第19話 袖振り合うも他生の縁


 木々が密生した森の中をガチャを抱えて駆ける。



 緑が多すぎて方向感覚が全然掴めないな。



 日の光はあるから、まだいいけどさ。



 夜になったら、むやみに動かない方がいいかもしれん。



 それにしても、現地人とのファーストコンタクトが大成功かと思ったら、『渡り人』判定されて害虫扱いとはな……。



 夢でないことも確定したわけだし、スキルガチャという強力な力が与えられるわけだが、死んだらマズいってわけだ。



 それに俺の素性をデキムスには知られたわけだし――。



 黒目黒髪の日本人である自分の素性を隠さないと、この世界では『渡り人』判定されて危ないって話だよな……。



 このミッション難易度高くね?



 召喚された先の異世界での自分の扱いが酷いことが判明し、俺はやるせない気持ちになった。



 抱えているガチャが、そんな俺を心配してくれたのか、レバーを回して慰めてくれる。



「さんきゅ、ガチャ。俺はお前がいてくれるだけで幸せだぞ」



 んっ!? 話し声?



 人の声が聞こえた俺は走るのをやめると、抱えていたガチャを下ろし周囲の気配を探る。



 地面に下りたガチャも、人の気配に気付いたようだった。



「使えねぇゴミだな。レア特性持ちでしかも格安だったから買ったが、なんの役にも立たねぇ」



「ケチるから、こんなゴミみたいな死にかけの奴隷を買わされるんだよ。馬鹿が」



「お前だって、楽できるって言っただろうが! クソ! 役に立たねぇ探索奴隷ごときが、オレたちの手間をとらせるんじゃねえ!」



 声のする方に視線を向けると、重装の鎧を着た戦士っぽい服装の男と、杖を持つ魔術師っぽい服装をした男が、首輪を付けボサボサの茶髪をした大柄なおっさんを囲んで暴行している場面が飛び込んでくる。



 あのおっさん、首輪を付けてて奴隷っぽいが、体中に青あざや腫れが見える。ずっと暴行されてたのか?



 うずくまって暴行を耐えている壮年の男の視線が、こちらを向いた。



 殴られて腫れた男の眼が、驚いたように見開く。



 まさか? こっちが見えてるのか!? 嘘だろ!? 影潜りの外套で姿も気配も分からないはず!



「ちっ! お前のせいで無駄な時間をとった! このノロマがっ! 遅れたらオレらがデキムスさんに叱られるんだぞ!」



 こいつら、デキムスの仲間かよ。おっさんが、金で買われた奴隷だとしてもひどい扱いしやがって。



 見てるだけでも、吐き気がするぜ。



「死にかけのお前は、これから潜るA級ダンジョンで、使い捨てのトラップ除けくらいにしかならねえしな!」



 うずくまって丸まったままの壮年の男は、暴行している男たちの言葉に反応せず、ジッとこっちを見て涙を流し始める。



 壮年の男の口が『助けて』と動いた時、身体が勝手に動いた。



「あークソ! 助けてやるよ! 助けりゃあいいんだろ!」



 物理攻撃はプロテクションシールドで弾けるし、先に魔法使いみてーな格好してるやつを倒した方がよさそうだ。



 姿を潜めたままだった俺は、魔術師っぽい格好をした男に駆け寄ると、キックを放つ。



「ぶべらっ!」



 男はキックを受けて反対側の木まで吹き飛び、ガクリと地面に倒れた。



 奇襲攻撃により、外套の効果が切れ姿が露出する。



「だ、誰だ――」



「さあな。通りすがりの一般人だ!」



 相手に反撃させる暇を与えず、戦士っぽい格好の男に間合いを詰めると、連撃スキルを発動させキックを再び放った。



 綺麗な重装鎧にキックによって大きな凹みができ、男はその場に崩れ落ちる。



「おげぇ! クソ……何もんだ……おめぇ……」



「ただの一般人だって言っただろうが」



 キックを食らった男たちは、2人とも気絶して倒れた。



「うしっ! あとはこいつを回復させて」



 倒れている壮年の男に、ヒーリングライトを発動させる。



 暴行による傷が、見る間に癒えていく。



「うぅ……」



「骨折とか、内臓損傷のダメージは回復しないからな。まだ痛むと思うが、我慢しろ! とりあえず、安全そうな場所までは運んでやる!」



 壮年の男は微かに頷くと、まだ完全に癒えてない口を開いた。



「あ……あ、ありがと」



「別に感謝なんかいらない。ほら、首輪も壊す」



 慎重に短剣を使い、男の首に巻き付いている革の首輪を断ち切る。



 首に張り付いたままの革の首輪の残骸を投げ捨てた。



「それにお前には聞きたいこともあるからな。よし、応急処置は完了。ガチャ、悪いけどこいつの近くで様子を見といてくれ」



 俺の声に大人しく隠れていたガチャが駆け寄ってくる。



 壮年の男の前に来るとレバーを回して歩きながら周囲を警戒し始めた。

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