魔法少女は何と戦うのか
花ノ宮 紺梨
妖精が見える少女
わたしは他の人とは少し違うようで、昔から不思議な生き物が見えていた。
「りりな、そやつらのことは喋るな。お前が辛くなるだけだぞ」
わたしのために言ってくれたことは子供ながらに分かってる。
不器用な私は、その一言だけでうまく話せなくなった。
恨んでいるわけじゃない。
自分のせいだと分かっている。
「りりなちゃん、中学校は違う学校に行ってみようか。きっと環境が変わればいろいろいい方向にいくわよ」
気遣いの言葉は屈辱的にしか感じられなかった。
「いってきます」
それでもその選択肢を選んだのは無意識のうちに変化を望んでいたのだろう。
◇
「はい座って座って。じゃあ簡単に自己紹介しよっか」
私立セイブル学園。いわゆる女子校だ。一番下は幼稚園から一番上は大学院まで。世間ではお嬢様学校と呼ばれている。
確かに机と椅子の質感とか教室の雰囲気とかお嬢様感があるというかなんというか……
「明星ありあさんからお願いします」
自己紹介とかだるいなー。
深見真凛は頬杖をついた。彼女はとにかく家に居たくなかった。本当は勉強なんてしたくなかったが家を出れればそれでいいと思っていた。
勉強はそれなりに頑張った。
だが、行きたかった学校の試験で失敗したのだ。
落ちた上に燃え尽き症候群。
自覚はしているがどうにも治せそうにない。
「ん? 明星ー! 居ないのかー」
嫌な予感……
「たしか深見だよな? 明星と寮で同室の」
必死で伏せた目は無意味だった。
「どうやら明星が迷子みたいなんだが探してきてくれないか?」
っだぁぁぁぁぁぁー!!!???
「わ、わかりました……」
断ったら好感度下がるに決まってんじゃん断れないじゃん!
「あの良かったら私もご一緒しても?」
「え?」
腕をトントンと軽く叩かれ、隣の少女を見た。
眼鏡をかけたポニーテールを揺らした彼女が微笑んでいた。
◇
「なんかごめんねーアイツ自由人なんだよ」
「いえいえ大丈夫ですよ。せっかくなのでしたかったんです、学校探検」
見学に来た時から使っている地図を見ながら迷子の明星ありあを探す。正直私は全く探す気はないが相方はそうでもないらしい。
「そういえばまだ名前聞いてなかったね」
「あっ! そうでしたね、すみません」
慌てた顔をしながら丁寧に体を前に倒し、謝られた。
「ちょっ、やめてよ! 私だって名乗ってないし」
少しびっくりしながら空気を変えようとして咳払いをした。
「私は深見真凛……ってさっき先生が言ってたか」
「深見真凛さんですね。よろしくお願いいたします」
「まりんでいいよ。で、あんたの名前は?」
「そうでしたね」
少し雰囲気が変わった気がした。
「私は花園りりなと申します。家は花園グループで……」
「花園ってあの!?」
ホテルやら製薬会社やら保険会社やら手広くやってるあの大手グループの!?
さすがセイブル。右も左も金持ちか?
