第2話 一度目の死

 わたしの名前は根石凛花。


 高校一年になったばかりの十五歳のちょっと孤独な女子高生だ。


 父親は物心つく前に亡くなっていたから顔も覚えていない。


 仕事で毎日遅くに帰ってくる母親とはすれ違いが続いており、最後に顔を見たのは先週の日曜日だ。


 学校にも友達はいない。


 別にいじめられているわけではないが、いつも教室の隅の席で文庫本を読んでいるわたしに声をかけてくる者はいなかった。


 それは高校に入っても変わらなかった。


 寂しくなかったといえば嘘になる。ただ、誰にも寂しさを悟られたくなかった。


 できればもっと温かい家庭で、学校では友人に囲まれて過ごしたかった――。



 そんな根石凛花の人生はある日突然幕を下ろす。


 通り魔に刺されたのだ。


 詳しくは知らない。


 ただ、ナイフか包丁か何かで心臓を一突きされて、助からなかった。


 わたしもよく読むラノベの転生物のお約束の導入だ。


 なぜかは知らないが、ああいうのは交通事故か刺されて死ぬことが多い。


 そんなに異世界に行きたいなら何かの儀式でもやって魔法陣でも通って来ればよさそうなものだが、なぜか、ラノベでは死ぬのだ。


「ここ、どこ……?」


 異世界に転生して最初に口から出たのはそんな言葉だった。


 心臓に刃物を突き立てられた感覚は覚えている。痛みさえ感じないほどの激しい衝撃。


 目が覚めて、自分が倒れていたそこが病院でないことは明白だった。


 なにせ、見えたのは木の天井だったのだから。


 そして、木製のベッドに寝かされている。


 ベッドから起き上がったわたしはまずそこまで気が付いた。


 首を動かすと、枕元に羊皮紙のようなものが置いてあるのが目に留まる。


 もっとも、羊皮紙など見たことは無いので読んだファンタジー小説からの推測であるが。


『恵まれない孤独な少女よ。この異世界ブレイブランドで充実した第二の生を満喫してくれたまえ。

 この世界のことや魔法の使い方などは過ごしていくうちにわかるだろう。

 よき仲間と巡り合うためのペンデュラムを渡しておく。有効に活用してくれ』


 その文章を読み終えたわたしは、最近のラノベでよくある転生ものの主人公になった夢を見ているのだと思った。


 そして、自分が握りしめていた水晶のようなものでできたペンデュラムに気が付く。


「よき仲間ってねえ……」


 わたしは独り言ち、そのペンデュラムの先を思いっきり左手の平に押し当ててみた。


 痛い! ――どうやらこれは夢ではないらしい。



 そのペンデュラムの糸を持って吊り下げてみるとぷらんぷらんと揺れた後に微かに窓の方を指し示して止まった。


 このペンデュラムが示す方角に進めばいいのだろうか。


 しかし、まずはこの木製の家の持ち主に挨拶せねば。


 異世界転移して、その先で誰かがここまで運んでくれたのならお礼を言わなければならないし、もしベッドに転移したのだとしてもこの家の持ち主はいるはずだ。


 何も言わずに立ち去るわけには行かないし、何よりこの世界のことを聞いてみたい。


 そう思ってベッドに腰掛けると、


「あら、目が覚めたのね。良かった」


 鈴を転がすような可愛い声がドアが開かれると同時に聞こえた。

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