第105話 邪神デズモア・ルキフェ・1

 地下大闘技場。


 カジノの下にあるということはこれも立派なゲーム内施設である。

 そしてここではモンスター同士の戦いを見ることができるが、勇者パーティが入ってもゲーム上差し支えない。

 それにコマンドバトルで戦っている限りは、ゲーム内設定が反映されるので会場や施設に被害はでない。


 キラリの攻撃も使い放題である。

 それに本来コマンドバトルに入ると、他人の目では分からない。

 それを利用してレイはエルザと入れ替わったこともあったが、ここはなんと観客がその様子を見ることができる。


 そして賭けることも可能なため、そういう楽しみ方もできるだろう。

 だが、今回の戦いはむしろ見てもらいたい、そんな理由からMKB、ラビ、イーリが率先して動いてくれた。


 ちゃんと、何かあったら責任取りませんのサインも貰っているという。


「アズモデーがんばれー‼」


 という声など……、一名からしか聞こえない。


「って、イーリ!なんで、ご主人に賭けないのよ。あんたバカ? 」

「大穴だ……。これで俺の地獄が終わる……。借金生活なし!海外旅行生き放題で遊び三昧なんだぜ!?」

「それと引き換えに、全ての人間と魔族に敵認定されてるけどね。っていうか、世界が滅びるんじゃなかった?」

「えぇ? そんなぁ……、まさか、たかが賭けで……、って!じゃあ、アズモデに掛ける意味ないじゃないっすか!ガンバレー、魔王様ー!」

「そうですよ。——ご主人!頑張ってください!あとウチもヒロイン候補ってどういう意味ですかー!?」


 この二人も頑張ってくれていたらしい。


「ねぇ、マロンー。なんか魔王様と人間の娘の距離近くない?」

「カロン、今は戦いなのだから、呪っちゃダメよ?あとからヴァンパイアの権能で従属化させればいいだけなの。」

「えー、ボロンはぁ。魔王様なら、ぜーんぶ侍らせてほしいけどなぁ。でも、私が一番なのは間違いないわよねぇ……、ねぇ、豚。」

「はは、その通りです、ボロン様」

「ねぇ、マロンお姉様、カロンお姉様、この豚、卑しくも魔族語を話すみたいなのよー。躾が必要かしら……」

「ブヒ!ブヒブヒブヒー!」


 MKBが頑張ってくれた。

 そして、鈍色の毛並みの豚さんがペットになったらしい。

 豚さんも言葉を理解しているのか、楽しそうにしている。


「せやけど、ほんま魔王になるっちゅうのはすごいことやなぁ。」

「ソカー、デモー、僕ノ子分ノ毒ガアッタカラナンダヨー」

「わ、めっちゃ声高いな自分!」


 他にも。


「リディアちゃんー、サラだよー!私にも白馬の王子様が来たみたい。リディアちゃんもよかったねー! 念願の勇者様と一緒になれて!」


 今まで出会った魔族たち。

 会場の声がちゃんと聞こえる。


「サラちゃーん、生きてて良かったー!でも、その白馬の王子様は私の白馬の王子様だからー!」


 世の中のハーレム好き男子よ。

 これ、どうしたらいいのだろうか。

 もはや会話がカオスでしかない。

 ゲーム画面上のハーレムには慣れていても、だがリアルになると肩身が狭く感じる。


「全く……。どこもバグだらけだ。1mmもストーリーに関係ない。それどころか勝手な動きを……」


 直径500mのコロシアムの中央に直径400mの闘技場がある。

 その中央部にビリビリと雷光を放ちながら、アズモデが姿を現した。

 本来のこのゲームのバトルシーンのようだった。

 背景が闘技場の壁、そして中央にボスが立っている。

 でも、バトルスタートにはまだ早い。

 だからレイは、彼に声を掛けてみた。


「アズモデ、本見ろよ。たぶん、俺だったらこう言ってる筈だ。第一形態めんどいからすぐに第二形態になれよ、デズモア・・・・ってな。」


 レイのその言葉に、ついにアズモデが反応した。

 今までは無視を決め込んでいたが、一度本に目を通した後、彼の肩が震えた。


「どこでそれを知った。これがバグ。いやウィルスか?無論、最初からそのつもりだ。勇者様からのお達しなのだからな。だが、負けてやる気は微塵もない! 覚悟の必要もない。ただ、消えろ。」


 そして、この世界で最後のバトルが始まる。

 それはレイが初めて戦うターン制バトルだった。



          ⚔


「アズモデの様子がおかしい」

「アズモデの様子がおかしい」

「アズモデの様子がおかしい」

「アズモデの様子がおかしい」


「アズモデの正体は邪神デズモア・ルキフェだった。」


 金色の髪に変わるが怒髪天をつくかのように逆立っている。

 そして四肢の至る所から棘が突き出ており、さらに二本の両腕が増える。

 一見ドラグノフと同じように見えるが、中身はまるで別だ。

 デズモアは漆黒の魔神の鎧に身を包み、グループ攻撃可能な巨大な鎌、通常攻撃の剣、攻撃魔法用の杖と回復魔法用の錫杖を持っている。つまり魔法が解禁されたドラグノフであり、防御力もさらに高い。全てのキャラの中で飛び抜けて強い。


