ワンデリングス 鬼の首 2
菜月 夕
第1話
ワンデリングス 鬼の首 その二
「ママ」私は泣きながらすがろうとした。
東名高速の突然の事故。おかあさんは血まみれでハンドルに挟まれ、身動きもままならない。
苦しそうな息のもとに「あなただけは逃げて。私の首飾りを取って」
私も少し怪我をして血が出ていた。おかあさんの胸元から首飾りを取り、そこについた勾玉に私の血がついた。そして私は全てを思い出した。
一緒に巻き込まれた車からは火が上がってこちらに迫ってくる。
わたしは泣きそうな自分とすべてを知った自分の記憶にとまどいながら、それでも冷静な自分が車のウインドウを開けてうまく脱出して火を避けて道路の安全地帯に座り込んだ。
「そうか、君も母親を亡くしたのか」
「悲しかったけど、これを着けた時に母の記憶も私にありましたからね。
私は歴代のこの”頭”の呪具の記憶を持ったんですよ。
まだ、その時の私は幼かったしその心の調整に少し時間がかかったけれど、母の葬式には未だ心の整理がつかないのだろうと周りも私に遠慮していましたし、丁度よかったのですよ。
問題は父との関係でしたね。一応、あの人とヤッた記憶も持ってましたので。
その後の生活でも母の記憶で父をみたり、行動してしまうのでなんとなくお互いに気まずい所がありましてこの春にこちらの女子校の寮住まいしてたのですが、あの時は故郷の祀りもあったので寄っていたのです」
彼女・月読はるかは事務所を我がもののように佇まいながら私にコーヒーを差し出し、自分の事を話していた。
「寮での生活も私と言う存在が少し浮いていまして、寮費も浮くからここでバイトするから使わしてね」
ニコっと微笑まれたら背筋にざわっとしたものを感じる。
歴代の記憶を持っている年月の深みもあるし、あちらが頭のせいか苦手意識しかでてこない。
「俺だって暮らしているんだぜ。外聞もあるし、女の子としてどうよ」
「あら、大丈夫よ。この身体は未経験だけと、すでにその手の経験は男の方も女の方もあるし、これの力を得てからは肉体の鍛錬の記憶もあるからその手の修業もしてるしね」
「男も女もって」
「ホルダーが男だった時も女だった時もあるしね。男の生理もしってるわよ」
あまり聞きたくなかった情報だ。元・男とヤル気になれるかとか微妙だ。
いかに今が美少女でも、だ。
「そうそう、貴方が調べた鬼の首伝説だけどね。
私の記憶ではホントは少し違うのよ。
大江山のオニは確かに旧い神がよみがえって、神と認めたらそれに縋る人々の力も得てしまう。そこで異国(とつくに)では蘇った死者をオニというのに因んでそう呼ぶ事から呪いが始まっているの。
そして天子の配下の源様が配下6人がそれぞれ呪具を持ってオニの力を封じながらやっと倒したの」
「うん? 確か鬼退治は全部で6人だった筈だが」
「記録から消された七人目が居たのよ。彼は封じた呪具の力に魅入られたのね。オニの力も討伐した直後で強かった。
その力を使って討伐組の呪具の3つを奪って逃げたのよ。
それがオニの首が飛び去った、という謂れにもなったんだけどね。
お陰で残った呪具も奉納できず、逃げた呪具の探索と封印に回る人になって、呪具を出した公家衆とのいさかいの種にもなって公家の世界から武士の世界への戦いになっていった。
きっと、その戦いもオニの呪いの一部だったのかもね」
「戦いが続いて頼光様の死とともに封じていた筈の呪具もホルダーが所持していなかったものは逃げてーワンデリングしたことで本格的な戦国時代になっていった。
そこから頼光様の魂でオニの力を縛る祀りが行われたけど、その力も百年毎に弱まるので私の歴代たちが呪具を探しつつ来たのだけど、今年は丁度千年忌。よりオニに惑うホルダーが現れる。
私も寝ている時は神棚に奉納しているけど、あなたもそうした方が良いわ。
ずっと着けたままでいるとオニの気に惹かれるわよ」
「それは知らなかったよ。つけたままだと匂いがうるさくて仕方ないので母を思い出して寝る時は神棚に入れて拝んでいたよ」
「私達、耳と鼻と頭はパッシブだからオンオフが難しいからその傾向があるみたいね。
良かったわ」
「それにしてもその制服。聖心女子校じゃねぇか?
お嬢様学校だろうが! こんなとこに住むなんて」
「あら、私に勝てる人が居ると思う? これを授かってから鍛錬もしてるわよ。
いつか敵対したり、悪用したりするホルダーがいるかも知れないし、戦闘の為の記憶も持っているからこうみえてもかなり強いのよ」
彼女は艶然と微笑んだ。たしかに勝てる気がしない。
俺はため息をついた。
ワンデリングス 鬼の首 2 菜月 夕 @kaicho_oba
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