銭男(ぜにおとこ)

@k0905f0905

第1話

「頼む!千円、千円でいい。貸してくれ。

必ず返すから。なっ!」

大野辺義彦が道行く人に次々と縋りついた。

「頼む!息子が大怪我をして治療費が

どうしても足りないんだ。頼む、頼む」

通行人が大野辺を足蹴にした。

通行人がその場に腰を下ろして

大野辺の顎を指でヒョイと持ち上げた。

「いいか、オッサン。みんな自分の生活で

手一杯なんだ。おちょくるんじゃねぇよ!」

通行人の若者がまた大野辺に蹴りを入れた。

「たっ、頼む、頼む」

大野辺が尚も男の足に縋りついた。

「テメエも大怪我してぇのかよ」

男が大野辺を殴りつけた。

吹っ飛ぶ大野辺。

「バーカ」

大野辺を嘲笑いながら彼女と肩を組んで

去っていく若者。

泣き崩れる大野辺。

何事か決意したように頭を上げる大野辺。


三年後ーーーー。



「あなた様が鬼闇金の帝王、大野辺様でございますか」

大野辺の事務所にネットで見つけた利用者が

やって来た。

「そうだ」

「娘が裏ビデオに売られて三百万払わないと

解放してもらえないんです」

中年の男は必死の形相だ。

「貸してもいいが一つ条件がある」

「何でしょうか」

「娘さんを一週間、自由にさせろ」

「しかし、それは」

中年男が両手を振った。

「どうせ、裏ビデオに売られてたんだろう。

命まで取ろうとはいわねえょ」

大野辺がニヤッと笑った。






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