第39話 新たな友人

 次の日の朝は寒かった。布団に昼までくるまって、腹が減って、どうしようもなくなってから、布団から這い出た。


 昨日トイレを借りたスーパーの家具売り場で、カーテンとこたつを買った。片手にこたつの箱、片手に大量のカーテンを持って、汗だくになりながら、アパートに戻った。


 ちょうど、水道業者が来ていて、もう水がでるはずなので、蛇口をひねってみてください、といわれた。

 台所の蛇口をひねる。勢いよく水が出た。バシャバシャとシンクで撥ねる水を見て、これでトイレも使えると、ホッとした。

 ホッとしたのもつかの間、夜になって明かりをつけると、つけた直後はなんともないが、5、6分もたつと、チカチカ点滅を始める。

 昨日はすぐ寝てしまったので、気づかなかった。


 ――あの不動産業者に連絡をとった。明かりの蛍光灯は、居住者が自分で用意してほしいといわれた。

 でも、最初から明かりは部屋についていたから、そちらの管理ではないか、というと、前の居住者がはずし忘れて引っ越してしまったので、そのままにしていただけで、武がもう使わないのなら、照明すべて廃棄してもよいですよ、という。

 そういうことは、昨日、説明してくれればよいのに……。

 おそらく、廃棄する手間が惜しいので、いかにも、親切で残しておいたふうを装い、こちらに押しつけたのだ。

 

 取り替えの蛍光灯を、買いに走った。かろうじて、スーパーの閉店に間にあった。

 帰ってきて、チカチカする光がうるさく寝れなかったのが、ようやく解消された。


 次の日、大学までの交通手段と道筋を確認しようと、部屋を出ると、あの不動産業者が、武と同じくらいの年齢の、細い金属縁のメガネをかけた、痩せた青年をともない、隣の部屋のカギを開けようとしていた。


「おはようございます」

 鍵を開けながら、愛想よく不動産業者が、声をかけてきた。

 そばのメガネの青年も、武にむかって会釈してきた。

 武も、軽くおじぎした。


「こちらの方も、春から大学生の方ですよ」

 業者が、間を埋めるように続けた。

「確か、同じ大学だったですよね?」

 メガネの青年は、うなずいた。ここまで、ひと言も発していない。田舎からでてきた人見知りの激しい若者なんだろう。

 武は、自分のことは棚にあげて、うんうんとうなずいた。


 慣れない電車を乗り継いで、大学の門の前まで行き(春休みで門は閉じられていた)、アパートまで帰ってくるだけで、ひどく疲れた。


 最寄駅で降りてから大学に着くまで、さんざん迷って、体力を消耗した。

 なにせ、土地勘がないから、迷ったときに、方角がわからない。お城が街の中心にある城下町でそだったので、方角がわからなくなったときは、すぐに、遠くにそびえ立つお城を見て、確認していた。だから、武の故郷の街では、道に迷うということが、まずなかった。


 疲れて、こたつしかない部屋に寝ころび、漠然と天井を見ていると、アパートの部屋のドアを叩く音がした。

 誰かな? 

 この街に知り合いはいないけど。

 ひょっとして、引っ越すと、何の連絡もしないのにどこからか現れて契約をとっていくという、都市伝説そのままの、新聞の勧誘員だろうか?

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