第3話 初めての友達
愛らしい声で声をかけてきたのはわたしと同い年くらいの少女だった。
「あなた、森の小道に倒れてたのよ。気がついてくれて本当によかったわ」
亜麻色の髪にパッチリと大きい目、瞳の色は翡翠色で鼻が高く、肌も抜けるように白い。日本人でないのは明らかだ。
そして、やはりわたしはこの異世界に雑に放り出されたらしい。
この少女がいなかったら森の道で獣の餌にでもなっていたかもしれないと思うと身震いがした。
「あ、ありがとう……。あなたが助けてくれたのね。命拾いしたわ」
「いいって、軽かったし、村の近くだったし。そういえばお腹空いてない?」
「えっと、空いてる……」
わたしはどうやらしばらく森の中で気を失っていて、この少女にこの家に連れてきてもらってからも何日か寝ていたらしい。今が何時ごろか知らないがお腹はぺこぺこだ。
「じゃあ消化によさそうなシチューでも作るわ。ちょっと待ってて」
少女はそう言うとまた部屋から出て行ってしまった。
とりあえず、転生もののお約束として、異世界でも日本語で通じるらしい。
わたしはまずそこをほっとした。
部屋に姿見があったので自分の姿を確認してみると、くすんだピンク色の長髪の、水色の瞳をした、元の自分とは似ても似つかない美少女が、そこにいた。
服装は前の世界で死ぬときと変わっていなかった。しかし、不思議と刺されたはずの心臓辺りにも傷跡も服に穴も血もない。
そういえばあの羊皮紙にこの世界のことはブレイブランドとか書いていた。
あと魔法がどうとかも。
羊皮紙はわたしが読み終えたら消えてしまったし、分からないことだらけだ。
あれこれ考えていると、少女が呼びに来たのでキッチンらしき部屋に移動する。
テーブルの上には前の世界でも見たことがある野菜がたくさん入った白いクリームシチューがボウルに入れられて乗せられている。
「わあ、美味しそう!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。ささ、冷めないうちに食べて食べて」
言いながら木製のスプーンを手渡してくる少女。
「ありがとう。そういえば、助けてもらったのに名前も聞いてなかったね」
言うと彼女は嬉しそうに応えた。
「あたしはミア。ミア・ウォルケット。あなたの名前は?」
「わたしは根石凛花よ。よろしくねミア」
そう名乗ると少女は、ミアは意外そうに目を見開く。
「え? ネイシリンカ? どこで区切るの? それで一つの名前なの?」
「はあ? 凛花が名前で根石が姓だけど、わたしの名前どこか変?」
「苗字が先なんて、変わってるう」
笑いながら言うミア。
そうか、この世界は西洋と同じで名前が先なのか。やっぱりファンタジーっぽい世界観なんだな。
「じゃあリンカって呼ぶわね。改めてよろしくねリンカ」
「うん」
初めて、少なくとも母親以外からは初めて名前でしかも呼び捨てにされた気がする。
なんだかすごく新鮮だな。
心地良い。
こうして同世代の女の子と気安く話すのなんて小学校低学年以来だ。
物心つくころにはもう誰とも打ち解けない人間になっていた。
本ばかり読んで、知識を得ることと、物語の中に入り込むことに夢中な子供だった。
そしてそのまま大人に近い年齢まで育ってしまった。
でも、でも……、ああして死んで異世界転生してミアと出会って。
そのことは神に感謝してもいいと、そのときは思っていた。
そう、ミアはわたしにとって初めての「友達」だった。
今はもう過去形でしか言えないけど、一緒に過ごすうち絶対に失いたくないと思うようになっていった――。
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