第3話
後ろの明石が可愛らしい小さい悲鳴を上げた。
森を抜けると、そこには石の橋でできた道が一本。映画やゲームで見たお城へと続いていた。通行人は皆、男はチュニックや女はワンピースと頭巾をしている服装で、せっせと色々な物資を城へと運んでいた。
不思議と途絶えない通行人の一人に俺は自転車を停めて話し掛けた。
「あの、すいません。向公ヶ丘高校はどこですか?」
親切に重そうな荷物を下ろしてくれたその男は、しきりに首を傾げて、「聞いたこともないな」と言った。
「ねえ、タイムスリップかなにかじゃなえ?」
俺の背に未だに抱き着いている明石は、呟いた。
俺は真っ青になった。しかし、瞬時に訂正した。
「タイムスリップなら江戸時代とかだろ? 多分、現実じゃなさそうだけど、何か不思議なことが起きたんだよ。ひょっとすると電柱にぶつかっただろ。気を失ったから、今は病院の一室で寝ているか、その場で倒れているかだよ」
明石は急に笑い出した。
「あははははっ! それすっげえ楽しいじゃねえかーー! 何かうまい物とか金銀財宝とか王様から貰いに行こうぜ! おれ朝飯食ってねえから腹減ってんだよ!」
明石の提案で、俺も学校を忘れてゲームのような世界で、夢心地になりだしワクワクして王様を探した。当然、城にいるだろう。
石の橋を自転車で快適に走行していると、大きな木製の正門が見えてきた。
中世の甲冑を着た門番が「止まれ」と声を張り上げた。
「君たち。どこから来た。救援物資は持って来たのか?」
門番は大勢いて、その中でのリーダーらしい人物が聞いてきた。
「えっと、持っていません。日本から来ました」
「なんだと、何もない?日本? 成程。どこか聞いたこともない遠い国から来たんだね。今、この城は南東からの黒い霧で作物が全然収穫できなくなっているんだ。だから、近隣の国から救援物資を集めろと王のお達しだ。何も持っていないなら仕方ないな。通っていいぞ」
「ありがとうございます」
「ねえ、おれ、王様に会いたい。どうしたら会えるんだ?」
明石が目を輝かせて尋ねた。
「王との謁見を希望するなら、大臣の許可が要りますよ」
俺と明石は自転車で賑わいを見せる城下町へと走り出した。
「それにしても、変わった服装だな」
門番の一人が言った。
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