第77話 初動対応(3人称視点)
※3人称視点
シェイドが執務室で、いつものように書類に目を通していると、虚空にウィンドウが浮かびあがった。
「シェイド様! 緊急事態です! クルリ魔導王国でBランクダンジョンが――」
通信画面に映っているのは、危機予報の責任者の男だった。
彼はとても慌てた表情で、書類を手に持ち、シェイドに何か伝えようとしている。
「ヴェンドの街の近郊にあるオッサムの森なら、Bランクくらいは普通に発生するだろう。まだ、魔素濃度も下がりきっていない地域。それくらいのことで報告をする必要はないよ」
「ち、違います! 報告が上がったのは、ホーカムの街の探索者ギルドからです! 魔素がとても薄いあの街の近郊でBランクダンジョンが発生するなんて異常事態と言わずして、何と言えばいいのですか!」
危機予報の責任者の男は、画面いっぱいに顔を近づけて危機的な事態だとシェイドに告げていた。
報告を受けたシェイドも、自分が予想していた地域ではない場所であったため、即座に手元の機器を操作し、探索者ギルドの総ギルド長を別画面に呼び出した。
新たなウィンドウが空中に浮かび上がると、呼び出しに応じた総ギルド長が顔を見せる。
「今、危機予想の担当者から、ホーカムの街の近郊でBランクダンジョンの発生が確認されたと報告を受けたが本当かい?」
シェイドの質問に、総ギルド長が頷きを返した。
「すでに情報は、危機予想の部署に送っており、ヴェンドの街の探索者ギルドへ、現地に数組の手練れの探索者を送るよう指示を出しております。調査討伐依頼達成の報告者として名前がある探索者トマスとヴェルデ、アスターシアの3名に案内してもらい、現地を確認し状況の把握をするため動いております」
、総ギルド長の報告を聞いていたシェイドが、手元の機器を操作して新たに別ウィンドウを立ち上げた。
新たなウィンドウには、問題のダンジョンを調査し、討伐に成功した者として報告されている3人の探索者登録情報が並べられている。
「Bランクダンジョンの調査を完遂し、あまつさえ討伐しただって!? ありえない……。トマスは討伐依頼の達成報告ゼロの男だし、ヴェルデもつい最近登録しDランクダンジョンを1回討伐依頼を達成しただけ、アスターシアに関してもレアな特性は持ってるが、戦闘特化というわけでもないんだよ?」
「ですが、実際に討伐達成を機械が認定しています。エラーチェックも何度もしてますが、エラー判定もでませんでした」
「こちらでも、探索者ギルドからもらった情報を再解析中ですが、討伐達成はまず間違いありません」
報告を受けたシェイドは、ウィンドウに表示されてる達成報告者の3人を凝視している。
「駆け出しと言ってもいい3人の探索者で、ベテラン探索者を多数投入してようやくクリアできるBランクダンジョンを攻略できるとは思えないが……。機器の故障がないなれば――」
しばらくして、シェイドはため息を吐くと、かすかに頷いた。
「分かったよ。事実として受け入れよう。それよりも、今はホーカムの街に強力なダンジョンができた理由の方が大事だ。そちらの報告は何かあるかい?」
総ギルド長が手を挙げ、シェイドに発言の許可を求め、認められると喋り始める。
「ホーカムの街のギルド長リアリーから、聞き取った情報の報告書と救援の嘆願書が添付されております」
「こっちに回して」
「承知しました! どうぞ、お読みください」
新たに浮かび上がったウィンドウに文字だけが映し出される。
その文字をシェイドの眼が追っていく。
「魔素濃度400%超えの超スピードで成長するダンジョンだって……。それに、そんな場所に空中都市の地下機関部から漏れた魔素溜まりがあったというのか。つまり、警戒を怠れば、今後も同じようなことが起きる可能性があるから、探索者を回してほしいと言うわけだね」
リアリーからの報告書と嘆願書を読み終えたシェイドが、目元を押さえて椅子に身を委ねた。
「クルリ魔導王国の出しているヴェンドの街への探索者集中という施策はやめさせた方がよろしいでしょうか?」
椅子に身を委ねたシェイドに総ギルド長がおずおずと返答を求める。
「ちょっと待ってくれ。結論はまだ出せない。とりあえず、危機予想の部署としては、今回の件、どう裁定するつもりだい?」
話を振られた危機予想の担当者は、書類を手に取り、自らの考えを喋り始めた。
「突発的であり、再現性は低いとは思いますが、今回のダンジョンの成長速度を見ると、地下に溜まった魔素は尋常じゃない量だと仮定されます。ヴェンドの街に探索者を集中させるのは、対応が遅れる可能性も――」
「結論を言いたまえ!」
叱責された危機予想の担当者は、背筋を伸ばし、書類を置いて、表情を引き締めた。
「では、申し上げます! 現在クルリ魔導王国の指示でヴェンドの街に集中させている探索者のうち、高難易度ダンジョンに向かない能力の低い者は、ホーカム周辺での低ランクダンジョン潰しに戻した方が、危機的な状況は避けられるかと進言いたします!」
危機予想の担当者からの意見を聞いたシェイドは、椅子に身を委ねたまま、腕組みをした。
「戻すと言っても、Gランクだらけのところじゃあ、探索者は稼げないから戻らないだろう? 総ギルド長、何かよい案はないか?」
意見を求められた総ギルド長は、手元の資料を必死にめくっていく。
「クルリ魔導王国から支援金という形で、ヴェンドの街にいる探索者に金が支払われています。それを今度はホーカムの街で活動した者にのみ支払う形にすれば――」
「それだと、必要以上の探索者が移動する可能性があると思うが」
「支給対象にLV制限をかければ問題ないかと。線引きとしてLV10までの探索者とすれば、駆け出し以外はホーカムの街に移動しても得することはないはずです」
総ギルド長の案を聞いたシェイドは、椅子に身を委ねたまま、腕を組み、しばらく黙って目を瞑った。
やがて目を開くと、立ち上がり机をバンッと叩く。
「よし! それでいい! すぐにクルリ魔導王国の国王と通話面会をセッティングしてくれ!」
「はっ! 承知しました! 探索者ギルドを通じて面会のアポを取ります!」
総ギルド長と危機予想の担当者の通話ウィンドウが消えると、シェイドは再び椅子に身を委ねる。
「まったく……次から次へと問題が起きる。それにしても――」
シェイドの視線は、探索者登録された3人の情報に向けられた。
ウィンドウに浮かんでいる3人の容姿を椅子に身を委ねたまま見つめるシェイドが首を傾げる。
「この3人でBランクダンジョンを攻略することが可能だったんだろうか……。明らかに戦力不足のはずだが、特殊な魔導具やエンチャント装備でも持ってた可能性はある……か。それがバッチリとダンジョンボスにハマって倒せたと考える方が自然か。なんにせよ、追加で送られてくる情報次第だね」
シェイドは椅子から起き上がると、機器を操作し、ウィンドウを閉じ、再び執務に戻った。
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