復讐を成し遂げた男、現代ファンタジーに転生し惰性の日々を送る

@ival

第XX話 復讐の終わりとエピローグ

「ねえ、明日の夏祭り一緒に行こうよ」


学校終わりの下校中に彼女は突然そんなことを言った。


「急になんだよ、毎年いつも一緒にいってるじゃないか」


彼女とはいつも現地集合で待ち合わせをし、始まりから終わりまで一緒に周っている。


かれこれ夏祭りには毎年参加していて、特に目新しい物は無く、分け隔てない屋台が並んでおり、最後は打ち上げ花火をした後は家まで送って解散していた。


それがかれこれ小学生から今の高校生にかけてずっと参加している。


「一緒に行くっていうのは行きもってこと!私たちカップルになってからも幼馴染みたいな感じで全然イチャイチャしてないじゃん!」


それでも飽きない理由は、彼女と一緒に周っているからだ。


「やっぱりさ・・・今年からは特別な年にしたくて、柊真とは小学生から好きだったけど彼氏彼女の関係になったのって今年の春からじゃん?」


「今までの積もりに積もったイチャイチャゲージを貯めるために明日は現地じゃなくて家から現地まで二人っきりで一緒に行こうよ!」


「なんだよイチャイチャゲージって・・・」


彼女は笑顔でにししっと笑う、夕焼け特有の眩しさで顔はよく見えなかったが、微かに見えた表情は、やはり可愛かった。


にしてもイチャイチャか・・・


「まあ確かに・・・付き合いだしてからも手繋ぐだけでキスすらまだっていうのは・・・」


俺は腕を組みながら独り言のように呟く。


「そうだよ!私の友達も『なんであなた達はそんな長期恋愛漫画みたいに進展しないの!』って言われちゃったんだよ!?」


「恋愛漫画って・・・」


彼女がプンプンと腕を振り、むぅーと頬張る。可愛い。


「でも確かにそうだな・・・わかった!明日家まで遥香の事迎えにいくから準備して待っててくれ。」


「ほんとに!じゃあ明日準備出来たら連絡するね!私の美しい浴衣姿に見惚れないでね!」


「自分で言うなよ」


そんな話をして俺たちは帰っていき、夕飯を済ませ明日の着替えの準備を終わり、遥香の連絡を心待ちにして就寝した。


















だが次の日、どんなに時間が経っても・・・・彼女から連絡は来なかった。








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辺り一帯が『ヤツ』からの攻撃によって建物は崩落し、火の海にとなり人かどうかですら判断出来ないほど損傷した遺体が大量に転がっている。


此処はかなり栄えた都市部であったが、今や見る影も無いほどの地獄が生まれていた。


「・・・あークソッ 。気絶しちまった・・・ついでに懐かしい夢も見ちまった」


身体は切り傷、火傷、左腕と右脚は骨折。右腕は切断され左目は戦いによって失明していた。


彼・・・風間柊真(かざま しゅうま)は明らかに瀕死の重傷を負っていた。


「・・おーい。生きてるかー?」


ふと柊真が左側に首を振ると、彼と同じぐらいの重傷を負った青年がいた。


左手首は骨折し青色に腫れており、腹を切り裂かれたのか、今にも内蔵が飛び出しそうな程大きな傷がある。


幸い左腕で腹は抑えて飛び出さないようにはしているが、今も大量に出血をし、然るべき処置をしないとそう長くは持たないだろう。


「大翔・・・お前も無様に気絶しちまったみたいだな。」


「おめえが言うんじゃねえよ・・・」



軽口を言い合う二人だが、『ヤツ』が二人の意識が戻ったことを認識したのかおびただしい殺気を向けてきた。



『ヤツ』は空に浮かぶ武装した天使達を大勢従え。


地上の地獄の様な景色の中、『ヤツ』が浮遊している空だけは正反対に光り輝き、神々しかった。


まるで天国と地獄を彷彿とさせる風景の中『ヤツ』・・・『転生の神』は柊真達に対して目を向けていた。


「ごふっっ!あいつら俺らが目を覚ましたことに気づいたみたいだぞ。」


大翔が血反吐を吐きながら伝える。


「起きた時から知ってるよ・・・あいつら俺らが目を覚めるまで待っていやがったんだ。・・・クソッ!随分と余裕でいらっしゃる。」


柊真は絶望というよりかは呆れた声で皮肉めいたことを言う。


「・・・・・やっぱりあの手段でしか倒せないか?」


「倒せないだろうな。正攻法で勝てる相手じゃない。・・・どの道俺らが生き残ったとしても空虚な思いで生き続けるし、死んでいったやつらを思い出しては夜に耽って・・・ていうか

