ひだまり

弥生 菜未

身体に潜む

 ひだまりに花が咲いている。

 その花は、光をいっぱいに浴びて、誰よりも真っ直ぐ、誰よりも輝いてやろうと、必死に首を伸ばしている。強い風が吹こうと、太陽が雲に隠れ陰りが現れようと、変わらず上を向いている。それは植物の本能のようなものかもしれないけれど、そんな夢のない話は捨て置いて、その生命力に溢れた美しい根性に、私もまた瞳を輝かせる。

 ひだまりに咲く花でありたい。


 ――――そう、願っていた。

 だが、私は陰の中を歩んでいる。建物の中、屋根で遮られた陽の光は私のもとへは届かず、新鮮さの欠片もない、痛々しい光線だけが私を照らす。


 ◇


 若年とか希少とか、心底どうでもいい。若くとも、珍しくとも、"病気"というものは人を選ばない。なる時はなるし、なる人はなる。

 ただ、それだけのことだ。

 それだけのことなのに、人は可哀想だと言う。憐れみの視線を向け、可哀想だと口先だけは饒舌に語るが、私のことを病人扱いする愚かさに彼らは気が付いていない。気遣って、思いやってあげるもの。そんな上から目線な心が透けて見える。私と病気と切り離し、個人として捉えてくれる人はいない。

 どんな感情でどんな表情をしているかなんて、見向きもしないで――――。


 腹の中では静かな怒りが燃えている。


 いつからだろうか。気がつけば、病院が友達。いや、やっぱり友達なんかいない。自虐にだってほどがある。

 私がここ病院にいるのは、生きるためではなく、私を産んで育ててくれた家族のために存在するためだ。希少であればあるほど治療は難しくなり、私は苦しさにもがく。


 虚しさは常に胸にある。


 私が笑うと両親は悲しみに泣き崩れた。私が泣くと両親は一生懸命に私を慰める。家族が何事もないように笑っていると、精一杯見栄を張っているのではないかと疑心暗鬼になってしまう。私が一人の時にも家族は嘆いて、そのくせ私が病気を嘆いていい時は一切なくて。

 何気ない笑顔がひどく胸に刺さる。


 心の冷たさは手足に宿る。


 何で私が?悪いことした?

 少しくらい、この辛さが伝わればいいのに。同じ気持ちでいたい。悲しむときも、喜ぶときも。虚しさを知りたくなかった。

 私には要らないものばかり。

 病気も、痛みも、苦しみも、悲しみも。


 誰か、気づいて――――――。


 負の感情は、私には荷が重すぎる。

 一人では抱えきれないの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る