【急募】イケナイ場所にいるところを好きな相手に見付かった時のうまい言い訳!

「ふきゅぅん……」



 ドアの開く音と共に、可愛らしい呻き声が入り込んでくる。

 やっとおトイレから脱出できたのね。お疲れになったお声も可愛いわ……なんてニヤついてる場合じゃない!



 モナルク様が!

 戻ってきてしまった!!


 しかも私!

 勝手にベッドに入ってる!!


 こんなところを見られたら!

 それこそふしだらな女だと思われて嫌われてしまう!!



 慌てて私は掛け布団の中に隠れた。


 たたた確か、デスクにたくさんご本があったはずだ。どうかそれをお読みになってください!

 それが無理なら、申し訳なくて申し訳なくて本当に申し訳ないけれども、痛いの痛いのウェーブよ、再来して! モナルク様のお腹にもう一度宿って、どうかまたトイレへとお導きください!


 私の必死の祈りも虚しく、モナルク様の足音はベッドの方へとやって来た。

 どふんと、大きな衝撃が全身を見舞う。どうやらベッドに腰を下ろしたらしい。



「むぅぅぅ……」



 モナルク様が唸る。もしや私の必死の念で召喚できた!? 痛いの痛いのウェーブ!



「んきゅ」



 さらにベッドが深く沈む。モナルク様が横になられたらしい。やっぱり召喚できてなかったーー!!



「むぅきゅ、むぅきゅ」



 ついに、掛け布団をお引っ張りになりあそばれた。


 ああああ……もうダメだ……!



「ん……む?」



 掛け布団にもそもそと潜り込んできたモナルク様は――黒い二つの瞳を、不思議そうにぱちくりと瞬かせた。

 そこに見慣れないモノ――つまり、私がいることにお気付きになったせいだ。


 毛が触れるほどの至近距離。

 甘い匂いのする吐息、あたたかな体温までふんわりと感じる。



「あっ……えっと、わあー、こんなところでお会いするなんて奇遇ですわねー? いえねー、私もたまたまここにいたんですよー。モナルク様もたまたま今いらっしゃったんですよねー? すごーい、こんなことってあるのですわねー!」



 我ながら、ひどい誤魔化し方だと思う。しかし他にどう言えば良かったというのか?


 モナルク様は瞬きすることもやめ、私を見つめていた。つぶらな瞳が、徐々に大きく見開かれていく。



「き……っ」



 震えながら、もっふりとしたお口も開かれた。



「きゅわああああああん!!」



 そうして、耳をつんざくほどの大音量の大絶叫が解き放たれた――。



 ええ、その後のことは想像通り。

 駆け付けたベニーグにモナルク様のベッドにいるところを見られて、死ぬほど叱られましたとも。


 でもモナルク様がずっと『ぎぃやあん! ぎえええん! ぎょわあああん!』と叫んでくださっていたおかげで、耳がしばらく聞こえにくくしまって、ベニーグの叱責も音量最小値でしのげたわ。モナルク様ったら、本当にできる方ね!


 はい……モナルク様、ものすごく驚いたようで、ベッドの隅っこに蹲って震えながらだばだば涙を流していらっしゃいました。その点については、心から深く反省してます。お花の件に引き続き、本当にごめんなさい。

 でも……お泣きになるお姿も、とても可愛かったです。



 あーあ、今日は失敗ばかりだったわ。


 だからといって、ここで引くわけにいかない。


 私がモナルク様の婚約者になれるかどうかで、フォディーナ伯爵家の命運は大きく左右される。何やらきな臭いことも起こっているようだけれど、私が婚約者の座に収まればそれも落ち着くだろう。


 だけどそんな事情を抜きにしても、私はモナルク様のお側にいたい。


 私の後にも、きっと他の令嬢が婚約者候補としてやって来る。その方がとても良い人で、モナルク様もお心を開いて、モれ合い、愛し合い、結ばれて……なんて想像するだけでつらい。つらすぎて苦しすぎて痛すぎて、目の前が真っ暗になるほどの絶望を感じる。


 ダメよ、アエスタ。そんな想像で絶望死してる暇などないわ!


 失敗は次に活かして、収穫を肥やしにしてまた明日から頑張るのよ!!




■アエスタによるモナルク様観察記録■


・ダンスのラストは転ぶのがお約束芸

・モナルク様は絵がとてもお上手。触れたら温もりを感じそうなほどの描写だった。でも他の絵も描いてほしい。

・口笛が吹ける。キス顔を連想して腰砕けそうになった。

・青いヤハリソーカーネーションを気に入ってくださった

・モキュアにとってお花はお肉のようなもの。食べすぎるとお腹を壊す。

・モナルク様のお部屋、いい匂い! モナ毛たくさん収穫できた!

・ブラシを使ってくださっていた! でもそのせいで毛を拾いにくくなったと思うと複雑……でもでも嬉しい!

・至近距離で見るモナルク様、可愛いという言葉じゃ足りないくらい可愛かった……どアップになっても何一つとして欠点が見当たらなかった。可愛さもアップになっただけだった。

・モナルク様がハダカケナシグマになる想像をしてみた。それでもやっぱり可愛い。

・他の方と結ばれるところも想像してみた。無理。心が死ぬ。二度と考えない。

・私、モナルク様が好き。人間のことは嫌いでいいから、私のことは好きになってほしい。ワガママだけどこれが本音。



□シレンティ用ベニーグ情報□


・協力してくれるのかしてくれないのか、今ひとつわからない。

・シレンティのブラッシング効果で、毛艶が良くなった気がする。本人には言いたくないけど。

・私のことを心配してくれているようだ。優しいところもあるのかも?

・初めて笑顔を見た。見慣れなさすぎて不気味だった。



[シレンティからの追加情報]


・ベニーグには、自分でのブラッシングを禁じているという。やりすぎて逆に毛を傷めてしまうんだって。

・悪役令嬢物の本は、モーリス邸の書庫にもあったそうだ。書庫にあるなら多分モナルク様も読んだことがあるということだから、今度ストーリーについて聞いてみよう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る