2
記憶よりも混沌とした部屋に、
ぎっしり物がつまっており、大半が正体不明だ。
本やDVDはまだわかる。
あの大量のうちわは何だ。いろんな形の
そのすべてが、赤・緑・黄・紫・青の五色にわかれている。
原色の多さに目がチカチカするし、部屋中の目が多いのもこわい。
こんなに写真を飾る必要があるのか。
ぐるりと部屋を見渡した青寿は、ふと
この光景、どこかで――。
エリート天人の脳みそは優秀で、パッと光景が浮かんだかと思うと、芋づる式に記憶がよみがえった。
数年前、裁判所に
なんでも、200年以上家賃を
後学のために
滞納者の天人は、独身にもかかわらず、しきりに「俺の嫁が!」と叫んでいたのが、異質だった。
思い出せたのに、まったくすっきりしない。
むしろ不安が増した気がする。
青寿は顔をひきつらせ、五人組の青年が楽しそうに笑う特大ポスターを見やる。
「
「え!? 青寿も知ってる!? いいわよね、吹雪!! 私はわかばくん推しだけど、青寿は誰推し!?」
「……とくに無いかな」
「――わかる! 五人とも良すぎて選べないわよね!!」
はあーっ、と
そうして、青寿から受けとったワッフルケーキの箱をあけて、歓声をあげた。
「お茶入れるから、そのへんに座って」
「……どこ?」
「あー、ちょっとまって」
沙羅は二人掛けのダイニングテーブルにちかづく。
テーブルは物置きに、イスは服がかかってハンガーになっている。
沙羅は床のダンボールをひろい、テーブルの物を一気にその中に落とす。
服はかかえて、部屋の隅にある
「よし、片付いた」
「沙羅。
「知ってるわよ。何年、下界にいると思っているのよ」
「13年7ヶ月と8日」
「青寿の記憶力って、きもちわるいわね」
軽く言って、沙羅はお茶の準備をはじめる。
その背中を、青寿はみつめる。
沙羅とこんなに話すのは34日と1時間2分ぶりだ。
遠慮のない会話は親密の
天女の沙羅は16才の見た目のまま、のびやかな手足がうつくしい。
天人の青寿は20歳の姿、はたからみてもお似合いだ。
幼な妻、新妻、
今日こそ、彼女を連れ帰り、求婚する。
794年9ヶ月11日の片想いに、決着をつけるんだ!
「青寿はどれ食べる?」
沙羅が笑顔でふりむく。
お盆に乗ったふたつの
沙羅が
だからその翌日に贈った湯呑みで――それが
青寿のまえに置かれたのは、淡いグリーンからブルーになっている湯呑みだ。
上下で変わる色合いに、はりつけられた
中身は
青寿がいちばん好きなお茶で――それがもう、彼女の答えではないのか。
青寿はおもわず沙羅を凝視する。
沙羅は、ブルーからピンクのグラデーションの湯呑みを置いて、ふわりとすわった。
「私、キャラメルナッツにしよ。青寿は?」
「俺はいいや」
だって胸がいっぱいだ。
結婚式は盛大に――
さいきんは天界でも洋装が増えてきたから、ウェディングドレスにカラードレス……やばい、視界がうるんできた。
青寿は
「ごめん、洗面所貸して」
「いいけど、なんで?」
「ちょっと……まぶしくて」
それだけ言って、席をたつ。
なごりおしくて振りむくと、沙羅がいぶかしげに首をかしげているのが見えた。
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