第57話 お買い物
ホーカムの街に繰り出した俺たちは、ガチャの首輪を買いに雑貨店を訪れている。
田舎町であるため、品揃えは悪いが、それでも何種類かの首輪は置いてあった。
「赤ですね! 赤! ガチャ様の黒い体毛には赤ですよ!」
大人しく首輪を当てられているガチャもドン引きなほど、アスターシアのテンションが高い。
「たしかに似合うんだけど、俺は青とかも合うかなとか思うんだが?」
俺が手にしていた青色の首輪を彼女に渡し、首に押し当ててもらった。
筐体の中にあるカプセルが見える透明部分の下にあるレバー付近に、先ほど渡した青い首輪が赤色のと同じように付け足された。
黒い筐体だけど、青も映えると思うんだが。
「青も捨てがたいですね! ガチャ様はなんでもお似合いですし! ピンクとかどうです? こちらも似合うと思うのですがっ! キャー、可愛いですねー!」
アスターシア、テンションが高いっ! ガチャが可愛いのは認めるが、お店の人もドン引きしてるからっ!
俺はいつもより格段にテンションが高いアスターシアの袖を引いて、小声で忠告する。
「アスターシア、他のお客さんもいるから、もう少し声を潜めようか」
「はっ! すみません! ガチャ様のことに夢中になって失礼しました!」
自分の状況を察したアスターシアが他の客たちに頭を下げて回る。
「いいって、いいって。アスターシアちゃんが、ガチャのことを大好きなのは、この街の連中はみんな知ってるからさ」
「ガチャ―、ご主人様にいいの選んでもらえよー」
「わしは赤派だからなー」
「いやいや、ガチャには青だろ!」
店内の客も街の人で、みんなガチャやアスターシアのことを知っているため、怒っている人は皆無だった。
ホーカムの街に来て10日以上経ったけど、俺が思った以上にこの街に馴染めてるのは、ガチャやアスターシアのおかげかもしれない。
「赤、青、ピンク、どれも捨てがたい可愛さですね。ガチャ様、なんでも似合いすぎです!」
ピンクの首輪も追加されたガチャが、困惑した様子で俺に助けを求めきた。
ガチャ、今は首輪だけで済んでるが、わんこ用の衣装とか売ってたら、アスターシアはもっとすごいことになってた気がするぞ。
何着もわんこ用の衣装を買いだめする未来しか見えない。
おっと、いかんな。ガチャを助けないと。
「んんっ! アスターシア、ガチャも疲れてるみたいだし、とりあえず赤と予備に青の首輪を買うとしようか」
「はっ! すみません! すみません! はしゃぎすぎました! そ、そうですね。その2種類を買いましょう! この2つください!」
アスターシアが、購入する予定の首輪をカウンターの店主に渡す。
「はいよ。2つで50ゴルタだね。あとは何か買っていくかい?」
やり取りを見ていた店主がニコニコとした顔で、他の購入品が無いかを聞いてくる。
えっと、食器類は揃ってるし、キャンプテントもあるし、あとは――。
あ! そうだ! バッグだ! 空間収納に分類して入れるための大容量バッグ。
「大きな背負い式のバッグとかってありますか?」
「大きなやつか。えーっと、たしか倉庫にあったな」
店内には出してなかったようで、店主はカウンターの奥に併設された倉庫の中に消えていく。
まずは武器防具用、素材用、ポーション用、食糧用、魔導具用、その他用の6つくらいあればいいかな。
デキムスたちから奪ったのは、衣服用にすればいいし。
「とりあえず、うちにあるのはこれだけだ」
バッグの用途を考えていた俺に、倉庫から戻ってきた店主が声をかけた。
カウンターに置かれたのは、革や布や麻で作られた寝袋とかも一緒にしまえるタイプの背負い袋だった。
「革のやつは丈夫だが、重くて値が張るし、容量も少なめ。布はほどほど丈夫で値段も普通、容量はけっこう入る。麻のやつは軽くて安いがあまり重いものを入れると破れるぞ」
店主はカウンターに並べたバッグの説明をしてくれる。
空間収納内で使用するやつだし、軽さとか丈夫さは求めなくてもいいんだよなぁ。
「容量だけで行くと、布が一番入りますかね?」
「ああ、そうだな。うちにあるやつだと布製の背負い袋が一番入る」
布製のはちょうど6つあるな。さっきの分類で分ければ、空間収納の枠数の節約もできそうだ。
値段次第では6つとも買おうかな。
「布製は1ついくらです?」
「布のやつは1つ200ゴルタだな。本格的な遠征するにはバッグもいるだろうし、アスターシアちゃんと合わせて2つあればいいか?」
「いや6つほど欲しいんですが」
「6つ!? そんなに持っててどうするんだ? 背負えないだろ?」
店主は俺の注文数を聞いて驚いた顔をした。
まぁ、普通1人で3つも持たないし、びっくりするのも仕方ない。
でも、空間収納内の仕分け用としてはそれくらい欲しいわけで。
「万が一、破損した時の予備ですよ。予備。1人3つあれば長いダンジョン探索で破損しても荷物を入れ替えれますし」
「ヴェルデ殿は慎重だな。まぁ、うちとしては在庫品をいっぱい買ってもらえてありがたいわけだが。本当にいいんだな?」
「はい、6つほどください!」
「はいよ」
俺がバッグを見ている間に、アスターシアが店の一角に置いてあった大きめの折り畳み式の金属テーブルと、同じく折りたためる木製椅子を見ていた。
キャンプグッズみたいなテーブルとイスだが、あったら休憩や野営の時は食事作りとかが楽だろうなぁ。
食事はアスターシアに任せきりになるわけだし、あれも必要な道具として購入してもいいか。
「アスターシアが見てるテーブルと椅子2脚でいくらです?」
「あれかい? 合わせて400ゴルタだな」
買えるな。ポーションとか、装備も買わないといけないけど、食事準備の作業環境向上に金を惜しいんだらダメだ。
「アスターシア、それも購入しとくよ」
「へ!? あ、いえ、別に大丈夫です! 欲しいなぁとか思ってないですし」
外でのお料理が楽になるなって顔に出てるから。日頃のお礼も兼ねて購入しとこう。
「とりあえず、テーブルと椅子2脚もください。あとは――」
店内を見回したが、急いで用意しておかなければならないものはなさそうだった。
「ないので、お会計を」
「はいよ。首輪2つで50ゴルタ。布製背負い袋6つで1200ゴルタ。テーブルと椅子2脚で400ゴルタ。合計1650ゴルタで頼む」
俺は1650ゴルタ相当の貨幣をカウンターに置く。
店主が貨幣を数え、問題ないことを確認すると頷いた。
「よい取引をありがとな。また欲しいもんあったらよろしく頼むぞ」
店主も俺たちにいっぱい買ってもらえてホクホク顔をして、購入した物を持って来てくれる。
「ヴェルデ様、こちらのテーブルと椅子はわたしが払いますから」
「いいって、いいって。これは俺も使うしね。共有財産ってやつ」
「ですが、それではヴェルデ様のお金が――」
「問題ないよ。それにアスターシアのお金は自分の欲しい物のために使ってくれ。そのために分けてるわけだし」
「は、はぁ、分かりました。ありがとうございます。大事に使いますね」
「ああ、頼む」
無理やり押し切ったけど、アスターシアの性格上、自分のためにお金を使わない可能性が高いんだよなぁ。
それをさせないために先んじて購入したわけで、恐縮されると困るんだが。
お互いの秘密を知ってて、一蓮托生なわけだしさ。
俺たちは店主から品物を受け取ると、次の店に向かって移動することにした。
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