第60話 休日の昼間は俺の癒しタイム



「おっ! ガチャ、こんな時間でもいるってことは、今日はお休みかー。おやつ食うか?」



「ガチャちゃん、うちの子が遊んで欲しいってさ」



「ガチャー、遊んで―!」



 必要な買い物を終え、昼食を何にするか探しながら商店の立ち並ぶ通りを歩いていると、ガチャの姿を見つけた街の人たちが集まってきた。



 街の人の手におやつを見つけたガチャが、颯爽と尻尾を振って地面を蹴り、駆け寄って行く。



 俺の相棒は相変わらず食べ物に弱いらしい。



 まぁ、でも相手に害意がないと見越してるから駆け寄ってるわけで、誰でも近づくわけじゃないので、俺もそこは安心している。



 おやつを持った人の足元にたどり着いたガチャが、ジッとおやつを見つめる。



 地面に水滴の跡が増えていくのが見えるので、よだれがいっぱいでてるのだろう。



 そう言えば、俺たちが買い物中は間食もせずに大人しく待ってたからなぁ。



 お腹空いてるんだろう。



 おやつをもらったガチャは、子供がまとわりついて遊ぶのも気にせずに食べるのに夢中だった。



「ガチャ様ーおやつもらったら、ちゃんとお礼を言わないとダメですよー!」



 アスターシアに注意されたガチャが、おやつをくれた人に向かいレバーを回す。



 俺にはガチャの回すレバー音にしか聞こえないが、様子から察するにちゃんと吠えて返事したようだ。



 賢さと愛嬌と可愛さを備えたガチャは、すでに街の人の人気者だった。



 んー、でも明らかにおデブ街道まっしぐらなんだよなー。



 ころころのガチャもカワイイだろうけども、体調的なものが心配なんだよ。



 ガチャは小柄な体格に見合わないくらい、異様な食欲を持ってて、栄養過多が心配なんだが――。



 普通のわんこってわけでもなさそうだし、もしかしたらあれくらい食べないと死んじゃうのかもしれないわけで。



 光の玉を一定量取り込んだらできる金色コインの生成とかに、ものすごい栄養使ってる疑惑もあるわけだし。



 それにガチャカプセル排出もしてるわけで、あれももしかたら栄養をかなり消費するやつなのかも。



 もしかしたら、やっぱり足りてないかも……。



 食べさせなかった時は死にそうな顔をして訴えてくるわけだし。



 ガチャの栄養状態に関して、あれこれ考えてたら、急に心配になった俺はポーチのおやつを取り出しガチャを呼ぶ。



「ガチャ―、こっちも食べていいぞ!」



 おやつに気付いたガチャが、愛想を振りまいてた人たちにレバーを回して別れを告げると、こちらへ駆けてくる。



 俺の前にお座りしたガチャが、こちらを見上げた。



 不意にガチャの姿が、かわいい黒いポメラニアンに変わり、ウルウルした目でこちらを見る。



 うぉっ! これは俺の脳がハッキングされたのか! それとも、俺の願望がガチャの姿を――。



 ガチャのヴィジュアルの変化に戸惑った俺は、自分の頭を猛烈な勢いで叩く。



「ヴェ、ヴェルデ様! ど、どうされましたか! 気を確かに!」



「ガチャが……ガチャが可愛く見える。見えてしまうんだ……」



「何を言われてるんですか? ガチャ様は可愛いです! 本当に大丈夫ですか?」



「違うんだ。本当に可愛く見えるんだ。今だってあざと可愛くこっちをウルウルした目で見てる!」



「ええ、そうです。おやつ欲しくてあざとく愛想をふりまいていますよ。しっかりしてください」



 アスターシアにも、俺だけが、ガチャがガチャマシーンに見えることは伝えてなかった。



 だから、彼女も俺の言動がおかしいと思い心配してくれているのだろう。



 急にヴィジュアルが切り替わるなんて、今まで一度も――。



 もう一度確かめるため、ガチャに視線を向けたら、そこにはいつもと同じガチャマシーンのガチャがいた。



「あ、あれ? いつものガチャがいる……だと?」



 何度も目をこすって見ても、ガチャはいつものガチャマシーンだった。



 俺は白昼夢でも見てたのか……。



「ヴェルデ様? 本当に大丈夫ですか? 何か悪い物でも召し上がりましたか? そこのお店で休憩させてもらいますか?」



 心配そうにこちらをのぞき込んできたアスターシアの顔を認識して、あまりの近さに心臓が飛び出しそうになる。



「い、いや! も、問題ない! ちょっと疲れがたまってたようだ! 問題ない! 問題だぞ! ほら、ガチャ、おやつだぞー」



 俺はガチャにおやつをあげると、そのまま抱え上げた。



 この世界に飛ばされた時からそばにいたガチャには、まだ分からないことがいっぱいあるんだよなぁ。



『渡り人』になった俺に与えられた褒賞ギフトだとは思うんだが。



 この世界で特性と呼ばれてるスキルの力を授けてくれる以外、謎が多い。



 ガチャスキルの効果欄のバグった文字も気になるが、今のところ悪影響らしい、悪影響はないし、俺にとっては大事な、大事なこの世界を共に生きる相棒だ。



 抱きかかえたガチャから伝わる温かさにホッと安堵する。



 謎が多いけど、ガチャはちゃんとしっかりと生きてるし、忠誠心に厚い立派なわんこだ。



「ガチャ、これからも俺の一緒に居てくれよ」



 こちらを見上げたガチャがレバーを回して応えてくれた。



 うんうん、やっぱガチャは可愛いぞ! 可愛いったら、カワイイんだ。



 抱きかかえたガチャの謎のモフモフ感を味わい、ほんわかした気分に浸る。



「アスターシア、ガチャもお腹が空いてるみたいだし、そこの店で昼飯にしようか」



 視線の先には見慣れた暖簾が垂れ下がったうどん屋らしき店舗が見える。



 探索帰りの時からずっと気になってた店で、一度入ってみたいと思っていたところだ。



 リアリーさんところの飯も美味いけど麺類は扱ってなかった。



「わたしはちょっと買いたい物があるので、先に食べててください。買い物を終えたらすぐに戻りますので」



「買いたいものがまだあった? じゃあ昼飯は後回しで、そっちを先に終わらせる?」



「い、いえ! ヴェルデ様たちは先にどうぞ!」



 いやに焦った感じだな。



 ……あっ! 男の俺が一緒だと購入しにくいって話か! これは着いていくのはいけないやつだ!



「そ、そうか。じゃあ、先にガチャと入って席とっておくから」



「あ、はい。すぐに戻ってきます!」



 アスターシアは自分の買い物を済ませるべく、商店街に消えていった。



「ガチャ、先に店に入っておこうか」



 俺はガチャと一緒にうどん屋の暖簾をくぐることにした。

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