「後で言うと驚かれてしまうんです。なので先に」
「そ、そう」
そりゃ驚かれるわ。
「明星さん見つかりませんね。居そうな場所とか心当たりありますか?」
話題を逸らすように会話が展開した。
「図書館……と言いたいところだけど今閉まってるか」
「もしかして寮に戻ってしまったりとか?」
「寮も閉まってそうだけど玄関前でうずくまってるかも」
「行ってみます?」
悪いがあんな奴のせいでこれ以上時間を割かれたくない。
「教室にいるとかない? ここからだと寮より教室の方が近いし一回戻ろ?」
「うーん……」
顎に手を当て考えている。本心を悟られないように必死に作り笑いをする。
「それもそうですね。戻りましょうか」
「しゃあっ!! ……んんっ帰ろっか」
ちらっと彼女の方を見たがよくわかっていなさそうだった。
◇
「楽しかったですよ。そんなに心配しないで。自己紹介だって上手くいったんですよ。それとその前に人探しをしたんです」
いろいろあって寮に入ったのは結局入学式当日になってしまった。
この部屋から見る夕焼けは初めてだ。
入学式に家族は誰も来なかったけれど楽しかった。深見さんとも話せたし、他の席の近くの人とも話せた。
明星さんは自己紹介が終わったのを見計らったように教室に入ってきた。
明日はちゃんと話せるかな。
「じゃあまた」
さて、もらったプリントを片付けましょうか。
「あら?」
筆箱がない。教室に置いてきた?予備の筆記用具はありますが……
「せっかくですし取りにいきましょうか」
廊下に出ると他の部屋からは様々な話し声が漏れている。
いいなぁルームメイト。
運がいいのか悪いのか私にはルームメイトがいない。加えて最上階の端で隣の部屋は違うクラスの人だ。
教室での仲良しグループも近くの部屋の人で固まっていた。
「これも運命です。乗り越えていきましょう」
「何ぶつぶつ言ってんのお前」
寮から学校への道で誰かに話しかけられた。
「あ、すみません! ただの独り言です」
「ふーん」
サングラスに金髪……グローバルです。
◇
「見つかって良かった」
両手でしっかりと筆箱を握る。特に大事なものというわけではないがなんだか両手が落ち着かないのだ。
浮き足立っているのかも。
周りには部活や委員会の仕事をしている生徒がいる。
今日からここで生活をする。
なんだか急に実感が
ドンッ!
爆発音がした。
一瞬、身体全体が痺れるほどの圧を感じ、思わず後ろに一歩下がる。
だが周囲の人間は気にも止めず各々の作業をしている。
「今のは一体……」
「美々! 鼓膜ダイジョブ!?」
後ろから大きな声がしたと思ったら横をすごい速さで誰かが跳ねながら駆けていった。
「問題ありません! 先に行きます」
前方の少女は少しだけ後ろを向き、先ほどの声の主に応えた。
「ウチもすぐ追いつくか、ら……」
「あっ……」
聞こえた声の方向に視線が向く。
走っている女性を目で追った。
目が、合ってしまった。
「キミ!人助けと思ってちょっと協力してくんないかな!」
「あ、あの……!」
「とりあえずこっち!」
腕をがっしりと握られ、彼女に合わせて走るしかなかった。
何も説明がないままその場所に辿り着く。
「これは……」
学園内の森の中、少し開けたその場所で、大きな木が一本。怪物のように枝を唸らせ一人の少女を狙っていた。
「美々ー! スケットー!」
「……」
美々と呼ばれた彼女は無数の枝を避け続けていた。軽々しく飛んだら跳ねたりしているが目線はその大きな木だけに向けられている。
「魔法が感じ取れる超絶運のいい子にプレゼント! 魔法のステッキだよ!」
いまいち状況が飲み込めない中、宝石が付いた短い杖を押し付けられた。
「あのこれは」
「これで殴ればあいつ倒れるから。手数は多い方がいいでしょ?」
右手にステッキ、左手に筆箱、眼前には化け物。
「……まるでアニメみたい」
「おっ! やる気? やる気ある感じ!?」
「これいりません」
ステッキを押し付け返し、ついでに筆箱も押し付ける。
「え、ちょっと!?」
「ちょっとだけ期待してたんです」
望んでいた変化、それは中学生特有のもの。
「魔法少女って中学生とか高校生が多いんですよ」
髪を束ねていたリボンをほどき、眼鏡を外す。
「これもお願いします」
「なになになにー? 何する気?」
いまから何百年も前、多くの魔法使いたちはこの世界にやってきた。
長い間秘匿にされてきたそれは、私たちが生まれる前に起こった戦いによって知られてしまった。
だが、多くの人にとっては噂程度。
戦場を知らない一般人には分かりようがない。
明らかに戦い方が変わったのだ。
一般人には関係のないこと。
それでも魔法使いの一族はずっとこの世に根付いている。
「フェアリーゲージ」
少女の下に魔法陣が現れた。
淡い桃色の光は、その大きな怪物を包み、四方から貫いた。
花園りりなは妖精の魔女である。
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