呪われた橋

根ヶ地部 皆人

呪われた橋

 魔術師は力無く呟く。

「なんで邪教の廃墟のなかを川が流れてるんだ」

 一方、女戦士は気軽そうに応える。

「そういう地形なんでしょ」

「なんでこんな装飾過多な橋がかかってるんだ」

「そういう宗教だったんじゃない?」

 無論、ただの飾りなどであるはずがない。

 魔術師の知覚は、橋を渡る自分の心身にいにしえの魔力が侵食してくるのを感じている。

 太古の石造りの床に刃や爪でつけられた真新しい傷が、いや刻まれた文字が、魔術師の目の前を流れてゆく。

『罠だ』『ひきかえせ』『まだ間に合う』『俺はもうダメだ』

「馬鹿なことはやめろ」

 魔術師の説得にも女戦士は耳を貸さず、鼻歌まじりに橋を渡る。

 足首をむんずとつかまれ引きずられる魔術師は、せめてこの橋にこめられた忌まわしき邪術の正体を次に来る者たちに示さんと、指先を噛み千切って呪われた橋に書きなぐった。

『この橋を渡った男女は永遠に結ばれる』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪われた橋 根ヶ地部 皆人 @Kikyo_Futaba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る