第2話

 実を言うと、女子の中では中学時代まで一番明石が好きだったが、綺麗好きな俺はだんだん近づけなくなっていった。

 明石がまだ良い子だった頃。中学校時代に二人だけで海辺で空を埋める星空を見つめた時は、さすがに思い切って告白しようかと思った。今では告白なんてしなくてよかったと思っている。

 別のかわいい女の子を現在探し中。

 ほとんど、寂れた店のシャッターの閉まった商店街を走行中。新聞紙がひらりと舞う。

 ここは熊笹商店街。数年前から閑古鳥が鳴く。


「なあ、後何分で着くんだ。もっと急げよ。おれ遅刻はこれ以上するのヤバいんだぞ」


 突然、目の前に黒猫が素早く横切った。猫は本能的に轢かれそうになったと思い。悲鳴を上げた。俺はハンドルを持つ手に力を入れて急ブレーキをかけた。



 キキィーーーー。



 という危機的な音の後、明石が瞬時に俺の背に抱き着き、俺は全力でハンドルを猫の反対に向けるが、その方向はポスターが張られた電柱だった。


 

 電柱に激突する瞬間。

 ラウル国の危機というタイトルの映画のポスターが脳裏に焼き付いた。







 気が付いたら、俺は土の匂いがする場所で倒れていた。

 自転車が目の前に転がっている。

 そこはさんさんとした太陽が漏れ出る森の中だった。

 すぐそばに、明石も俺の背に抱き着いた格好で気を失っていたようだ。


「おい! ここどこだ! このままじゃ完全に遅刻だぞ!」


 俺は辺りを気にせず叫んだ。

 ゆっくりと起き上がった明石はハッとして、辺りを見回した。


「嘘! なんでこんなところに来たんだよ! 学校どこだよ! 俺、出席日数少ないから超ヤバいんだよ!」


 明石も俺もここがどこか解らず。自転車に乗って必死に学校への道のりを探した。

 森を抜けるために数十分。

 長閑な小鳥の囀りや顔にくっつく大量の羽虫。衣服が汚れる尖った小枝や緑色の葉など、綺麗好きなのも忘れるほど切羽詰った頭には、ただ全てうっとうしかった。太陽光が疎らに枝の合間から地面を照らしていた。




「あそこから抜けれるんじゃないか?」


 明石は今でも俺の背に抱き着いている恰好で、樹齢何百年もの巨木との間に、少し盛り上がった土があった。その先に人工的に開いた道があるのを見つけた。


「行ってみよう! 森から抜ければ学校への道は誰かに聞けばいいんだ!」


 俺はハンドルを握り、盛り上がった土を少しジャンプして乗り越えた。

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