第21話 はじめてのたたかい

「……フゥ、こんなところか」

「おつかれさまでした」


 ……なにがなんだか。


「少しは殺れる様になったと思ったんだが」

「剣技だけなら既に充分、魔王はおろか、かつての勇者すら超えていますよ。うっかり斬られないように注意した方が良いくらいです」

「それじゃ意味ねぇ! ……武道会で勝ちてぇわけじゃねぇんだ」

「方向性は正解だと思います。あなたが魔法を追求するのは危険です」

「あんな面倒なもんに頼れるか。安息日はボーナスタイムってだけで充分なんだよ」

「たまにそのボーナスタイムに身の回りで爆発が起きたりしませんでしたか?」

「ん? ……ああ、なんか妙な不意打ちを食らわせてくる魔族がたまにいるな。とりあえず避けてる」

「……そうですか。問題ないのなら、気にしないでください」

「……ああ……?」


 今だ! 秘儀、横槍すらいでぃんぐ!


「あのー、さっき何をやってたのか気になるんですけど……」

「模擬戦闘ですよ」

「コイツの実力を試したかったのさ。背中を任せてもいいのかどうかをな」

「及第点でしたか?」

「……問題ねぇよ」

「光栄です」

「フン」

「じゃーおたがい問題ないってことでー、そろそろお昼にしませんかー?」

「次はお前の番だ」

「ヒエェ」

「さぁかかってこい。お前の武器は何だ。素手で魔法を撃ってくんのか?」

「なにとぞ、ご容赦のホドをー……」

「……別に取って食ったりはしねぇよ。まさか戦ったことが無いとかじゃねぇよな」

「そのマサカで御座いますればー……」

「……マジかよ」

「向こうの世界では平和に暮らしていたようですから、仕方ありません」

「なにやってんだか。それでこんな腑抜けになっちまったってのか」

「ただのフヌケに御座いますれば――」

「やめろ。フザけてんじゃねぇ。時間の無駄だ」

「ヒイィ」

「なにか手頃なモンスターでも出てきたら、ちょっと相手をしてもらうのが良いかもしれませんね」

「チッ、その手でいくか。おい、わかったか」

「ハイィ」

「じゃ昼飯食うか」

「やったー!」

「いただきます」

「……ハァ」


 助かった!




「お前、さっきの約束、覚えてるよな?」

「や、やくそく、でしたっけ……?」

「約束という程ではありませんでしたね」

「じ、じゃあ――」

「甘いこと言ってんじゃねぇ。これを逃したら次は四天王かもしれねぇんだぞ。それでいいのか?」

「ふえぇ……」

「安心しろ。四天王に比べれば、コイツは……ただ……その……キモいだけだ」

「いやああああああああああああああああああああああ!」


 なにコレ! なんなのコイツ!? アリエナイんだけど!!


『カサカサカサカサ……カサッ』

「うわああああああああああああああああああああああ!」

「落ち着け! まずは相手をよく見ろ! 動きを見切るんだ!」

「見たくないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

「相手に背中を向けるな!」

「ムリムリムリムリ!」

『カサカサカサカサ!』

「こっち来んなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

『カサッ! ピョーン』

「跳ねたか……キモさが更に増したな」

「あんなのがこの近辺で出るとは思いもしませんでした」

「お前……アイツを知ってんのか?」

「ええ、一度だけ見たことがあるはずですが……うっ頭が」

「無理すんなよ」

「ああいったのは私にはどうも、なかなか手が出せなくて困ってしまいます」

「わかるぜ。俺もだ」

「あの子がいてくれて本当に助かりました」

「屍くらいは拾ってやるとするか」

「それ全部聞こえてるからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「……耳は良いんだな。良い傾向だ」

「なかなかセンスはあるんですよ、ああ見えて」

「……お前のセンスもなかなかだよ」


 あーもう! あの二人! 絶対! このキモいの押し付けてる! ひどい! 隊長ゴメン! あとで泣く!


『カサカサカサカサ……』


 なんなの、なんでクモみたいのがこんなに大きいの? 四天王もデカい怪物だって言ってたし、この世界は怪獣に支配されてるの!? しかも顔だけは人っぽくてニヤニヤ笑ってるとか、まだそこらのエイリアンとかの方がカワイイってもんでしょ! 異世界オカシイ! 返品したい! マトモな世界に交換して!


『ドクドクドクドクー!』

「なんかヤバそうなの吐いた!!」

「毒だな」

「毒ですね」

「こんなのダメだってー! 初心者が相手するヤツじゃないよー!」

「死なない程度にはバリアを張ってありますので安心してください」

「死なない程度って……毒はちゃんと防いでくれるのー!?」

「死なない程度には」


 それって苦しむのは防がないの確定だよね!


「助けてええええええええええええええええええええええ!」

「甘えるな! イザって時には誰も助けられねぇんだ! 残念だが、今がその時だ! 覚悟を決めろ!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」

「……アイツ飛んでないか?」

「魔法を習い始めた時から、低空飛行をするのがお気に入りのようです」

「曲がれるのか?」

「まだ細かい制御は難しいようですね」

「チッ」


 あああ、デカくて短い土管みたいなのが行く手を塞いでる! 真っすぐ走るのが精一杯で曲がり切れない! ぶつかる! ぶつかった!


「あうう……いたい……」

『カサッ♪ カーサー……』

「落ちろ!」

『! ヒュー』


 やった! 落とし穴、成功!


『ヒョコッ♪』

「いやあっ!」


 顔だけでもキモい! あああ、このままじゃ出てきちゃう……どうにかしないと……ああ頭が痛くて集中できない……手も痛いよーなんだこれ……え、コレは……まさか……!


「おい、無事か!」

「わ――」

『ワ?』

「……わ?」

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