 

 この傷なら勝っても明日には死体になるのが関の山だろう。」


「ハッ!ちげえねえや!」


傷だらけの身体に鞭を打ちながら、彼らは立ち上がった。


もう戦える状態ではないだろう二人は、それでも大切な人を奪い、いたずらに人を弄んではおもちゃの様に捨て、人以下の生活を強要してきた『ヤツ』だけにはここで決着を付けるため


立ち上がるのだった。


『しつこい奴らだ。少々遊ぶのにも飽きてきたぞ・・・。』


『転生の神』は呆れた声で言う。


『もう死ね。今すぐ死ね。我はもうこの世界に飽きた。別の面白い世界を見つけたから早く手を加えたいのだ。まったく人間は面白い。非力な物が強大な力を与えた途端に人格が変わるのだ!散々その力で他者を落とし得ようとし、自分がこの世界の中心人物と思い始めた時に力を没収した時の顔など笑いがとまらん!』


見下ろしながら汚く笑う姿は、とても神とは思えないが、奴が持つ力は強大。神と言われるのはその力の所為であろう。


『もっとも、貴様らイレギュラーは別だがな。我と同じ性質の力を己で見出した奴ら・・・まったく面白くない。』


『転生の神』は右腕を大きく振りかぶり


『偉大なる我に仕える僕達・・・そこの取るに足らぬ人間どもを罰せよ』


振り下ろすと同時に『転生の神』を守護するように浮遊していた大軍の天使達が、一気に二人に襲い掛かった。


「・・・なあ大翔」


「あ・・・?んだよ?蝿共がこっちに向かって来てるぞ。」


「お前とは何百回じゃ効かないくらい喧嘩したし、挙句の果てには殺し合いもしてたな。」


「ああしたな。俺は負けたと思っちゃないけど。」


「そんな話をしてねえよ。あー、そーだな。」


頭を掻きながら、柊真は言う。


「どうしようもないくらい壊された人生だったけど、お前と最期に戦えるのは最高だ。」


大翔は目を見開きながら柊真を見つめる。


「はは・・・なんだよきもちわりぃな。」


大翔は照れ臭そうに笑う。


「なあ俺、風間大翔(かざま ゆうと)ってんだ。名字、教えたことなかっただろ?」


「は?おいまじかよ!一緒の名字かよ!」


「ひゃははは!こればかりは墓まで持って来ようと思ってたんだ。だけどまあ、墓も立つ気がしねえから教えただけだ。」


大翔が豪快に笑う。時々口から血を吐いて汚らしいが、柊真は名字が同じだとは思わず、固まっていた。


「さて柊真、最後の会話が終わったっつうことで、ここからはガチで行くぞ。」


「・・・ああ、そうだな。ここで 俺らが負けたら、また『ヤツ』の被害者が増え続ける。・・・俺たちみたいな化け物は、俺たちで十分だ。」


「その通りだ。お前の自慢の剣は使えそうか?」


「見てのとおりだ」


柊真はどこからともなく異空間から剣を取り出す。素朴な剣の形状だが、剣の周りには赤いオーラが纏っており、明らかにこの世界の物ではないことを彷彿とさせる。


切断された右腕も同調するかのように形を成していき、肩から腕までに掛けて義手が生成された。


「お前のガントレッドも使えそうか?」


「左手は使えないがな、まあ蹴散らすには片手で十分だ。」


大翔の右手が輝くと、それは形を成していき、一回り大きいガントレッドが生成された。長年の戦いで汚れや返り血が目立つが、獲物自体には傷一つ無く、


武器自体の頑丈さが伺える。


「これが本当に最後の戦いだ。目指すはあのふんぞり返ってるやつの脳天目掛けてだ。他の雑魚共は適当に蹴散らすだけだ。」


「鎧を纏うのも忘れないようにな。あれが無いと戦いすらならない。」


柊真は剣を翳し、大翔はガントレッドに力を籠める。


二人の身体に鎧が形成され始め、柊真は全身が漆黒の甲冑に身を固めた後、マントが形成され始める。


マントにはギリシャ文字が書かれており、その全部が神に向けた罵倒の言葉である。


