第6話 この頃になると、何回目の授業かもうわからない。8ヵ月ほど学習を続けた頃合いでした。
今日から、未来形の勉強が始まりました。
イタリア語って、動詞の活用パターンが多いのです。
言葉にはそれぞれ「癖」があるもので。
動詞の活用形が多いのはイタリア語の癖。
名詞が女性名詞、男性名詞、さらにその複数形と複雑なのもイタリア語の癖。
それに合わせて形容詞も語尾が活用変化するのも、イタリア語の癖。
癖が強いんじゃ!
先はまだまだ長いです。
それはそれで、まじめに勉強するわけですが。
早速練習ということで、未来形を使って話してみなさいということになる。
「来年はどうするの? 来月は? 来週は? 今晩は何をする?」
そんなもん、先の計画を立てて人生を歩んでいる人が世の中にどれほどいるのか?
その日暮らしで精いっぱいやがな。
「週末はイタリア語の勉強があるので、旅行とかは行きません」
的なことを、しどろもどろで答えたところ。
「それは、pigroだからなの?」
と、問い返された。
はい、出ました。「pigro」!
「怠け者」という意味ですね。
以前は、このフレーズに心が折れて引き下がったわけですが……。
今日は、違うぞ。戦いました。
「それは、考え方による。外出するのが好きじゃないだけだ。家にいてもやることはたくさんある。非常に勤勉なのだ!」
と、言いたかったのですが、当然うまくは言えません。
それでも、くじけず何とか言葉をひねり出しました。
「勤勉ていうのは仕事について使う言葉よね。でも、言いたいことはわかったわ」
じゃあ、家で何をしているのと聞かれたので、ブログを書いたり、電子工作をしたり、プログラムを書いたり、いろいろやることはあるとこれもしどろもどろで訴えた。
「へえー、凄いじゃない?」
分かってか、分からいでか、怠け者ではないのねと、納得してくれたようではありました。
授業が終わって、先生が宿題のコピーを取りに行っている間、ぼーっと待っているのも芸がないので、黒板を拭いてきれいにしていました。
そこへ先生が帰ってきて、
「ありがとう。確かに勤勉だわね」
と、ほめてくれました。
ちょっとうれしいけれど、違うねん。これは「陰徳」でええねん。
褒められよう思うて、やってることと違うねん。
少し世の中がうまく回る。
そう自分が、納得できればそれでええねん。
イタリア人に、わかるかなあー。
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