ねむねむ魔王は貧乏木こりと遊びたい

雪翅

①魔王と出逢ってしまった木こり――①


 自然豊かなアオイ森。緑と動物に囲まれたその奥地には、一軒のログハウスが建っています。

 そこには、貧しいながらも支え合う、幼い兄弟が住んでいました。


「じゃあ行ってくるからなっ。アサギ。しっかり戸締まりしておけよ?」


 くたびれたブーツを履いて出掛ける準備をするのは兄のアイです。逞しい腰には年季の入った傷だらけの斧。体が大きく力もあるアイは、木こりの仕事をして生計を立てています。


 「待って待って」とおうちの奥から走ってくるのは、弟のアサギです。エプロンを付けたまま玄関まで出てきたアサギは、お手製のお弁当をアイに渡すと、元気なくうつむきました。


「いつもごめんね。兄さんばっかり働かせて……」


「いいって。それよりもうすぐ試験なんだろ? 根詰めすぎない程度に頑張れよ」


「うん……兄さんも気を付けてね? 街では異常気象が多いみたいだから……」


 心配そうに、アサギは窓の外を見つめます。

 この森の中で起きたことはありませんが、ここよりもずっと栄えた街の方では、雨が降ってもいないのに突然雷が落ちてきたり、嵐のような突風が巻き起こったりと、物騒な自然現象に見舞われることがあるようです。それが原因で亡くなってしまった人がいるという話も、アイも何度か耳にしたことがありました。


「あんまり遅くならないようにね。今夜は兄さんの好きなビーフシチューを作って待ってるから。くれぐれも気を付けて」


「ああ。いつもありがとな。オマエも気を付けて学校行くんだぞ。じゃ、行ってきます!」


 憂う弟の頭をポンポンと撫でると、アイは家を後にしました。

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