見る人によってはとんでもない罰当たりなことだが、それが彼の生き様だった。



大翔は紅色の鎧を身に纏い、背中にはジェット装置が取り付けられており、これは彼の武器が籠手、つまり近づかなければならないので、


敵に急接近をして殴り倒すという脳筋スタイルのためである。


「よっしゃああああああ!!行くぞゴミクズ共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「覚悟しろよ!このクソ野郎ども!」


柊真は赤いオーラーを纏い浮遊をし、大翔はジェット装置を噴出させながら両者共音速のスピードで『転生の神』に急接近する。


だがそれを守るように大量の天使達が道を塞いでいく。


「邪魔だああああああああああああああああああああああああ!!!!」


大翔が一度右腕を振り回すと、何百体もの天使たちが吹き飛ばされ、地に堕ちていく。


「仕えるやつを間違ったな。お前達。」


柊真も天使達を切り伏せていき、天使たちは圧倒的な実力差を感じてしまい、

恐怖により身震いした。


今の二人では、天使など相手にならず、蹂躙するかのように、『目標』に着々と進んでいった。


『天使では相手にならんか・・・一体一体が我が力を与えた転移者を瞬殺できる実力なんだがな。』


『だがもう看破できんな。これで終わりにしてやろう。』


『転生の神』が右腕を上に上げ、一指し指を指すと、その上空に巨大な魔方陣が出現し、そこから大量の光線が二人を狙う。


両者は必死に回避をするが、完全には避け切れず被弾してしまう。


「ガッ!?・・・ッチ!俺たちが気絶した攻撃はこれか!」


「・・・大翔!このままじゃ埒が明かない!あれに溶かされて終わりだ!」


両者共被弾により鎧にダメージが蓄積している。


二人が持つ「鎧」というものは、纏っている最中はどんな攻撃にもダメージは通さない便利な代物だが、鎧のダメージ蓄積量が限界に達すると、


纏い中のダメージが一気に押し寄せてくるため、この戦いにおいては、限界を超えてしまうことは、即死を意味する。


任意で解除すればリセットされるが、音速以上のスピードですら被弾してしまう攻撃に対しては不可能に近かった。


「どんすんだよ柊真!まじでやばいぞ!」


「・・・いい考えがあるちょっと脳内にテレパスするぞ」


お互いの脳神経を通して、もはや言葉を発する事なく、お互いの考えていることをテレパシーで伝達させる。


「・・・・・・・・・だ。」


「・・・いい考えだな!俺たちらしい勝ち方じゃねえか!もうここまで来たらやるしかねえ!柊真!先に地獄で待ってるぜぇ!」


大翔は伝達が終わった瞬間!光線を避けるのをやめ、一気に加速をし、『転生の神』に一直線で向かっていく。


『・・・?。死ぬ気になったのか?よかろう、貴様から先に死ぬがいい。』


『転生の神』が腕を大翔のほうに向けると、大量の光線が一つに収束をし、ひとつの巨大な光線となって放たれた。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!??!?」


大翔はその光線を受けて鎧は溶けていき、あと数十秒で鎧のダメージが限界を迎えてしまうだろう。


そもそも鎧はダメージは通さないが、受けた痛みはそのままの為、大翔自身、鎧の溶けた部分が肌に焼け爛れていっているので


想像を絶するほどの苦しみの中にいるだろう。


それでも彼は回避もせず、光線を浴び続けていた。


『{なんだこやつ・・・・あと数秒で灰すら残らんというのに、もう策はないだろう・・・もう一人の片割れも天使の全軍があちらに行っておる。流石のあやつでもあれ程の数はどう足掻いても倒しきれん。今頃四方八方から槍で突かれておるじゃろうよ・・・・。』


