第21話 取引
「ところで、あんたの名前は?」
「……シア……。シアと申します」
こちらの様子を窺うように男は自分の名前を答えた。
「シア、俺の問いに答えろ。探索奴隷とはどういう意味だ? 俺は異国からの旅人で、この国の内情に疎い」
俺の質問にシアの顔色がサッと変わる。
聞かれたくない話だったか? それとも、デキムスと同じく変な質問をして俺が『渡り人』だと気付いたか……。
まぁ、でもプロテクションシールドで物理攻撃は弾けるから、シアに襲われても制圧はできるはず。
シアが豹変して襲ってきた場合に備え、いつでも制圧できるよう密かに体勢を整える。
「……質問にお答えします。探索奴隷とは、奴隷となった者を探索者が奴隷商から買い、荷物持ち、ダンジョンのトラップ除け、魔物との戦闘時の囮といった形で連れ歩く所有物です」
予想していた通り、探索奴隷は肉壁とか雑用係って感じの扱いなんだな。
それに、制度として奴隷が認められているわけか……。
「では、お前はなんで探索奴隷になった?」
こちらの質問にシアの顔はさらに曇る。
「言いづらいなら、言わなくてもいいが……」
「……いえ、問題ありません。お答えします。交易商人だった両親とともに仕事で訪れていた村が、奴隷商の人狩りに襲われました。その際、わたしも捕らわれて奴隷にされました」
マジか……。奴隷商の人狩りが横行するくらい治安が悪いのかよ。
「家族とかは?」
「襲われた際、両親は死んでいます。兄妹はおりません」
シアは青い顔をしながらも、こちらの質問に素直に答えてくれる。
「領主の軍隊とか、国は人狩りをする奴隷商を討伐しないのか?」
「この国では黙認されることが大半だと思います」
今いる国が特別ヤベーのか、他の国も同じなのか、判断はできないが、とりあえず治安はよくないらしい。
召喚された『渡り人』の俺が、元の世界に帰れるかも分からないし、できれば治安のいい国で安心できる生活を送りたいところだが……。
「ご主人様に質問はよろしいでしょうか?」
今後の行動に関して考え込んでいた俺に、シアが話しかけてきた。
「ご主人様はやめてくれ。俺の名はアオイだ。質問に答えるかは内容次第だ」
余分な質問に答えて、俺が『渡り人』であるとシアに知られるわけにはいかないからな。
デキムスの前例もあるので、素性は隠した方がいいはずだ。
「承知しました。では質問させてもらいます。アオイ様は『渡り人』ですよね?」
とっさに外套の中に吊っている短剣を引き抜き、シアの首筋に突き付ける。
俺の膝の上でウトウトしていたガチャが、びっくりして飛び起きた。
ガチャは状況が分からず、俺とシアの顔を交互に見て、おろおろしている。
「ガチャ、俺が『渡り人』だって、こいつにバレた!」
ガチャは激しくレバーを回して驚いた様子を見せた。
「そちらの探索犬は、ガチャ様と言われるのですね。とても愛らしく、賢そう」
俺に剣を突き付けられたシアは怯える様子を見せず、言葉を理解する賢さを見せたガチャを褒めた。
「黙れ! それ以上喋れば命は――」
シアは短剣を突き付けている俺の手を握ると、強い意志の籠った瞳をこちらに向けた。
「『渡り人』であるアオイ様にお願いがあります。『渡り人』に与えられる世界を越えた
「……」
「アオイ様は、とても強い力をお持ちのようですが、この世界のことをほとんど知らないようですし、わたしがお助けした方がいろいろと問題を起こさずにすむはず」
確かにこの世界の常識が俺には全くない。
上手くデキムスたちから逃れても、また常識知らずな話をして、『渡り人』だとバレたら今度は別のやつらに追われることになるか……。
そんなことにならないよう、シアが俺の異世界生活をフォローをする代わりに、自分を助けてほしいという条件を持ちかけてきている。
シアも逃亡した奴隷として追われる身だから、戦闘力のある俺の力を欲しているというわけか。
目的は合致しているが、能力的に足手まといになるかもしれないし……。
シアの能力を鑑定してみるか……。そこで、提案を受け入れるか、断って逃走するか判断しよう。
「シア、まずはお前の全てを見せろ。提案に乗るかはそれからだ」
「……っ!?」
短剣を鞘にしまった俺は、シアに対し鑑定を発動させる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます