なご身分だな、慇懃無礼な顔しりゃなれんのかよ。」

 「ふざけんな、自分の人生くらい脚本して自由に演じたいよ、演じさせろよ、それに将来の夢の話は出すな。」

 窓から身を乗り出している奴の腰に手をかける。冗談ぽく笑う奴の腰を持ち上げようと力を込める。軽く振り払おうともくろむ手は徐々に力を増す。足は床から離れ始める。

 「お前のしてることは俺の脚本にかかわる。」

 そっと手を放す。気分を害してしまっただろうか、しかし、いや、奴の顔は笑っていて手を洗っている。鏡越しの奴の瞳と目を合わせる。十秒。そして、ポケットからハンカチを出して渡す。せめてもの償いに。

 「ほら、行くぞ糞が。」

 開けっ放しの窓を背にトイレを出る。いつも自分は真っ先に出ようとしない。トイレのドアの取っ手を握るなど言語道断、触ったら最後てのひらを泳ぐばい菌が腕を上り目から脳へと侵入する。小さい頃に母が付いた嘘を守っている。手を洗わない自分に吐いた嘘を信じることが親孝行だと思っている。

 しかし、友孝行は果たせていないかも。嘘ついている時点で泥棒だ。友情を盗って喰らうはいっぱしの泥棒だ。

 奴のお尻を追って十歩もしないうちに生ぬるい空気が頬をなでる。密度の高い空気にあてられて、頬が引き締まる、ストーブ前の皆が笑っているから途中参加を感じさせない笑顔で乗り込む。そこらの有象無象よりはいいはず、仲が。

 カメラは教室の天井を這うようにしてフィクスで、自分の背中にピントを合わせる。渦の中心に進むたびに主観的な、自分の目線に合わせて手持ちでカメラを回す。もちろん、六十五ミリのフィルムの馬鹿でかいので撮る。デジタルと違って後々映像を弄ることができないし、それに加えて今を切り取ることしかないから、今あるものを今しか残せないのが好き。情報量の多さも決定打になる。

 人と人の肩がが重なっているから、右肩をめり込ませ、左腕で割って入る、最後に渦の中心にダイブして任務完了。そんなときも奴はこっちを向いて薄ら笑いを浮かべている。トイレの空気を教室に持ち込んでくる、ルール違反者。ルール違反者の顔は、まるで子供みたいに、そう子供のように薄ら笑う。

 「みんな、二分前だよ。座ってー。」

 いつもいつも授業の間さえも、時間に捕らわれて声をかける奴がいる。二分前だとか、たまに先生が来たとか。声をかける時は助かるけど、そのくらいの仕事量。で、今回も同じく声をかける。でも次は理科だから、声かけなんて意味をなさない。声かけの必要はないのに無駄骨を買って出る。でも、その声がなかったらうまく地球は回らない、脚本の一部だから狂い人でも一部は一部。そうだとしても、煙草臭い先生に払う礼儀はいらない。なぜなら本人からそう言われたから。

 その人がドアを開くといつも臭い。煙草単体の臭いは嫌いになれないのに、柔軟剤と混ざってぐちゃぐちゃにされると嫌気がさす。先生の奥さんとは反りが合わなそう。子供がいるからと言い訳しないで、子供に臭いを覚えさせりゃあいいのに。こちとら死ぬほど叩き込まれた、餓鬼の頃から、喫煙所みたいな一階で。

 ふと肌を焼くような匂いがする「お前ら、二分前着席はどうした。」

 今日は非日常。日常だったころの速度は緩やかにも、唐突にも、急激に変化し始める。言い訳するまでもなく、この速度感はいつも怖くなる。日常に非ずんば、人は獣にでもなる。

 気怠そうに黒板の前に立つ。教科書なんて持ってくるわけがなく、プリントさえも持ってこない。そんな男が言った「酒は血管を広げる、煙草は萎ませる、パチンコは脳みそがところてんになる、でも人生楽しくなる。いいか、中学校と高校とを全部親がに決められた、その反動でその三つに勤しんだ。おかげで今や勘当の身にあるから親孝行なんて知ったこっちゃない。いいか、お前らの人生だから口出す気は無いといったら無いけどな、酒と煙草は楽しめるようになれ。」

 淡々と授業は流れていく。時間が漂白されていく。窓のむこうの雲は形を変えていく。

 結局あの言葉に反応する者はほとんどいなくて、ほとんど以外の人達は隅でこそこそ笑っている。教育委員会とか父兄会とか言って笑っている。それらの特徴はみんながみんな教育委員会やらいじめ防止の電話番号を知っていることくらいだ。

 窓の向こうに目を向ける。きったない窓は景色をざらつかせている。そのせいで赤い屋根の家も黄色い外壁の家も近くの保育園も時々通る車の影も定時制の高校生の大きな背中も電線の上にとまる鳥たちも差し込む日の光も太陽の前を悠々とはばたく鳥も真横に薙ぐ風も、も、も、も、、も、もジオラマでフェイク。けれど頭の中で六十五フィルムのフィルターをかけるとフェイクに命が吹き込まれ始める。現像するまでわからない映像は、頭の中では、でも、まだ少し汚い。

 次に隣のクラスで授業を受けるこけしを思う。偲ぼうものなら偲んでみたいし、ぼろ雑巾みたいにのしてみたい。机の上には二冊ノートがある。授業用と、こけしノート。こけしノートには今日、学校から帰ってきてDMする用の話のネタを片っ端から並べていく。足りなくなって困るのは自分だから、授業の時間を削ってでもしなくてはならない。「煙草 先生 おもしろい」「漫画 十七巻 おもしろい」「お笑い テレビ 日曜」「友達 恋愛 噂」「学校 先生 ゴシップ」だとか箇条書きで連ねていく。一つ考えるのにかかる時間は五分くらい。その五分の中でこけしとの会話を頭の中で再現して面白いか面白くないかを判断する。四つに一つは没にするようにしている。厳しい基準を設けなければ、会話がもたなくなる。

 結局、授業用のノートには何も書かずに全てが流れていった。


 奴とまたトイレに行く。今日一日で最後のトイレ参拝。学校の中で一番ゆったりできる場所で、ゆったりとゆらゆら漂う。

 あてのない鮭は波に流されるだけで、生まれ故郷の臭いも忘れる。

 ドリーで始まるこの瞬間。画面の横滑りがいい。そして、ドリーインの没入感で会話の重要性とトイレという空間の奥行き、立体感を生まれさせる。

 「煙草と酒は楽しめだとよ。」今度は自分から開ける。勢いあまって窓は音を立てる。

 「うん。人生の蹴込み方は人それぞれだよ。」

 「損切り上手になりたくはないね、意味ないし、でも、ちょうどいいくらいの失敗は許す。つまずいてこその脚本だからさ、主人公だってたまにはね自分のせいで誰かがヒーローになるのを望んでいるんだよな。ここからの景色良くない?、左下は体育館、下半分のほとんどはグラウンド、奥に見えるのは山で上半分は空。圧倒的な画素の多さが圧倒的に、感覚的に狭い奥行きを表してる。」

 「映画監督か。」

 「ああ。十歳から書き留めてるよ、内容とかの構成にカメラでの撮り方、幼稚なままで進歩してないけどな。なんせ、専門の本とか資料見てるわけではないからさ。カメラの代わりに目、登場人物の代わりに自分。何言っているか自分でもわからなくなってきたわお。」

 格好よく、形だけは取り繕う。フェイクにリアルを吹き込んで、現実との乖離が進んでいく、ずれが病みつきにヤミーになる。

 「嘘でもよくね。本物か嘘かなんて議論する気ないしさ、うそが本当になったら儲けでいいじゃん。事実、身をもって体験してるし。」

 「こけしか、ひどいよな、まじでくず、死ね。」

 「簡単に言うなよな、だってな、うん、面白んだよ。」

 死ねと言った後の大きすぎるため息を吐く。眉間の寄せ方がわざとらしい。よく見るやつ、席離れているくせに、小さい声で話した冗談を、さも聞こえているふりをするあれと同じ。ため息はまだ続くが。肺の中の空気も底をつきる、息を吸って話しだす「きっも。」

 「クスッとした笑いでも、苦笑いも、泣き笑いも、腹抱える大爆笑もな全部おんなじ笑いなんだよ。それに、笑いって涙にも怒りにもなるし。」

 「は?」

 ここで間をはさむ。ストリングスのきいた音楽が静かになり始めて、クレッシェンドする。次にカプリチョーソをきかせてセリフを、最初の単語の音は裏返るようにして、どっぎまぎ感をだす。

 どんなに口数が少なくて、唯一貰えたセリフが糞だとしても人気投票はいつも高順位の奴がいる。それは今のところいらない。ストーリーの破綻が早くなるだけ。

 「笑いって感動じゃん、涙も怒りも感動じゃん。」

 「屁理屈やん。」

 「ぱちもんの屁理屈は感動でも何でもないよ。」

 「そうだな。」

 「でもね、権威のある人だったり尊敬する人の屁理屈はな、名言になるし、大衆を笑かす道具にも、家族を殺す道具にもなる。ね、おもろいやんな。」

 「理解したくもないな。」

 いかにも、といった顔を浮かべる。いまだに浮かばれへん体なのに、お互い。

 しかし、睨まれたり理解されないのは、炭酸水を、ペットボトル一本一気に、飲み干したくらいに痛い。理解されないということは今見ている景色そのものが、嘘になる。カメラ代わりの目はリアルを、映し出さなければならない。六五ミリの束縛。

 「人から与えられる理解はいらんね。」

 また、ため息。眉間の力を緩める暇が見えない。

 何か言おうとする奴を手で止める。言おうとしていた言葉を飲み下すしぐさを、見せないのは優しさだろう。優しさにあやかって甘える、コンアモーレ。白い息を煙草の煙に見たてて、窓から身を乗り出して細く細く、半分吐息で吐く。臭いのしない煙を出す煙草を小さい頃、ものすごく欲しがった。十二月の真夜中、寒い窓辺で空を見ながら心の中で願い続けていた。煙に臭いさえなければ、咳き込まないし、顔をしかめることもないし、お母さんの白髪が治って、沢山沢山良くなると思ってた。その話を思い切って打ち明けた。それを聞いた父と祖父は、その冬限定で臭いのしない、白くてか細い煙を吐いた。祖父に至っては夏でも吐こうと頑張ったから、父と大笑いしていた。

 十分間の休み時間。授業と授業の間に挟まれて息もできないオアシス。いずれこの十分間を押しつぶして、亜空間を作ってやる。誰にも邪魔できないオアシス。入ったが最後、十分間が元に戻らない限り逃げられない。

 体感時間、五分経過、あと、三分の余裕、みせつける、かます。

 「さぼろうか?」

 「夢見すぎ、屋上で寝て過ごすなんて夢の中だけにしとけ。」

 「机上の二つの夢は果たして、繋がる事ができるのだろうか?」

 マスクの上からでも、にやつく唇の動きがわかる。馬鹿にするが半分、自分と同類の笑いが半分の唇は紡ぐ「無理。」

 「さぼろうか?」もう一度試す。根性だめし、どっちが強いか。

 「以下同文。答えは変わらん。」

 「一万あったら日本どこでも行けるらしい、お爺ちゃんが言ってた。今の手持ち二万と三千。」窓を閉める。さりげない合図。残りの時間はすくない。遅れたら、変な目で見られて、気色の悪い気色で塗りたくられる。

 自分はお前より持っている、と言いたげに奴は人差し指、親指、中指の三本を立てる。けど、万が一のことを考えて三千か三百にしておきたい。そう考えておきたい。「人生からかよ。」

 「ほな行こか。」

 「行くなら大阪かな。」

 「教室だよ、馬鹿。」

 軽い掛け合いが、フットワークを軽くする。でも軽快さも教室の一歩手前の一歩手前。馬鹿笑いに馬鹿ぬるい空気がぬるこくて馬鹿みたいに乾いている。

 ドアの開く音に視線が集まる。目の前の友達を差し置いて刺してくる目。この瞬間が結構怖い。友達だと思っていたら違かった的な、先生だと思ったら違かった的な、それ。それでもまだ、ざらざらの空は青いよ。また視線は元に戻る。こっちではなく、今はさっきまでの目の前の方に。

 ここから先は早い。展開を無視したルーチンになってる。学校でのあいさつをこんにちわに固定していたら、いつの間にか挨拶をするときに、こんばんわとかおはようが声帯から出てこなくなるのに、似ている。

 大海を泳ぐ。

 机の角に三回も腰を打った。人の肩に触れた回数は数え知れない。

 次の授業のしたくはしてある。教科書にファイル、ノート、ワーク、プリント、筆箱。この確認を準備したとき、机の左上に重ねておいたとき、授業の前の三回、確認する。横に並べるとか、幅を取るような確認の仕方をする。視界いっぱいに広げないと、視界の端に何か映り込んでいたら視界が移ろってしまう。浮気癖のあったと聞く祖父に似た父の妻、すなわち母に似た目。そのせいで、追いかけるのは女の子ではなく、他の何かに移ろう。鳥、雲、山、風、屋根、青空、太陽、鞄、机、女子、男子、笑い声、黒板、先生。とめどなく溢れる何か。