光線を放ちながら、『転生の神』は外に背を向ける。光線の余波で良くは見えないが、静寂が続いていることから、戦いは終わったのであろう。


だがしかし、『転生の神』は初めてここで、自分の周りに天使がいないことに気づく。


『{おかしい・・・!?静かすぎる!そもそも我の近くに少量の天使達を配置させたはず!それなのにいないということは)・・・・まさか!?』「その通りだよクソ野郎」


瞬間、頭上から超高速で『転生の神』の頭上に目掛けて剣を貫いた。


『ぐぎゃあああああああぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!き、貴様ぁあ!?よくも!!!!』


『転生の神』はここで初めて悲鳴を上げた。今まで敵対してくるものがおらず、仮にしたとしても瞬殺、もしくは力を没収してきたが、ゆえに近距離まで接近されたことが一度もなかった。


その慢心により、わずが数秒で天使を全軍全滅させ、気配も消して頭上に敵が現れるという予測ができなかったのである。


『で、できるわけがないだろおおおおおぉぉ!?くそ!い、いたい!?いま、いますぐぬけぇえ!かみのいうことがきこえないのか!?』


半狂乱になりながら頭上にいる柊真に怒鳴りつけるその様子は、あまりにも神にかけ離れ過ぎている。


そんなことに興味は無しと、柊真はある一方を見つめていた。


既に事切れて落ちている親友の最期の姿を


「・・・ありがとう大翔。お前の数秒が無かったら、俺はここまで辿り着けていない。お前が俺の作戦、自殺行為にも見えることをやってくれたからこいつを殺すことができる。」


『ばかがあぁぁぁぁぁぁ!かみはこの程度では死なない!たとえ頭を剣で突き刺されようと、私は神だ!不死身なのだあああ!』


痛みに順応したのか、さっきよりは理性を取り戻しつつあるが、それでも初めての痛みなのだろう、手足をじたばたさせてもがいている。


「知ってるよ。てめえがこの程度じゃ死なないことも、お前を殺すのに・・・遥香が殺され、両親を殺されたあの日から俺は考えて・・・・答えにたどり着いた。」


柊真は剣を籠め、剣は今まで以上に赤くなり、その奥には黄色いナニかが発光していた。


「まあいっちゃえば自爆だ。典型的だが理に叶ってる。今から俺が持つエネルギーをすべて剣に注ぎ込み、爆発させる。」


『!?貴様何をするのかわかっているのか!?そんなことをしてしまえばこの宇宙・・・いや!他の世界まで巻き込むことになるんだぞ!』


「もしもの話だろ、もうお前の言葉を信じる奴は誰もいない、そしてお前の意味わからん力で狂う者もいなくなる。この世界を消滅させて、他の世界は・・・今まで通り生活をするだけだ。


その中に神なんてものは存在しない。安心して死ね。」


『い、イカれてる!なんだお前は、こ、怖い!やめろ化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』


「じゃあな。くそじじい」


黄色く発光するものは突如として膨大なエネルギーになり、すべてを飲み込んでいく。


それは星々を飲み込み、宇宙すら飲み込んでしまうだろう。


飲み込まれた物体は、一瞬にして消滅し、神も例外無く消滅していく。


薄れゆく意識の中、柊真は安堵な表情を浮かべていた。


(終わったよ。遥香。父さん。母さん。大翔。みんな・・・・・。)


(これでもう俺たちみたいな被害者はいなくなり、世界はその住民だけのものになる。)


(小鳥はさえずり、生まれた赤ちゃんが幸せな産声をあげながら時間は過ぎ、公園で子供たちが元気に遊ぶ。)


(こんな日常を守りたかった、誰かが横入りしてきて奪っていいもんじゃない。)


(やっと叶った・・・やっと見つけた。)


風間柊真は、自身が作ったエネルギーに飲み込まれ、消滅した。


もはや彼を知るものは世界中で誰もいなくなった。







































だがなんの因果か、あるいは彼が起こした爆発の影響なのか。


彼は、元居た世界に似た、けれども明らかに違う場所。



現代ファンタジーへと転移したのだ。








「・・・・・何処ここ?」





















第一話 現代ファンタジーとプロローグ

















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