Phase 6 チームメンバーを求めて

放課後になり、玲は教室を出た。一人昇降口に向かう。

 玲の特異性が知られてしまったので、休み時間は質問攻めに合うかと思っていたが、特段そんなことはなかった。いつから見えるだとか、玲以外でも習得することはできそうなのかとか――二つ三つ尋ねられたが、その程度だった。

 玲には好ましい距離感で、ホッとしていた。

 玲が階段を下りていると、

「日高玲、ちょっといい?」

 聞き覚えがある声に玲は振り返る。

 制服姿の鬼丸朝日が階段の踊り場に立っていた。助けられた日を除くと、朝日の方から接触してくることはほとんどなく、校内で出会うと玲が軽く会釈する程度だ。

 話しかけてくるのなら何かあるのかもしれないと玲は彼女のいる踊り場まで戻る。

「なんですか? 鬼丸先輩」

「…………」

 自分から呼び止めたのに朝日はなんだかムスッとしている気がする。いや、いつも取っつきづらいし普段通りかもしれない。

「……鬼丸先輩?」

「その、鬼丸先輩って呼ぶのやめてもらえない?」

「……鬼丸、さん?」

「もう……違うっ! そこは普通、朝日先輩って呼び方になるでしょう!」

「そっちですか!? すみません、名前で呼んでいいものかと……」

 玲は目を丸くした。横を向いた朝日の白い頬がやや紅潮している。

「鬼丸って、字面もイメージもぜんぜん可愛くないから好きじゃないのよ……」

名前プラス先輩だと馴れ馴れしすぎると思ったが、問題はそこではなかったらしい。

「えっと……それじゃあ、朝日先輩。今日はどうしたんですか?」

 朝日は小さく息を吐くと、一瞬で引き締まった顔つきになる。

「在学生で魔法化学士隊の補欠チームを作ることになったから」

「へー、そうなんですか。学生の内から活動するなんてすごいですね」

 教師や学校からの連絡でそんなことは通達されていないはずなので、秘密裏の活動になるのかもしれない。朝日もきっと補欠チームに参加するのだろうと玲が推測を立てていると、ため息が聞こえてきた。

「……あなたもメンバーに入ってる。じゃなきゃ、わざわざ伝えに来ないわ」

「なんで僕が!?」

「総司令官はあなたに期待している。この班はあなたの力を実戦で試すためでもあるんだから」

「きょ……拒否権がない」

「求められてるのに、何が不満なのよ……」

 朝日がそっぽを向いて、そう呟いたことに玲は少し驚いた。朝日も口に出していたことに驚いたのか目を大きくする。

「……と、とにかく、あなたの言う黒い霧とクラプターには何らかの関連がある可能性が高いらしいの。だから、危険な中度クラプター発見の切り札になることを期待されているのよ」

 朝日は意識を無理やり切り替えるように、すぐさま説明を付け加えた。

「中度クラプターって、やっぱり問題を起こしてるんですか?」

「ええ。総司令をはじめとするMaCHINZRマシンザーの上層部は、メタトロンと呼ばれるクラプター集団を今最も危険視しているわ」

 玲も何度かその組織の名前を聞いた。もし玲を誘拐しようとしたのがメタトロンのクラプターなら、彼らはただ苛立ち暴力を振うのでなく、何らかの目的を持っているという推測も間違っていないだろう。

「ところで僕たち以外のメンバーは決まってるんですか?」

「私の最初のミッションは、残り二人を勧誘してチームを結成することよ」

「……前途多難ですね」

 学校やそれこそ総司令が指名してくれたらいいのに、と玲は思ってしまう。

「まったく目星がないわけじゃないわ」

 朝日がブレスレット型マジック・デバイスに触れると、立体ホログラム状のタロースが現れた。

「タロースちゃんのスペシャルレコメンドの出番だね。今までの成績や日常生活の行動データから導き出された結論はこの2人~!」

 テンション高めにタロースが宣言すると、二人の男子生徒のバストアップ映像が展開された。一人は水色の髪をした端正な顔立ちの生徒で、大人びた雰囲気がある。

もう1人は鮮やかな茶髪と強い目力で、見るからに威圧感がある。さらに制服をだいぶラフに着崩していて、ネクタイも外している。アルカディア校ではかなり珍しいタイプだ。

 タロースが青髪男子のホログラムを手前に移動させる。

「最有力候補は鍋島なべしま直樹なおき。アルカディア本校・高等部三年で生徒会副会長を務めているよ。実力は折り紙付きさ」

 玲は人を肩書で判断するつもりはないが、そう説明されるとチームに参加してもらいたくなる。

「けれど、今日は用事があって分校へ出かけているみたいだから鍋島先輩は後日ね」

「もう一人はどんな人なんですか?」

「タロース……続きをお願い」

「OK♪ 玲も朝日みたいにどんどんボクを頼っていいからねー」

 玲がちらりと朝日の方を見ると、眉を寄せ難しい顔をしていた。

少し気になった玲だが、タロースの人物評に耳を傾けることにした。タロースはホログラム映像を切り替える。

「彼は大町おおまち雄一郎ゆういちろう。魔法化学士としての才能は申し分ないし、何十人もの人間をまとめ上げるリーダーシップもある」

「何十人!? とても優秀なんですね」

「そして彼について特筆すべきはアルカディア本校始まって以来の――」

 タロースの発した言葉を耳にして、玲は間の抜けた声を出した。

「……はい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る