 グループA、B、Cといくつかが混在する。派閥の姿かたちの在り様にも、目が移ろう、体も移ろう。海月になったみたいに、フワフワしていて、属さないとかき消される所を、どうにかうまくやっている。例えば、見たこともない芸人の話、友達の言葉をリピート再生させて、どうにか取り繕ったり。後ろからもたれかかって肩に手をかけたり。過度なボディタッチは受け入れられやすい。男子にも女子女子とした所がある。

 その女子女子にも素直なキャラがいる。素で出来ている子には驚かされる。

 キャラ創り、命。コンタクトみたいに簡単に付け替えとか、外したりだとかができたら、嬉しいのに。ただ思うだけで何も変わらない、変われない。今思えば、コンタクトが何枚も重なってしまって、裸眼の景色を忘れてしまった。

 二週間で付け替えないといけないコンタクトを、もう、三週間つけている。目が痛いと悲鳴をあげたり、母親に注意されない限り絶対に変えないせいで結果的に、三週間もつけている。

 少し乾燥してきた左目を押さえる。乾燥すると少し白色に景色が染まる。ぼやけるに近い。

 椅子に座ると同時にドアが開く。そして起立の号令がかかる。

 気を付け、礼、着席。

 授業はいつも通りの平常運転。挙手の手が挙がらない。

 雲行きが怪しくなる授業。先生の眉間の深さが、物語る先生の怒り、ふつふつと。

 その先生は内職を許さない。それを知ってなのか、否、その女子はそんな事を知らずに内職する。おとなしく、お守りをされていればいいのに、余計なことをする。ガキの時代はもう、とうに終わったから、空気ぐらいは読めよと言いたくなる。食事をするときは、無暗に器に口をつけて汚く食べるなと言いたくなる。授業中に、馬鹿みたいに声を荒げるなと言いたくなる。さっきから、先生の視線がお前に集まっているから、少しは気付けと言いたくなる。

 皆、お前が嫌いなんだよと言いたくなる。お守り役の奴でさえ、細胞レベルからの拒否反応を出していると言いたい。自分はあんな奴関わるだけ、損だと御高く留まっているけど、内心、みんなと同じだ。

 斜め後ろに振り向いて聞く「なな、数学のワークの答え。持ってない?」あの怖いもの知らずには、これがない。

 「やば、あの先生にばれたらどうするんだよ。」少し、にやついている顔。

 真後ろと隣の席の女の子も、おんなじ顔をしている。だから、にやついている顔で返事を出す。

 「任せとけって、ばれないし。あいつとは違うから。」

 「それもそう。それにお前なら、な。」

 ちょっとだけ、意味深長な笑顔。これで、周りの女子からの評判も良くなる。好感度アップ。

 わざと、ワークを渡された瞬間にワークを落とす。一瞬止まる時間。先生が気付くように声を出す。渡した奴の焦る顔、周りの女子の面白がる顔、これが欲しかった。焦り始める様子を繕って、わざとらしく大きな動きでワークを拾って、机の中にしまう。笑いが止まらない女子の引き笑い。焦る顔ににじみ出てくる安心感。

 「西川、何をしているんだ。」ぎょろっと見てくる目。

 はい、きもいー。口くさー。こっち見んなー。はい、ぶさいく日本一。頭ん中で繰り返し、なんかぶつくさ言うだけで何もできなくなる。

 わざと仕組んだけれど、でも、駄目な感じになってくる。雰囲気が凍る。

 片手に持っていた白かったはずのチョークが、ピンク色になっている。「後で職員室に来い、西川。」教科書に目を落としながらぼそっと、言われる。

 限界に近い隣の女子。汗がたれ始めるほどの焦りを、見せつけてくる。

 「嘘、嘘。今回見なかったことに、でも次はさすがに怒るからな。さっきのは言ってみたかったセリフ。」

 緩。

 冗談っぶって怒るふりをする先生。先生も先生で、生徒から好かれたいのかもしれない。

 

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いかれる、イかれる、パラレル ひなた、 @HirAg1_HInaTa

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