0ターン目


「ひれ伏すが良い!」


デズモア・ルキフェは怒れる波動を放った。

アルフレド達にかかっていた魔法が全て解除された。


1ターン目


「燃えていなくなれ!」


デズモア・ルキフェはマグマの炎を口から吐いた。

レイは100の、アルフレドは150、リディア、アイザは200ずつのダメージを食らった。


「なるほど、前衛は炎耐性持ちか。ぐぬぬ、ならばこれだ!」


デズモア・ルキフェは破壊の鎌をを前衛に向けて振った。

レイは200の、アルフレドは150のダメージを食らった。


「みんな、作戦はMP節約だ。アイザ以外は上級魔法の使用禁止。アルフレドは常にオーブを使い続けろ。緑のやつだ。リディアは全体保護魔法メビウスの加護だ。アイザはそのまま氷系の魔法とぶっ放せ。」


「分かった。グリーンオーブ! ぬ、少し亀裂が……。」


「大丈夫だ。何回か使える。でも運が悪ければすぐに壊れる。悪運が強い俺が使うよりはずっとマシだよ。」


アルフレド達は緑の光に包まれて、150ずつ回復した。


震える氷の剣シバリングアイスソード


 アイザが氷系最大の単一攻撃魔法をデズモア・ルキフェに氷の刃の魔法を放った。 

 デズモア・ルキフェに1000のダメージを与えた。


「すごい!めちゃくちゃきいたのら!」


全体保護魔法メビウスの加護!」


 レイ以外の全員の魔法防御、物理防御が15%上がった。


「えええ、レイ様には効かないんですか?」


「そりゃ、魔法名から察してくれ。魔王が女神の加護は受けられないだろ。」


「大丈夫なのか、レイ。このコマンドバトルは……」


「アルフレドは散々やってきたんだろ。今回は俺のために頼むよ。それにとっておきが何個もある。」


 レイはスキルを使った。


龍の逆鱗ドラゴニックアンガー!」


 デズモア・ルキフェに2000のダメージを三連続で与えた。


「すごいです。これ、もう倒せちゃうの?」


「そんなわけはないよ。デズモアのHPは400万もある。はっきり言って普通の攻撃じゃあ倒せない。だから補助魔法を最初のうちは連発すんだよ。」


2ターン目


「そんな簡単にさせるわけがないだろう。会話が筒抜けだぞ。」


 デズモア・ルキフェは怒れる波動を放った。

 アルフレド達にかかっていた魔法が全て解除された。


「お前なぁ!空気読めよ!」


「ふん、付き合う必要はないな。」


「じゃあいい。お前のおかげでノーリスクで技が使える。リディア! この戦いだけLPというゲージが溜まっている筈だ。その力をアイツにぶつけろ!」


「え、えと宜しいのですか?」


          ♡


リディア「レイ、私……、家事とかあんまりできないけど……」


レイ「気にするなよ。俺はお姫様というだけでリディアが好きになった訳じゃない!リディアには実は庶民的なところがあって、ちょっと天然で。意外と家庭的なところがある。そこが堪らなく好きだ。刺繡とかも出来るし、可愛いぬいぐるみに囲まれて寝ているところも可愛い。」


リディア「え!……私が家庭的!えっと、刺繍は……って、なんで知っているんですか。でも、私もレイに手を握って一緒に寝るの、凄く好き。」


レイ「俺もだよ。リディアが側にいるだけで、俺は心が癒される。愛してるよ、リディア。」


リディア「はい!私も、愛してます!」


レイ「だったら、目の前の愛の障壁を取り除こう!」


リディア「はい!一緒に!一番乗りで‼」


レイ&リディア「お前は馬に蹴られて地獄に堕ちろ! プリンス&プリンセス・キャワキャワビーム‼」


         ♡


 二人は抱き合いながら、光の帯をデズモア・ルキフェに放った。

 デズモア・ルキフェは20万のダメージを食らった。


「ガハッ……、なんだ、このムカつく『力』はぁぁ!」


「ここだけで使える専用スペシャル技に決まってるだろ。何の為にお前が存在していると思ってんだよ。……確かに俺とリディアのセットになったのは、色々と申し訳ないけれど!それにわざわざ1ターンくれたんで早めに出せた、助かる。あ、リディアは車にいるキラリと交代だ。」


「ええ⁉今、愛を確かめ合ったのに、……ですか?」


「人数多いから、大変なんだよ。また、あとでな!」


「ううう、イケズです!」


 と、言いながらリディアは車の中にいたキラリと交代した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る