第28話 ホーカムの街の探索者ギルド
馬車での3日間の旅は、本当にいろんなことを知れたし、ここが異世界であるということを知れた。
月はネーンベルンとキーセレヒという二つが存在し、満月の夜はかなり明るいことを知れたし、空には『浮遊石』と呼ばれる重力に反発する特性を持った石が浮かんでいることも知れた。
特に驚いたのが、俺たちが今いる『クルリ魔導王国』は、300年ほど前まで空中浮遊都市だったことだ。
450年ほど前に『渡り人』が、世界中の『浮遊石』を集め、
創造主の死後、150年ほどは子孫の力でなんとか技術継承ができたらしい。
だが、それも代が進むと途絶え、メンテナンスがされなくなった空中浮遊都市は、地上に落下し、周囲に甚大な被害をもたらしたと聞かされた。
落下した際、空中浮遊都市内でも民衆蜂起が起き、『渡り人』の子孫であった王族は追放され、今は『渡り人』とは血縁関係のない王が『クルリ魔導王国』を統治しているそうだ。
自分の欲望を満たすため、ヤベーもの創り出した『渡り人』が、この世界から嫌われているのも納得だった。
俺も力によって暴走しないよう気を付けないとな。
「ヴェルデ君、聞いてるのかしら?」
「ヴェルデ様」
呼びかけられた声で、ふと我に返る。
「え、ええ聞いてますよ。まさか、リアリーさんのやってる店が、ホーカムの街の探索者ギルドだったとは思いもしませんでしたよ」
馬車の旅を終え、ガチャを気に入ってくれたリアリーさんが、店に寄ってくれと言われたため、後をついて訪問した先が探索者ギルドの看板を掲げていた。
もともとこの街で探索者登録するつもりだったから、手間が省けたというわけだが。
ギルドマスターって、普通いかついおっさんかと思うじゃん。
品のいい老婦人がギルドマスターとかで、この探索者ギルドは大丈夫なんだろうか?
「まぁ、片田舎の小さな探索者ギルドだからねぇ。私みたいなのでも、ギルドマスターをやらせてもらっているのよ。さぁ、これでよし。2人も入って、入って、ご飯まだでしょ? 探索者ギルドのついでに宿も酒場もやってるし、ご飯を奢るから食べてってちょうだい」
「ヴェルデ様、お招きを遠慮するのは失礼かと……」
「は、はぁ、じゃあ、遠慮なく」
ガチャの足を拭き終えたリアリーさんに手招きされ、アスターシアとともに探索者ギルドの中に足を踏み入れる。
周囲を見ると、お昼過ぎということもあり、建物の中に探索者らしい姿をした者はあまりいない。
この時間だし、みんなダンジョン探索に行ってるのだろうか?
残ってる人は、年寄りがほとんどの気がするが――。
酒場や宿も兼業でやってると言ってたから、今いるのはこの街の住民とか、旅商人とかかな。
夜は、夜でまた違う様子になるんだろうな。
「ヴェルデ君、荷物はそこのカウンターに置いてもらえるかしら?」
「あ、はい。置いておきますね」
停留所から背負ってきたリアリーさんの荷物をカウンターの上に置く。
「本当にありがとうね。意外と重たい荷物だったから、ヴェルデ君がいてくれて助かったわ」
「こっちこそ、ガチャがとってもお世話になったので助かりました」
ガチャは、トコトコとリアリーさんの足元に行くと、撫でて欲しそうに身体をすり寄せた。
「あらー、ガチャちゃんは可愛いわねー。撫でて欲しいの? でも、ちょっと待ってね。ご主人様と一緒にそこのテーブルで待っててね。ご飯を持ってくるから」
ご飯と聞いたガチャのレバーが激しく動く。
さっき、おやつと称したものをリアリーさんからもらってた気がするが……。
「ささ、2人ともそこのテーブルで座って待ってて。ウェンリー、帰ったわよ。お客さんいるから、お食事の準備をしてー」
リアリーさんは、カウンターの奥にあるキッチンの中に消えていった。
ガチャがテーブルに腰を下ろした俺の膝に昇りたそうに、足もとに寄ってきた。
「大人しく待ってないと、ご飯もらえないからなー」
抱え上げてやり、膝の上に乗せると、器用にテーブルの上に前足を置いて大人しくなる。
さすがガチャ、賢いぞ! はぁ~、いい子、いい子だ!
大人しく食事がくるのを待っているガチャの身体をわしゃわしゃ撫でてやった。
「ヴェルデ様、お楽しみのところ申し訳ありませんが、リアリーさんとお知り合いになれたのも何かの縁なので、この街で探索者登録をいたしませんか?」
対面に座ったアスターシアが、探索者登録の話を切り出してきた。
リアリーさんと一緒に旅をした中でも、俺たちは探索者志望であることを打ち明けているし、この辺は低レベルダンジョンがほとんどらしいから、探索者としての基本の経験を積みやすいとも思っている。
それにギルドマスターのリアリーさんが、うちのガチャを気に入ってくれてるのもポイントが高い。
ガチャが好きな人に悪い人はいないからな。
このホーカムの街でしばらく探索者をして、生活の資金と経験を積むのに異存はなかった。
「ああ、それがいいな。アスターシアも一緒に登録するんだろ?」
「はい、ヴェルデ様の足手まといにならぬよう頑張ります」
「こっちこそ、いろいろと日常生活では世話になっているからお互い様だ」
俺の言葉に照れた様子を見せるアスターシアだが、日常生活では本当にお世話になっている。
貴族の子弟であると称しているため、着替えや食事作りはメイドである彼女の領分になっているし、リアリーさんとの雑談話の中でも、様々なフォローをしてくれたのだ。
献身的に支えてくれるアスターシアであるため、お金が稼げるようになったら、いろいろと報いてあげたい。
「何か、わたしの顔に付いておりますか?」
「あ、いや。なんでもない。問題ない。問題ないぞ。うん、問題ない」
「そ、そうですか」
アスターシアから視線をそらすように、俺は下を向いて、ガチャを堪能することにした。
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