トキメく仮面の砕き方
@masaba894
プロローグ
「ごめんなさい」
拒絶の言葉が僕の耳朶を打つ。
時は三月、場所は中学校、そして僕たちは三年生。
そう、この時期ですることといえば卒業式だ。
左の胸ポケットに挿した造花の人工的な華々しさとは正反対の自然で無骨な一言で僕こと
⚪︎⚪︎⚪︎
関係としては悪くなかったはずだ。告白した彼女との付き合いは二年生の後半から始まっている。きっかけは覚えちゃいないが、いつの間にか良く話すようになっていた。
長い黒髪をそのまま流したときもあれば、ヘアゴムやヘアピンを使ってアレンジしたりする時もある。
スポーツは女子基準で普通、勉強は上の中くらい。話すことが好きでよく男女隔たりなく、色んな話題に花を咲かせている。
そんな彼女に恋心を抱いたのは話すようになって半年後、大体三年生になったくらいだった。
そこからはかなり慎重に関係を構築していけるように努力した。
あまり読まない雑誌を読んだり
美容室に行き髪を校則に反しないギリギリまで切ってもらったり
流行りの曲には真っ先に覚えて歌えるようにしたり
果てには普段関わらないような人とも関わりを持つようにして情報を集めたり
他にも世間でいうモテる基準を満たすために努力をした。なぜかそんな自分に告白してくれるような人はいなかったが、そんなことは気にせずに彼女だけを考えて努力していった。
本当は誰にも指摘されない時点で気づくべきだったのかもしれないがあの時の自分はかなり浮かれて、酔っていたんだと思う。
時は過ぎて卒業式の前日、自分は友達と電話をしていた。普段はメッセージアプリで済ませるものの今夜だけはどうしても会話をしたかった。
何故ならば明日の卒業式が終わった後に告白することを決めたから、通話でもしていないと心が落ち着かなかったからだ。
「なぁお前本当に対面でいいのか?今時は通話でやるやつもいるんだぞ?」
「止めてくれるな、もう決めたから今変えると絶対に揺らいじゃうよ。」
「ならいいんだけど…」
と心配の声をあげてくれるのは自分が話す中でも最も馬があって、仲のいいクラスの友人だ。
彼とは三年生からの付き合いだが偶然席が近く、お互いの自己紹介の際に好きなことがかなり合致していて毎日そのことについて話すようになるのに時間は掛からなかった。
自分が恋心を抱いたときに真っ先に相談したのも彼だった。彼は最初は驚いていたが否定せずに応援してくれた。
そんな彼としばらく話し込んで少し経ったくらいだろうか
「俺は寝る。お前もさっさと寝ろ!明日目のクマなんてできてたら格好がつかないぞ!」
「そうだな、寝るよ。話に付き合ってくれてありがとう」
「なーにいってんだ、好きでやってんだから気にすることはないよ。おやすみ。」
「助かる。じゃあ電話切るぞ?」
電話を切る前にこちらもおやすみと一言返して電話を切った。通話時間は20分くらい。取り留めのない話で随分と盛り上がってしまった。
時刻は11時13分。寝るには少し遅くなってしまった。急いでベットに潜りこんで何も考えないようにするがこんな時に限って色々思い浮かぶのが人の性質みたいなものだろう。おかげで全く眠れない。
「明日は上手くいくといいなぁ」
と祈りのような独り言を呟き努めて就寝に入る。
明日はどうなる。皆んなとの最後はどうする。先生へのサプライズ。卒業式のながったるい過程。そして彼女の呼び出しかた…………………
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
と電子的な音で意識が急速に浮上する。どうやら考え込んでいるうちに眠れたようだ。現在は7時、いつもならば二度寝を決め込んでギリギリまで寝るが、今日に至っては眠気はない。
布団からムクリと起き上がり、布団を畳む。
その後は朝飯を食べて、歯磨きをし、最後の制服に袖を通す。感慨なんてものはないし、特別感も案外なかった。きっとこういうのはもっと歳を取ってから感じいるものなのだろう。
そう考えながらも家の玄関の扉を通りすぎる。幸い晴れており、日も暖かい。
自転車に跨りペダルを漕ぎ出す。三年間ほぼ毎日みている景色を通ること25分。校門を通り過ぎ、自転車を置く。丁度登校のピーク直前のため少し駐輪場は混んでいたがどうにか出口に近いポジションを確保することができた。
この全ての過程で並行して考えていたことは彼女のことだった。
それは教室に入ってからも変わらない。変わらずに今日の決行に関して考えを巡らせている。
周りの生徒は写真を撮っているが、今はそれどころでは無い。告白した後でいくらでも撮れる。
ガラッ
教室のドアを開ける音がしてそこへ意識を向けると彼女がいた。
そこからの記憶はよく覚えていない。多分極度の緊張の中で彼女を見たせいだろうか…気づけばフラれていた。
経緯はどうであれ、
⚪︎⚪︎⚪︎
フラフラと足元のおぼつかない男が住宅街を歩く。その男の行く先の定まらない足を見て話しかけようとするものは1人もいなかった。
「フラれた…フラれた…原因は?顔?やっぱり顔なのか?いくら彼女の好みに合わせようともやはり天然物には敵わないのか?」
ブツブツとフラれた原因を無作為に分析し、小さくか細い声で呟く。
殆どなにも入ってないはずのリュックがかなり重い。精神的なところからなのか妙に鳩尾下あたりがシクシクと痛む。
涙は出ない、理由はわからないが説明しがたい大きな気持ちが胸を満たす。
「顔だな、顔しかない。絶世のイケメンだったら絶対に断られない。好みが違っても側には置きたいはずだ。」
ブツブツと呟いた言葉は極端な方向へと向かう。それに伴って思考もそれに引きずられていく。
「絶世のイケメン顔、嗜好なんて全て捻り潰すような顔が欲しい。見た者全員が目を逸らさないほどの…そんな顔が今は心から欲しい」
トンッ
「あっ!すいませ…」
思わず顔を上げ謝罪の言葉を口にしたが、ぶつかった所にはなにもなかった
違和感を感じ周りを見渡すと先程まで歩いていた住宅街とは程遠い景色が広がっていた。
まず周りには何もない、何も見えないが何もないようには何故か感じない。そんな空間にポツリと古ぼけた小さな祠のようなものが控えめに鎮座していた。
ホラーなどがあまり得意ではない八葉の背中に冷や汗が伝う。
八葉は基本的に科学に基づいた法則を信じてやまない、しかしこの世には超常的なものだって存在することもまた八葉は信じている。
「も、もしかして一生出られないのか?」
冗談ではない、卒業式が終わったとはいえちゃんと受験に受かって高校という新たな生活が待っているのだ。基本的に死者の亡霊が彷徨っていそうな場所に監禁されるのはかなりマズイ。
周りには祠しかなく周りには何かあるようには感じるが姿が見えない、形がないものに恐怖を覚えるのは本能からだろうか、祠の近くから離れる足はかなり重くなかなかに動かない
本能的な恐怖をなんとか捩じ伏せて外への一歩を踏み出そうとした時である
「力が…欲しいか?」
「は?」
「もう一度言おう、力が…欲しいか?」
裏切りを持ちかける魔王のようなセリフは唯一形として存在する古びた祠から聞こえてきた。
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