チュートリアルが難易度マニアック過ぎて投げ銭だけではクリア出来ないんですけど

シロトクロ@カクヨムコン10準備中

一投目 投げ銭部屋は丸見え過ぎる

チャリン——


何かの音が響いた。


「身体痛ぇ、ここどこだよ?」

「え、どうして私こんな服着てるの!?」

「キタ……これ、来たぞコレ……」

「どうしたの! 私死にたいのにー!!」


なんだこいつら?

揃いも揃って白い病院服みたいなの着て、って俺も来てるのか——と。一人だけ声を発せずに部屋に集められた五人は同時に目覚める。


『ようこそ! Άρτεμιςアトラスの世界へ!』


「ギリシャ神話か……良いねぇ。唆るぜ」

「さっきからあんた! 何か知ってるの!?」

「黙って説明を聞いた方が良いぞ? 死にたくなければ……」


いつ髪切り行ったんだよ——って、突っ込みたくなる長髪の男は何かを知っている様で。

金髪に青い瞳の長身の女性が服を引っ張り必死の形相で問いかける。


「死ぬって何! 死ねるの私!?」

「少し黙れ」

「嫌よ、嫌よ、嫌。私は死にたいの、死なせてよ! ねぇ!!」


リアル金髪女子初めて見た。っていうか、あいつ外人だよな? 金髪に青い目とか羨ま。

それで死にたいって何だよ?

男三人に女二人……か——と、未だに何も発言せずに部屋の隅で様子を伺っているのが、この物語の悲劇の主人公だ。


『待機部屋へと集められた五名がパーティーメンバーです。しかし、協力する必要はありません。全十ステージのチュートリアルをクリアして本編へとお進み下さい。それでは良きΆρτεμιςアトラス生活をお送り下さい』


「中世の地下牢を思わせる石造りの不衛生な部屋。扉が六つ。プライベート空間……なんだろうな」


「おまえ詳しそうじゃん! 教えてくれよ、俺達にも分かりやすく」


ドガートは身長180を越える鍛え上げられた身体で長髪の男に近寄ると、力強く抱き寄せて尋ねた。


「お願いします。教えてくれたら何でもするので」


対照的に身長150センチ以下だろうか、小柄な少女はピンクの髪を跳ねながら二人の正面に膝をつき泣き縋る。


「落ち着け、僕も今は情報を集めてるところなんだから。それにパーティーなんだ、仲間だったら情報は共有する。当然だ——」


ふーん。

仲間……だったら……ねぇ。

じゃあ違ったら教えてくれないんだろうな——と、この物語の主人公は何も話さずに会話を聞いているだけだ。


「本当に! 絶対よ! 約束だからね!」

「あぁ、今言ったことに偽りは無い」

「おまえ良いやつじゃん! 俺はドガート。よろしくな!!」

「あ、私はユーシーだよ」

「僕は……そうだな、ディアだ」

「ディア! 見た目と違ってカッコいいな!」

「そうね! よろしくね」


リア充達は良いよな。

あんな風にどんどん仲良くなっていく。

クラスでも一言も会話出来ない俺には無縁の光景だな——と、妄想している主人公にドガートが声を掛けた。


「おい、そこのおまえ! おまえの名前は!?」


「俺は……」


「やっぱいいや。それよりもディア! この後俺達はどうすれば良い?」


主人公の発言、僅か一言。

聞いたら普通答えるまで待つだろ——と、憤りを覚えるが何も言えずに下を向く。


「私はルナ。お願い、私死にたくて、死んだつもりなのにこんなところで……どうしたら良いの、お願い助けてよ。私を殺してよ」


「そうだな——五つの部屋にはそれぞれ木の板が飾ってあって、自己紹介を終えたら名前が刻まれた。とりあえずそれぞれの部屋に入ってみようか」


ディアはルナの言葉に耳を貸さずに状況を把握しながら展開を進めて行く。


「本当に! 分かったわ!」


しかし、それを自分への助言だと受け取ったルナは真っ先に【Luna】と書かれた部屋へと入った。


バタン——と。

直後に部屋の扉は閉まり中からは開かない。


「大丈夫なのかぁ?」

「問題ないだろ。行こう」


膝を曲げディアの目線に視線を落としたドガートは顎の髭を摩りながら首を傾げ、言われるがままに部屋へと入った。


バタン——

バタン——


二つの扉が閉まり残るは二つ。


ディアは部屋に入る際に「こいつは死ぬだろうな——」と、未だ唯一名前の分からない主人公を侮蔑して視線を逸らした。


「君はどうするの?」

「俺は……」

「良いわ。無理しないでね——また、会えたら良いね」


バタン——と。そう言ってユーシーは扉を閉めた。


俺は……


『さて問題です。朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは一体何か?』


——黙って何も言わずに何も動かない主人公を見兼ねて声を掛けた。

本来だったら完全な禁忌だけど、その者を放っておく事が出来なかった。

私が放置出来ないのだから、この世界で生きる素質があるのだろう。


「人間。それは人間だね」


『正解です。リスト、部屋へと入りなさい』


「……分かった」


やっと立ち上がったわね。

禁忌を犯すのもこれが最後だから。

精々足掻きなさい。


主人公——


バタン——


五つの部屋は全て同じ作りで。

それまで現実味を帯びていた部屋から一転。

全ての床と壁がモニターで囲まれた様な真っ白な空間になっていた。


部屋の間取りは凡そ20畳程度の広い部屋で。

ベットや台所、丸見えのトイレと風呂。

机や椅子などの家具などは備え付けられているが、冷蔵庫などの家電は見当たらない。

服を収納するクローゼットはあるのだが、他の空間と同様に背面はモニターの様だった。


チャリーンと。

また、何かの音が響いた。


入って来た扉の上には167:05:12——と、カウントダウンが始まっていて、それを見てディアは「一週間か……」と、呟いて部屋の探索を始めた。


「それよりも、腹減ったなぁ……」と、ドガートは腹を触りながらベットに横になる。


「あ! お風呂みつけた!」


ユーシーは喜んで風呂にお湯を溜め始めた。


チャリーン

チャリーン

チャリーン


何かの音が響く。


「透明で外から丸見えだけど、まぁ扉も開かないし、問題ないよね」


問題大有りだったが、ユーシーがその事を知るのは翌日になっての事だった。

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