第54話 Dランクダンジョンの攻略褒賞
「ふぅ、休憩」
枯死したエントの太い根を腰かける。
この辺りの地面はエントの噴き出した樹液で濡れていなかった。
時間的にはまだ14時だけど、転移ゲートが開くまでけっこう時間かかるよな。
濡れてない地面に下りたガチャが、俺の足元に来てじゃれている。
「ヴェルデ様、消毒しますよ」
消毒液を染みこませたハンカチを、アスターシアが俺の頬の傷に押し当ててくる。
少し傷に染みたが、耐えられない痛さではない。
「プロテクションシールドが弾けた音がした時は、一瞬だけヒヤリとしました」
「意外と面倒な敵だったんでね。少しだけ無茶はした」
「さすがDランクのダンジョンのボスモンスターだったというわけですね」
「ああ、一気に倒さないと延々と再生される厄介なやつだ」
「それを一人で倒されたとは……。すごい方です……。あ、すみません。消毒は終わりました。回復魔法どうぞ!」
消毒中に俺を見てボーっとしていたアスターシアが、我に返って慌ててハンカチをしまう。
「これくらいの傷はすぐに塞がるから、魔力は節約しとく。消毒ありがとうな」
「ど、どういたしまして! それと、ガチャ様が排出された金色コインはこちらです!」
なぜか顔を赤くしたアスターシアの手の中には、ガチャの排出した金色コインが7枚あった。
「7枚もあったのか!? ガチャ、えらいぞ! よしよし」
足元でじゃれついてたガチャの身体をわしゃわしゃして褒めてやる。
Dランクの討伐報酬は7枚か。
敵や罠があって面倒だけど、Gランクダンジョンを2日かけて回るよりかは効率的に金色コインが稼げるっぽい。
でも、ホーカムの街じゃほとんど発生しないんだろうけど。
Gランクが1枚でDが7枚って増え方だと、Eが5枚、Fが3枚って増え方かもしれないな。
「スキルの取得されますか?」
「そこまでの時間はなさそうだから、帰ってからにしとくよ。それに、攻略褒賞が入った宝箱が埋まってそうだし」
宝箱が発生しそうな場所には、枯死したエントの亡骸があった。
「とりあえず、足もとが悪いし、俺が行って見つけてくるからアスターシアたちはそこで休憩しててくれ」
「承知しました。作業後にお出しするおやつの準備をしておりますね。ガチャ様はもう少し運動してお腹減らさないとなしですよー」
おやつと聞いたガチャがアスターシアの近くによって身体をスリスリしておねだりをする。
ガチャ、食べすぎだぞ。プニプニも嫌いじゃないが、おデブは寿命を縮めるんだ。
「ガチャ様ー、取ってきてください」
枯死したエントの枝を拾ったアスターシアが樹液で汚れていない方に向かって投げた。
ガチャはその棒を拾うため、一生懸命に駆けていく。
ナイス、アスターシア! あれは、よい運動になりそうだ。
「ガチャ―頑張ってなー。あとで一緒におやつ食べようぜ!」
枝を追って駆けるガチャが俺に向かってレバーを回して応えてくれた。
可愛いやつめ。運動してるし、ちょっと、おやつ増量してもいいかも。
「さて、俺は自分の仕事しないとな」
俺は枯死したエントの亡骸に近づくと、解体スキルを発動させる。
身体が自動で動き出し、勢いよくエントの巨体をチャンピオンソードで切り倒していく。
さすがにこれだけデカいと、簡単に解体とはいかないか。
いつもよりも時間がかかる。
20分ほどで枯死したエントの亡骸はバラバラになり、エントの古木とエントの若芽が手に入った。
「あった、あった。この色は銅製か?」
亡骸の下から出てきた箱は、ピカピカの銅色をした箱だった。
危機感知を示す色の変化はないが、慎重を期して開ける前に鑑定をする。
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銅の宝箱
耐久値:200/200
罠:なし
状態:無施錠
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おっけ、問題なしっと。
銅の宝箱を開けると中身は指輪と背負うタイプのバッグだった。
鑑定してみた結果。
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光球の指輪
基礎防御力:5
属性:光
特別効果:使用するとMP消費なしで、光球が周囲を照らす。
エンチャント:不可
解説:小さな宝石が付いた指輪。光を放つ球を自身の近くに作り出す。
――――――――――――――――――――――――――――――――
光源を発生させる指輪みたいだ。
MP消費がないのはありがたい。
探索時はアスターシアが光源となるランタンを持ってくれてるけど、魔石消費するし、自分用の光源として持っておくのもありか。
すぐさま光源の指輪をはめ、使用してみる。
指輪から放たれた光が光球になって、俺の肩の辺りに漂い始めた。
これくらいの明るさなら、洞窟の中の暗い場所でも十分に照らせそうだぞ。
これは俺が使うとしよう。
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軽量化のバッグ
特別効果:バッグの中に入れた物の重量が軽減される
エンチャント:不可
解説:背負うタイプのバッグ。中身の重量を減らす効果が付与されている。
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こっちはバッグの中身を軽量化するやつだな。
ぶっちゃけ、俺には空間収納があるからいらない装備っぽい。
オークションで売り払ってもいいかも。
とりあえず2個ともエンチャント装備品だったな。
俺はチャンピオンソードと軽量化のバッグを空間収納にしまい込む。
宝箱の中身をゲットし終えた俺は、ガチャたちの方に視線を向けた。
「ガチャ様ー、もう一回ですよー」
アスターシアが棒を投げ、ガチャが必死になって拾いに行くのが見えた。
アスターシアは、意外とスパルタなのか……。
ガチャ、頑張れ! 走った後のおやつは美味しいぞ! うん、きっと美味い!
俺がアスターシアのもとに戻ると、ガチャも木の枝をレバーに器用に引っ掛けて戻ってきた。
「よしよし、えらいぞ! 疲れただろ! お水飲んでくれ!」
お椀に注いだ水をガチャの前に差し出すと、一気に中身が消え去った。
「よく頑張った! 一緒におやつ食おうぜ!」
俺はガチャの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
ガチャはレバーを回して喜んでくれた。
「では、こちらはヴェルデ様、こちらがガチャ様のおやつですね。ゆっくりお召し上がりください」
俺には焼いたクッキー、ガチャは薄く削ぎ切りされた干し肉で野菜が巻かれたものだった。
そっとガチャが野菜を避けたらしく、肉だけ消える。
「ガチャ様ー、野菜もお召し上がりください。リアリーさんも心配してますよ」
ガチャは明らかに野菜を食べたくなさそうで、盛りつけられた皿を前足で俺の方に押した。
「ガチャー、野菜は――」
『頑張って走ったのにこの仕打ち酷くない』って様子を見せないでー! 心が痛くなるからっ!
そんな様子を見せられると俺は――。
「はー、野菜うまぁ! やっぱおやつは野菜だよなぁー! ガチャ!」
「ヴェルデ様、それはガチャ様の!」
ガチャの皿に盛られた野菜を一気に口に押し込んだ。
お野菜美味しい。美味しいよ、ガチャ。
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