いっこふえる少女
友真也
第1話
「「あついー」」
夏休み、晩夏。
私は友人である
蛹は私の親友で、二年前の四月に東京に来た関西からの転校生。
容姿は羨ましいほど大きな目にハーフみたいに高い鼻、肌は陸上部の練習によって少し焼けている、締まった体のかわいいスポーツ少女って感じ。
専門は四百メートルで、チームのエース。
関東大会出場も狙えるという話。
髪型は肩にかからないくらいで運動に邪魔にならないようにしている。
服装は祭りに合わせて和装をしている、というわけではなく、私と同じ白い半袖Tシャツに、ジーンズみたいなオーバーオールを着用している。
いわゆるペアルック。
今は首元にヘッドフォンみたいな扇風機をかけていた。
ぐるぐると通りに並ぶ屋台を見回る。
今は光がとっくに沈み、月が幅をきかせるようになってきた頃合い。
私は、祭り特有の、人と炎が混ざったような空気と匂いが好きだった。
学生や仕事終わりの人など、多くの人でごった返す中、はぐれないように蛹といつものように手を繋ぎながら行動する。
「これ、ええやん!」
蛹は何かを発見したのか、私の手を引っ張り歩みを早めた。
そしていきなりピタッと止まると、私はここが吐き気がするほど長い列の最後尾だと知る。
せっかちな私にとっては普段は少しこの時間が苦痛なのだが、意外にも関西出身でありながら蛹はレストランの順番待ちや、道路の渋滞も笑って過ごす。
ただこの時間が嫌いな私も、彼女といる時はこんな時間さえ愛くるしく思えた。
残念なことに私の身長は彼女の肩ほどしかなく、野球観戦の入場待ちのような長い列のせいで、屋台の詳細が見えなかった私は蛹に質問をする。
「何売ってる?」
「レインボーわたあめや‼︎」
晴れやかな笑顔で私に向かって言い放った。
「これ、何円するの?」
蛹は質問にハキハキと答える。
「さっき屋台の上の方見たら、千円って書いてたで。」
「ぐ、なかなかの出費……
新しいヘアアイロンが遠のく……」
「何円に抑えるつもりしててん、今日」
私より十五センチくらい高い背だからこそ蛹は価格が見えたのであろう、私には何を売ってるものかさえよくわからなかった。
わたあめか。
好きなんだけどな。
正直、近くにもっと安いそれを売っている店があるのを知っていると、少々躊躇してしまう値段ではあった。
しかし、蛹は最前列の男の人が買ったわたあめのサイズが、まるでギャグ漫画のアフロキャラみたいなサイズだったからか、蛹は食べ切れる自信がないのか、はたまたアスリートだから糖質の心配をしているのか「じゃあ割り勘して半分こしよか!」と言う。
もちろん私もそれに賛成した。
「なんやこれ、詐欺やろ!」
彼女がそう言うのも無理はない、先ほど見たものとはあまりにも大きさが違っていた。
先ほどがギャグ漫画のアフロみたいなサイズなら、これは小ぶりなブロッコリーと言ったところ。
店員は女性、さっきの人は端正な二枚目……まさかね。
ただ、少し気分が乗らないさまを見せた私が悪いのも事実。
私がこんなことを言っていなかったら、二個買っていたかもしれない。
私たちは少し人混みから離れ比較的閑散とした広場へと移り、インスタグラム用に二人でわたあめに齧り付く様子を、カメラを置いて撮影した。
蛹にその気はないだろうが、一緒に映るとまるで私が彼女の引き立て役みたいで少し複雑になる。
なんか人生って不公平だよね。
良いこともあれば悪いこともあるはずなんだけど。
人生はプラスマイナスゼロだから。
しばらくすると、蛹も落ち着いたようで、苦笑しながら「買ってしまったもんはしゃーないな」とつぶやく。
「ごめん!
私があんなこと言わず二個買っておいたらよかった。」
「いや、ええねんええねん。
一番悪いのは店員や。
その次うちで、最後が
菫。
私の名前だ。
好きでも嫌いでもない。
私たちは商店街をぶらりぶらりと歩きながら、再び元の場所へと戻ろうとする。
しかしその途中、蛹は視界の端にあるものを見つけた。
「なんやこれ、神社?」
目の前にあったのは荒んだ鳥居がポツリと立っていて、掲げられた名前はもはや消えて何も見えなくなってしまった神の社。
今も使われているのかはわからないが、参道はきちんと整備されているので参っている人もいるのであろう。
しかし、一つ言うことがあるとすれば、この地域に十六年住んできたきた私でも、毎年この祭りを楽しんでいた私でもこの場所は知らない。
ここは一体なんだ?
奇妙な面構えの神社が、私たちを踊るように手招いている気がした。
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