第32話 探索者デビュー


 探索者となって2日目。



 昨夜から今朝にかけては、アスターシアとの間にいろいろと問題が発生したが、とりあえず問題ない形でおさまったと思いたい。



 発生した問題は寝室問題だ。



 アスターシアは節約のため、1部屋でいいと言い、一緒の部屋で寝ようという提案をされた。



 俺としては同じ部屋で寝られると、落ち着けない気がして断りたかったのだが……。



 グイグイくる彼女の勢いと生活費の節約という圧に押され、ベッドにはガチャとアスターシア、寝袋の俺は床という妥協案を出した。



 それで万事問題なくと思ったわけだけど、目覚めたら先に起きていたアスターシアが、俺の頭を膝枕してたわけで。



 いろいろと朝から心臓に悪いイベントをこなしている。



 あと、朝飯を食ってる時に発覚したのだが、ホーカムの街にいる探索者は俺たちを含め、あと1名しかいないらしい。



 半年ほど前までは、それなりに若い駆け出し探索者が低ランクダンジョンで経験を積むため、街にいたらしいのだが、国が高ランクダンジョン攻略優先の施策を打ち出したことで、ほとんどいなくなってしまったそうだ。




 リアリーさんがヴェンドの街に出張してたのは、若い駆け出しの探索者が多数集まる探索者ギルドで、ホーカムに来てくれる依頼を受けてくれる探索者を探しても集まらず、諦めて帰る途中、俺たちにあの停留所で会ったと話してくれた。



 馬車旅の時にヴェンドの街に来てた理由を聞いてたが、店の仕事の都合で来てたと言ってたから、嘘は言っていないわけだ。



 てなわけで、ホーカムの街は探索者不足。



 ダンジョン主が討伐されず放置された低レベルダンジョンが大量繁殖しているそうで、溢れた魔物が周辺の村々で悪さをしているって話。



 そして今俺たちはリアリーさんから渡された地図を片手に持ち、初めてのダンジョン探索依頼を遂行中だった。

 


「これが草木の迷路型Gランクダンジョンってことか?」



「たぶん、そうだと思います。メモに書かれてる目印の木もあそこにありますし」



 アスターシアが指差した先に、目印の巨木が見えた。



 ここで間違いなさそうだ。



「よし、これよりダンジョン探索を行うとしよう。その前に装備を確認」



「はい!」



 ガチャも元気よくレバーを回して応えた。



 それぞれダンジョンに入る前、リアリーさんから格安で譲ってもらった装備を確認していく。



 俺は衣服の上に金属製の部分鎧を着込み、革のロングコートを着込んでいる。



 アスターシアは、メイド服の上にレザーベストと小さなラウンドシールド、ライトメイスを武器とした。



 戦わせる気はないし、物理的な攻撃であれば、プロテクションシールドがあるので、ある程度は守られるはずだ。



 ダンジョン内では、ガチャの世話係としての力を期待している。



 そして、ガチャはリアリーさんが見繕ってくれた探索犬用のハーネスを付け、背中におやつを入れた小さなバッグを背負ってとても可愛い! うん、可愛いのだ!



 あと探索に必要な物資を入れる荷物バックに関しては、リアリーさんには馬車の旅の時、父親から餞別として魔法の袋をもらったとして空間収納スキルのことを誤魔化してある。



 魔法の袋は容量によって値段がかなり違うらしいが、ダンジョンから産出するアイテムのため、わりと流通してる物らしい。



 おかげで、ただの布袋に手を突っ込み、空間収納から品物を取り出しても不信感は抱かれなかった。



 俺が持つ空間収納スキルがあるため、身体一つで探索を行えるのは、とても助かっている。



「準備いいか?」



「問題ありません」



「じゃあ、入っていこう。俺が先頭。アスターシアはガチャを頼むな」



「はい、承知しております。ガチャ様こちらへ」



 ガチャは俺の足元から、後ろに続くアスターシアの方へ移動する。



 俺たちはダンジョンの入口の目印になっている巨木の洞を抜け、草木の迷路型Gランクダンジョンに突入した。


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